第3話 巡り遭わせ
転校初日をどうにか無事終えて、蒼音は一人ぽつねんと考え事をしながら下校した。
道すがら、前後に視線を伸ばせば、子供達がじゃれあいながら下校路を歩く姿が目に入る。
だとしても、だからどうだと言うのだ。
無遠慮に声をかければ、彼らが快く招き入れてくれるとも思えない。
子供というのは無邪気で残酷な生き物なのだ。
同じ子供でありながら、どこか排他的で諦めにも似た表情をにじませて、蒼音はただ機械的に歩き続けた。
(・・・この学校は僕を受け入れてくれるのかな?
ううん、どうせ僕なんか教室の隅に追いやられて、誰の記憶にも残らないような人間なんだ。
僕が転校しようと転入しようと、誰一人気にも留めてくれないさ。
そうだよ、いつだってそうなんだ)
蒼音はいつになく悲観的だった。
引越しは今回が初めてではなかった。
記憶もおぼろげな幼い頃、また幼稚園の頃・・・・
さらに小学一年生の頃・・・
そして今回。
大人達の事情に振り回され、九歳にして幾度となくさすらいの運命を辿ってきたのだ。
だからもうこんなことには慣れている。
ただ、慣れているとはいっても、誰もいない自宅に帰宅するのはやはり寂しかった。
両親は共働きだった。
だから低学年の頃は放課後の学童ホーム・・・
そして中学年からは鍵っ子となった。
脇目もふらずもくもくと歩いた末に、ようやく我が家にたどり着いた。
我が家・・・といっても懐かしき生家ではない。
新築独特の匂いのこもる、ニュータウンの一軒家。
近所にはちらほらと、学年は違えど、蒼音と同じような境遇で転校してきた小学生もいるにはいた。
しかし、それこそ、だからどうだと言うべきだろう。
友達というものが、そんな単純な理由から作れないことは知っていた。
低学年ならまだしも・・・
思春期手前の四年生は複雑な年齢なのだ。
今朝、出勤前の母に渡された新しい鍵で、まだ慣れぬ新居のドアを大急ぎで開けると、玄関に靴を脱ぎ散らかしたまま、リビングのソファへ駆け寄りつっぷした。
(いいんだいいんだ!
そうさ、僕にはこういうお気楽な放課後が似合っているんだ。
一人ってなんて気楽なんだろう。
この家のテレビもゲームもお菓子も、ソファーの特等席も夕方まではぜ~んぶ僕のものだ!
僕の自由なんだ!ははは、自由気ままで楽チンだな~
・・・・・
けど・・・だけど・・・・
いで・・・しないで・・・・)
「僕をひとりにしないで!
・・・・誰かそばにいてよ!」
蒼音は感情に任せ、うつ伏せになったまま、大声で本音を吐き出し叫んでしまった。
「ニャ~ン・・・」
少々自虐的な蒼音だったが、ふと愛猫の鳴き声に起き上がった。
「あ、忘れてた!
ごめんごめん・・・
おまえもいたよな。
そう声に出すと、蒼音は足元にすりよってきた、真っ白い綿毛のような愛猫の頭を撫でてやった。
「おまえはいいよな~
本当の意味でお気楽で。
転校も勉強もないもんな。
ご主人様に黙ってついてきて、後は日がな一日、ここで寝ているだけなんだから・・・・
っったく、猫のくせに新居に馴染むのが早いよな。
小町、おまえ今まで何回引越しを経験した?
僕の生まれる前から飼われていたから、僕なんかよりもずっと色々なことを見知っていて、よっぽど人生経験は豊富だろうな」
猫の小町に愚痴をこぼしながら、蒼音はおやつを物色しにキッチンへ向かった。
引越しのダンボールがまだ数個放置されたままのキッチンで、蒼音は食品ストッカーの中を探った。
「あ!温泉煎餅だ!
お母さん、ちゃんと取り寄せてくれてたんだ」
先程までのむくっれ面から一変して、彼は母が取りおいてくれた、大好物の煎餅にかじりついた。
「うん、やっぱり美味しいな~
「ニャー」
『それ美味ちいの?』
「あ、ごめん小町も食べたいよな、ほらちょっとだけだぞ」
蒼音は気前よく、大好物の煎餅を細かく割って小町にも分けてやった。
「・・・・・・・?え?
小町・・・?今何か言った?」
『あたちも食べてみたい』
「・・・・・・・・・・・・・・・??????
こ・・・小町がしゃべったのか?
ははは・・・・まさかね・・・・・」
『それちょうだい』
それは、空耳と呼ぶには鮮明すぎるほどの声色で、蒼音の
彼のすぐ背後から、ただならぬ気配と、聞いたこともない声が囁いたのだ。
身の毛がよだち、全身が凍りついた。
それでも怖いもの見たさなのだろうか、反射的にだろうか、蒼音はうっかり、でもおそるおそる、後ろを振り返ってしまった。
「う・・・・・
うわぁぁぁ・・・・・・・・・・・・!!!!」
『ね、早くちょうだい』
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