第27話 影の神。

祠に入り少し進むと下へ向かう石階段になっており、下まで降りるとそこは、円形の直径20メートル程ある床で、周囲は床が無く光って底が見えない。


周囲は綺麗な青白い石のような壁で、そのまま見上げると数百メートル上から光が差し込み、天井の高さが見えなくなっている。


よく見ると円形の床に大きな印っぽいものが書かれていた。

空間をキョロキョロ観察しながら中心へ進むと先ほどの声が、空間に響く。



『プレイヤー、キジ丸。よくここまで来ました』

「えーっと、もしかして影の神ですか?」

『はい、そう呼ばれています』

「ネクリムオリジンが。俺の勝ちだって言ってましたよ」

『はい、見ていたので承知してます』

「で? 更に高みを目指すならここに来いって言ってましたけど、試練か何かあるんですか?」

『はい、もし願うなら試練を受けてもらいます』

「それは?」


影の神の言う試練とは何なのか。

今までのクラスアップクエストからしたら、かなり厳しそうだけど……。


『最後の試練は、私と戦って勝つ事です』

「はっ? 神(管理AI)と戦って勝つってマジ?」


それどんな無理ゲー?

管理AIなんてチートな存在にどうやって勝てって言うんだ?


『安心してください、身体能力、スキルレベルはあなたとまったく同じ状態です』


強さは同等にすると? それなら勝てるか?

……いやいや、相手は神(管理AI)だぞ?

どんなチートを使ってくるか。


『ちなみに、私が出来る事はあなたにも出来る事ですので、チートを使う事はありません。チートは創造神(運営)によって禁じられています』

「あっ、それならたぶん勝てるかな?」

『では、さっそく始めましょう』


そう言うと目の前に、上から光の粒子が降り注ぎ、人の形を作ると足元から色が着き始め、現れたのは白い忍者姿の俺だった。


「影忍の試練と同じ奴?」


すると目の前の白い俺が、女の声で答える。


『今回は色以外、全てあなたと同じです』

「なるほど……ん? って事は、ユニークスキルも使えるって事かな?」

『……はい』


おう、それはマジでヤバいな。

って言うか今の間はなんだ?

後で披露して驚かせようとしてたのか?


全て俺と同じ……あの時の試練とは違い、本当に自分との戦いって事ね。

相手が出来る事は俺にも出来る、その逆もまたしかり。


考えようによっては、自分の気付いていない事が知れるチャンスでもあるって事だな。



……ん?

何か違和感があるな。

何だ?

……まあ良いか、とりあえず戦って勝つ、それだけだ。

それで更に高みへ行けるなら、何が何でも勝つぞ!


「分かった、じゃあ、やろうか」

『その前に……これで万全の状態になりました。では始めましょう』


一瞬俺の身体が光ったと思ったら、半蔵との戦いで負った傷も無くなり、服まで完全な状態にしてくれた。

流石神(管理AI)!



神は構えずただ両手を後ろに回し、突っ立っている状態で、まったく動こうとしない。


俺も忍換装し忍者になり、魔力を全身に流し強化すると縮地で奴の背後へ移動し、直刀を抜きざまに振り下ろす。


しかし奴は、身体を少し逸らすだけで躱し、続けて振り抜く斬撃も全て少し動いて躱していく。


数回攻撃をした後俺は、後方に跳び距離を空け奴の動きに驚いていた。


何今の?

全ての攻撃が、こちらがわざと外してるような感覚。

当てようと振ってるのに、相手が普通に避けたところに振ってる感じだ。


えっ、オレそんな事出来ないけど?

しかも奴は、魔力も神気も使っていない。

まったく素の状態なんですけど?


あれが俺にも出来るって? いやいや、これはスキルや身体能力云々の話しじゃないでしょ。


完全に技だ。

そりゃ訓練すれば出来るだろうけど、今の俺には無理だと思う……たぶん。

能力的に出来るとしても、技術はまったく別だろ。


……神は俺に出来る事を教えたいのかな?

でも何のために?

訓練?

こういうやり方もあるぞと見せつけられてる感じだ。



『あなたの動きはどの忍者よりも速く、正確です。ただそれでは、動きが読みやすくなります』

「……なるほど、今の動きは完全に俺の動きを読んで動いた結果か」

『その通りです。相手の動きが分かっていれば無駄に動く必要はありません』


戦いで相手の動きを読むのは基本、しかし、完璧に読むのは至難の業だ。

神(管理AI)だから読めたんじゃねぇの?


『あなたの戦闘データはありますが、ここに来てからのあなたの動きで読みましたよ』


心の声が聞こえてるのかな?

それにしても、ここに来てからの俺の動き……歩き方とか?

そんなんで分かるの?

達人の域を超えてまさに神じゃん。

神(管理AI)だけど。


『人は常に成長しています。過去のデータで分かる事は多いですが、現在もあなたは変わり続けています。なので、動きは今の動きから読まないと意味がありません』

「簡単に言うね……」


それがどんだけ難しい事か。

俺みたいな一般人には分かりません。


『相手の仕草、体重の掛け方、手足の動き、それら全てがあなたの意思を示しています』


それが読めたら負けなしだな。

相手の動きを読む。

心眼では数秒先が視えるだけ、だが奴は、最初から最後までの動きを読んでいる。


動く前からバレてるような感覚になり、思考が停止しそうだ。

こうなると中々動き出せなくなる……ってのが普通だが、俺はとりあえず動く。

じゃないと勝てないからね。


考えるのは動きながらでも出来る。

今までに無い動きを模索しながらやらないと、こいつには勝てない。



『先ほども言いましたが、全てあなたも出来る事ですよ?』

「ん? それはどういう……」


俺にも読む事は出来るって事を言いたいのか?

と考えていると、いつの間にか俺の背後に移動してた奴に、横っ腹を蹴られ吹っ飛ばされる。


床から落ちそうになり足に魔力を纏い、床に引っ付き止まった。


「流石神、今の動きは読めなかったよ」

『いえ、あなたも出来る事です』


さっきからそればかりだな。

俺にも読める……ん?


ふとある事に気付くと一瞬で奴が俺の右側に移動し、腹に蹴りを打ち込んできたので、左腕で防ぎながら奴の軸足を蹴り体勢を崩すと、奴の腹に左拳を叩き込み、吹っ飛ばす。


奴はクルっと回転し床に手を突くと跳んで着地する。



「そう言う事か……俺に思考誘導したな?」

『さて? なんの事でしょう?』


奴は俺に言葉を投げかけ、俺が思考に入った瞬間を狙って攻撃を仕掛けてきた。

完全に無防備の状態だ。


しかし、それはほんの一瞬。

そのタイミングを完璧に合わせてくるとは、流石だな。


確かにこれは俺にも出来る。

相手の思考を読む、これが相手の動きを読む事につながるんだ。

その思考を読むために相手の動きを見るのか。


会話中に相手が考えに入ったと分かる事があると思うが、それをやってるのだ。

しかも戦闘中に。



俺は自然と笑みが浮かぶ。


滅茶苦茶面白い!!

こんな良い訓練相手は他には居ないよな。


そんな戦い方もあるんだと知れて、俺は最高に楽しい!!

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