僕のアイドル人生詰んだかもしんない ~ 転校生は僕の運命の歌い手?! 色気あるバリトンからハイトーンまで……アイドル底辺からの下剋上の歌 ~
第9話 少し、急いでいるので……葉月くんをお借りしたいのですが、いいですか?
第9話 少し、急いでいるので……葉月くんをお借りしたいのですが、いいですか?
「どこに足やってんだ!」
「どこって……まぁ、逃げられないように?」
陽翔より身長が高い分、股間の下で壁に膝をついて逃げられないようにしているわけだが、膝を避けるように背伸びをしている。
「逃げないから、足だけでも退けてくれ」
本当に逃げないか、信用していいのか判断に迷ったが、これ以上、嫌われるのはと思い足を下げた。ホッとしたような表情を一瞬したあと、睨み上げてくる。
「何だよ? 退けただろ? 次は解放しろってこと?」
「わかってるじゃねぇーか! だったら……」
「しないよ。解放なんて。話を聞いてくれる約束だ」
さっきとは違い、しつこい僕に仕方ないとため息をついた陽翔。
やった! 僕が勝ったね。まだ、やれることはあったけど、よかった。
「話ってなんだ? あぁ、その前に職員室行かないといけないから……スマホ貸せ」
言われた意味が繋がらなくて、きょとんとしていると、ズボンのポケットを弄るように手を突っ込んでくる。
「な、何してんるんだ!」
「何って、何してるように見える?」
あちこち触りながら、「ないなぁ……」と呟いている。目的の何かに当たったようで、「よしっ!」と聞こえてきた。
「まさか、俺が壁ドンされる日が来るとはなぁ……」
不服そうに文句を言いながら、ポケットの中から出してきた僕のスマホを見ていた。パスワードのかかっている僕のスマホを開くためにこちらに向けてくる。顔認証で開いたスマホの電話ボタンを押して、番号を押していく。あっという間の出来事だった。
「ほら、番号を入れておいたから、後で連絡する」
「えっ、でも、」
「約束は守るさ。だから、そろそろ解放してくれ。心配なら、今、鳴らせばいいだろ? 俺、今、持ってないけど」
ソワソワしている陽翔が、視線をあちこちに向けている。今まで、人気が少なく気にしてなかったけど、どうやら、追いかけっこをしている間に人がいる場所まで来てしまい、チラチラと視線が集まってきているようだった。
「……わかった。電話待ってる」
陽翔から離れれば、解放されたと体のあちこちをパキパキと鳴らしていた。いつのまにか集まっていた生徒のヒソヒソ声も収まったことで、安堵したのか、足早に去って行く。
「よかったのかな?」
陽翔の後ろ姿を見送り、なんとも言えない気持ちになった。
連絡は来るだろうか? こなかったら、どうしようか?
悪い方向に考えながら、教室に戻った。俯いていた僕に探してくれていたらしい未彩が声をかけてくる。適当な返事をして、さっきの歌声を思い出していた。透き通るようなハイトーンから聞きやすいバリトン。どの音域も綺麗で、ずっと耳に残っていた。
「……僕の歌、歌ってくれないかな?」
発売されたばかりの曲を口ずさむ。122位と評価されたその曲は、これ以上、順位を上げることはないだろう。雑誌や広告、店先に行ったり、握手会をしたり……。化粧品のCMにもなって話題になったのに、売れない。自分が考えられらることは全てしてきたつもりだったのに。声にならない叫びを空いっぱいに叫んだ。
「いきなり叫ぶなって!」
教室に戻ってきていた僕らは、席に戻りぼんやりした。僕の机にほうづきしながらさっき突然教室を飛び出していったときの話をしていた未彩が「聞いていないのか?」と迷惑そうにこちらを睨む。「悪かった」と謝ると「いいけど?」とため息をついた。
「湊、さっきから、湊の話してるのに、聞いていなかっただろ?」
「あぁ、考えごとしてた。今、僕、マジで崖っぷちで、ちょっと昨日からいろいろあったもんで」
「へぇー何があったか知らないけど、コレ確認しておいたほうがいいぞ? あと、マネに電話」
さっきから、やたらみられると思っていたら、とんでもない写真がSNSにあがっていた。驚きのあまり、目を見開き、未彩のスマホを取り上げて思わず立ち上がった。
「何だよ、これ! ……って、さっきのじゃん!」
「だから、さっきから聞いてるのに、何にも答えてくれなかっただろ?」
抗議するように未彩はブツクサ言っているが、それどころじゃない。この学校には、ルールがある。芸能コースがあるが故に作られた校内で僕たちの撮影を禁止するという。守られているわけではないが、ある程度、節度ある範囲なら許されていた。
節度とは……まぁ、こっそりデータに保存くらいのものだ。SNSにあげるのだけは、タブーである。普通の学生生活を送るためのルールを誰かが崩して、拡散されていく。みるみるうちに観覧数は増えていき、瞬く間に見たこともない数字になっている。
「大丈夫か? これ、相手は湊でわからないようになってるけど……」
ハッとした。この学校で、違う制服を着ているのはただ1人。何かあるとまずい……。
震える手でスマホを取り出し、小園へ電話をする。すぐに出てくれ、何があったのか説明を始めた。
「わかった。学校へ向かうから、待っていろ。その相手もできれば、連れてこい」
「わかった。玄関で待ってれば……」
「バカかっ! 校長室へ雪崩こめ!」
「わかった!」と小園との電話を切り、陽翔に電話をする。かけても出てくれず、電話をかけながら、走り回る。
「アイツ、何組だよ!」
廊下を走れば、みながこちらを見ているような気がした。
僕は、慣れてる。コレが仕事だから。でも、アイツは……陽翔は違うだろ!
適当に走っても見つかるわけもなく、何人かに転校生の話を聞く。あまり、僕に興味がなさそうな人物を選び、声をかけ、やっと、見つけ出した。
ちょうど、チャイムが鳴り、昼からの授業が始まるところだった。
「授業なんて、やってられるか!」
さっき聞いたとおり、陽翔が入って行く教室に駆け込む。授業が始まっているから当然だが、みながこちらをみた。
「なんだね? 君、芸能コースの如月じゃないか。授業の邪魔だから……」
「先生、すみません。少し、急いでいるので……葉月くんをお借りしたいのですが、いいですか?」
何人かは、陽翔を連れ出したいという僕に期待しているような何とも言えない視線をくれているが、一刻も早くこの教室を出たい。
もうひとおし……と、可愛い顔をして、お願いすれば、許可が降りた。
わけのわからない陽翔は、僕に手を引っ張られ、「説明をしてくれ!」と喚いたが無視をし、陽翔をひきづするように校長室へ逃げ込んだ。
話は通っているようで、申し訳なさそうに校長と教頭が、硬い笑顔をしてくれた。
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