僕のアイドル人生詰んだかもしんない ~ 転校生は僕の運命の歌い手?! 色気あるバリトンからハイトーンまで……アイドル底辺からの下剋上の歌 ~
第19話 ……本当の気持ちなんて、こんな文字でわかるもんじゃないだろ?
第19話 ……本当の気持ちなんて、こんな文字でわかるもんじゃないだろ?
スマホを取り出し、トレンド欄を見せてくる未彩をめんどくさそうにすると、「自身のことなんだから、見ろ!」と叱られた。
さすがに、もうないだろうと思っていたが、半日経った今でもトレンドに上がれている有名人は僕です! と、誰かに言いたくなるほど、長い時間、僕の名前は有名になっていた。
「検索とかする方だっけ?」
「たまにするかなぁ? 期待はずれとか言われるの、傷つくから避けて通ってるときもあるけど、新曲発売とかの近くは見てるかなぁ?」
「今回もする?」
「わからない。どんなこと書かれてるか、想像できるからさぁ、怖いよな。CDの感想とか書いてあるのは読みたいんだよね」
「タグ使うようにしたら? 検索したとき、わかりやすく」
「なるほど」と頷いて、小園にメッセージを送っておく。好きに使っていいと言われているSNSではあったが、人間不信になりそうなくらい、今は息がつまりそうだ。
アプリを開こうとしたとき、スマホに影がかかる。未彩だとわかっているが、手元が暗くなったので、下がってくれと頼もうとした。不意に頬にかかる髪、耳元で僕にしか聞こえないように「俺たち親友?」と囁く未彩に驚き、耳を押さえて後ろに椅子ごと飛び退いた。
「そんなに驚かなくてもよくない?」
「失礼なっ!」とちょっと怒ったように目尻をつりあげてはいたが、その瞳は試すように僕を真っすぐ見返していた。
「いや、だって……未彩? 近いよ、流石に」
そう言ってため息をついたとき、未彩がボソッと呟く。
「……聞こえないけど?」
「何でもない」
あっけらかんと未彩は、僕に返事をしたけど、その言葉は僕の耳に届いていた。聞き返したとしても、未彩は同じことを言わない気がしたので、お互い誤魔化したのだ。
『葉月とは、すげぇー距離近かったのにな』
未彩が言った意味はわからない。言葉どおりなのか、他に意味があるのか。どうして、そう感じたのかも。
ただ、言葉どおりだったとして、指摘されたことを考えてみる。
陽翔とは、朝も隣を歩いていたし、昨日も髪を乾かしたりじゃれたり、ご飯を一緒に食べたりした。
よくよく考えてみれば、今までマンションに家族や小園以外を入れたことがなかったのに、初めて会う陽翔を部屋に入れただけでなく、泊まらせたのだ。お互い幼馴染みたいだって言い合ったけど……と、今までの僕とは違うことをしている自覚が芽生えた。
ガタッと立ち上がる。考えごとをしているうちに未彩は席に戻り、授業になっていたらしく、先生が咳払いをする。
「そんなにやる気があるなら、如月に問題だ」
「えっ? 困る!」
「いいじゃないか? 積極的で。じゃあ、5行目に書かれているこの女生徒の心情を述べよ!」
慌てて視線を落とし、教科書を開く。隣にページを聞いてバタバタとしていた。
……タイトルが『初恋』? そんで、この子がヒロイン? で、そっと見つめる先に想い人と親友?
何? 三角関係? 泥沼系? 授業でやっていいのかよっ!
頭の中を駆け巡る言葉をそのまま言いそうになり、口を噤む。
「まだか?」
「待って、まだ、ちょっと……、このヒロイン? マチコ? は、この先輩に想いを寄せていることを……自覚して? 先輩と親友が仲良くしていることにモヤッた?」
「……なんというか、独特な感性だと思うが、だいたいあっているだろう。この物語は、マチコの心情がありありと書いてあり、恋がこんなに苦しいものであるか痛い胸をだな? まだ、何かあるのか?」
座っていいと言われてなかったので、立ったままだった僕を見て先生が首を傾げる。
「いえ、何も。座っていいですか?」
「授業、ちゃんと聞くんだぞ?」
「はい」と返事をし椅子に座り、今の一節をもう一度指でなぞる。
……本当の気持ちなんて、こんな文字でわかるもんじゃないだろ?
とんでもなく書かれた心情とやらが滑稽に見えてしまい、嗤ってしまった。
マチコの心情とやらに同調したわけではないが、ぼんやりと僕の人身のことを考えた。上っ面だけやその場しのぎの友人はそれなりにいる。こんな世界の住人だから、いろいろと絡んでくる付き合いだけの方が多く、薄っぺらいものだ。マチコの心情とやらが崇高なものならば、僕なんて何にもなれていない。そんな中、昨日出会ったばかりの陽翔だけは違う……そんな感情があり、また、不思議な感じがした。
「現国のさ、『初恋』っていうやつの五行目、ヒナはどう思う?」
スマホを取り出し、素早く打ち込み、送信する。もちろん、僕の回答は入れずに。
「昨日、やったとこだ。どうって? 三角関係とか?笑」
「そう。僕、あたっちゃって……」
「あたるって……そんなところ、問題にもならないだろ?」
「それが、なったんだよ。考えごとしてたから、焦った……」
「考えごと? 何?」
「ヒナをマンションに連れてったこととか? 今まで、家族とか小園さんしか入れたことなかったからさ」
「おっ? 俺が初めてですか? 今朝の……霜月だっけ? 仲良さそうなのに」
「未彩な。仲はいいけど、休みの日に会うかって言ったら、そーでもないなぁ。そういや、親友だよな? 的なこと言われたわ」
それからしばらくして、チャイムがなり授業が終わる。朝からわりとぼんやりしていたので、スタジオでも寄って帰ろうかと考えていたら、さっきまでメッセージのやりとりをしていたはずの陽翔が、カバンを持って入ってくる。
朝もいたので、みな、陽翔のことを気にすることはなく、それぞれ帰っていく。
「湊、今日ヒマ?」
「今日は、空いてるけど、何?」
「朝の!」と言われたので、一曲通しで見せることになってたことを思い出し、「今日?」と聞けば頷く。未彩も帰らず、近寄ってきたので、時間あるならと話をして、三人で青空ステージに向かうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます