第5話 ルゥ。

敵陣の頭上に黒い球が出現し、精霊魔王が現れた時を思い出す。



「なんだあれ? 何かの魔法か?」

「いや、あれは……ん?」


精霊魔王だと言おうとした瞬間、あの時と違う現象が起き始める。

地上に居る大量の兵士達が塵のようになり、黒い球に吸収されているのだ。


なんだ?

精霊魔王の時はあんな風にはならなかったぞ?

それに、黒い球の大きさが変わらない。

遠いからはっきりとは分からないけど、直径約3メートル程だと思う。


そんな事を考えている間に、地上に居る兵士達が殆ど吸収されてしまった。


しかも兵士達は、悪魔化しているからなのか吸収されているのに、まったく慌てる様子も無く、黒い球を見上げながら静かに塵となり吸収されていく様子は、かなり不気味だ。


「あれを知ってるのか?」

「……俺の知ってるモノとはちょっと違うな」

「敵兵が減るのは良いけど、自分達の兵士を犠牲にする魔法を使うとは、何を考えてるんだか……とりあえず離れた方がよさそうだな」


犠牲……これは帝国がやってる事か?

そんな魔法があるのか?

儀式魔法とか漫画等ではよく見るけど、これが儀式魔法?


と、ゼロの言うとおり、さっさと離れた方がよさそうだ。



俺とゼロは黒い球を観察しながら走って後退し、騎士と兵士が集まっている場所まで来ると振り返り、黒い球を観察する。


すると少し経った頃、地上から兵士達を吸収しているのが止まると次の瞬間。

黒い球から地上に向かって広範囲に黒い靄が広がり、地上を埋め尽くす。


黒い靄は俺達の方まで迫る勢いで、このままだと飲み込まれてしまう。


「森の奥まで引け!」

「動けない者を担いで撤退!!」


ゼロの声にトリナマが即座に指示を出し、全員が後退を始める中俺は、迫る黒い靄をジッと見ていた。


あれはもしかして……瘴気?

って事は、あの黒い球は悪魔って事になるけど……っ!?


「キジ! 後退するぞ! おい! キジ!? ……どうした?」


俺の横まで来て黒い靄を見ながら問いかけてくるゼロ。


「ヤバいぞ」

「いや、見れば分かる。さっさと逃げないと飲み込まれるぞ?」

「あいつら……悪魔召喚しやがった」

「悪魔召喚? 帝国がか?」

「いや、おそらくイーターの奴らだと思う。ヒヨに聞いてないか? ゼルメアで悪魔召喚をしようといていた奴らの話し」

「あぁ……って、それをここでやったって事かよ!? 何考えてんだ!?」

「あの黒い靄はおそらく瘴気だ。触れたら状態異常を受けるぞ」

「じゃあ、さっさと逃げないとやばいだろ!?」

「先に行ってくれ、俺は確かめたい事があるから」


そう言うと少しの間俺をジッと見てから。


「分かった、無理はするなよ?」

「おう」


死ぬような事はしません。

死んでたまるか!!


螺旋とミルクにもチャットで後退するように言うと、2人は既に後退していた。


ならばとゼロが後退するのを確認した俺は、丁度黒い靄に飲み込まれる寸前で影に潜り、忍者の分身を影から出して黒い靄に飲み込まれた状態で確かめる。


…………うん、特に状態異常は受けないな。

硫黄っぽい臭いがするし、瘴気なのは間違い無い。


俺が確かめたかったのは、状態異常を受けるかどうかだ。


以前上位悪魔の瘴気で身体が動かなくなった事があってから俺は、自分の瘴気で耐性を鍛えていたので、この悪魔の瘴気はそれ以上なのかどうかを確かめたかったのです!


さて次は、どんな悪魔が召喚されたのか確かめに行きますか。


俺は分身で黒い靄の中を進んで行くと魔力感知と空間感知で、上空に人型の何かが居る事を確認。


……うむ、瘴気が邪魔だな。

と思い、体内に印を書き風遁を発動させると周囲に風が巻き起こり、周囲の瘴気を晴らしていく。


俺と何かの周囲だけ瘴気が晴れるとそこには、ウエーブの掛かった長い赤髪で黒いドレスを着ている妖艶な女が、空中に浮いていた。



「はあぁ~! 久しぶりの人間世界ねぇ~!……あら? 何者かしら? 私の瘴気に触れて無事で居られる人間なんて居ないはずだけど、もしかしてあなたも悪魔かしら?」


おっとりしたような雰囲気の女は、そう言いながら俺の前に下りて来る。


「拙者は人間だ。お前は悪魔か?」

「ふぅ~ん、人間のくせに私の瘴気に耐えるとはねぇ……ええ、私は原初の悪魔『ルゥ』よ」


おふ、まさか原初の悪魔とは……って事は、原初の悪魔の瘴気に耐えられるようになってるのか俺は!


しかし、とんでもない悪魔を召喚しやがったな。

おそらく盗まれた兵器を使って召喚したんだろう。


まさか戦争中にゼルメアじゃなく、帝国側で使うとは思わなかったけど。


「ん~、そろそろ良いかな?」


すると周囲にまだ残っている瘴気が四散し、完全に消滅すると地上には、数人の敵兵とゼルメアの兵士が倒れていた。


瘴気でやられたのか。



「お前を召喚した者は誰だ?」

「フフ、ねぇ? あなた……私と契約しない?」

「断る」

「あら? どんな願いでも叶えてあげるわよ?」

「必要無い、願いは自分で叶える」


最強になるという願いはな!!


「それは残念……」


悲しそうに言うルゥが姿を消すと。


「って言うのは冗談よ。じゃあね」


と言いながら俺の胸に、背後から腕を突き刺していた。

が、俺は空蝉術で奴の背後に瞬間移動し、直刀を振り下ろす。


その瞬間、奴は右手の爪を長くし直刀を受け止め、火花を散らしながら鍔迫り合い状態になる。


「殺したと思ったのに、不思議な能力を持っているようねぇ」

「お前を召喚した者は誰だ?」

「フフ、そんなに知りたいの?」


そう言いながらグイっと顔を近づけてくるルゥ。

良い匂いがする。


「既にそいつと契約をしているだろう?」

「よく分かったわねぇ、そのとおりよ……でも教えてあげない」


まあ、素直に教えてくれるとは思っていないけどね。

うむ……原初の悪魔に心眼は効かないようだな。

まったく心の声が視えない。


「そうか、ならお前を殺せば済む話だ」

「出来るかしら?」


次の瞬間、互いに弾き合うと激しい攻防を繰り広げ、数秒して奴は瞬間移動で俺から距離を空ける。



奴は爪を元に戻しながら。


「人間のくせにやるわねぇ、久しぶりの戦闘はやっぱり楽しいわ……準備運動はこのくらいにして終わらせるわね。私は忙しいのよ」


そう言うと奴が右手をスッと払うように振ると、俺の胸から黒く太い針が生えていた。


魔法?

なんの前触れも無く?

魔法陣も無かったぞ?


「準備運動に付き合ってくれたお礼に、良い事教えてあげる……契約者は可愛い子よ。じゃあねぇ」


そう言い残し奴は、姿を消した。


分身が四散し消滅してしまったが、収穫はあったな。

あいつと契約したのは可愛い子だ。

やっぱり皇女か?

その辺りも調べないとね。



まあ、ルゥの影に印は付けてあるので問題は無い。

いつでも殺しに行けるので、まずは戦争を終わらせる。

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