第18話
「君が言う通りだ。つまり彼は、君の言う懸念を回避できてないのだよ」
教授は続ける。
「独りよがりと言う事だ。そして独りよがりとは、客観性の欠如を意味する」
客観性の欠如――という言葉を、真木は頭の中で繰り返す。
その真木を見つめ、教授が真木に問うた。
「君はなぜ小説を読む?」
改めて問われると、すぐに答えが出なかった。
やがて一つの答えが浮かんだ。自分でも驚くほど月並みな答えだと思いながら真木は言った。
「楽しむためです」
「それ以上の答えはないだろう。多くの人は自分が楽しむために小説を読む。一つ訊きたい。君は、作者の好みや作者の自己満足だけがひたすら伝わってくる小説を楽しんで読めるか?」
「………いえ」真木は首を横に振った。
「そうだな。読者は自分が楽しむために小説を読む。作者の好みや自己満足など読者には全く関係ない」
「さらに訊こう――。読者が自分のためだけに読み、作者が自分のためだけに書いた時、両者の間には何が生まれる?」
「溝です……とても深い……」
教授は、正解だというように頷いた。そして続けて語る。
ただ――、
自己満足のために小説を書き、他人の評価を求めず、必要ともしない。
自分の好きなように、自分の好きなものを詰め込んで書く。
それは、決して否定されるものではない。実際にそういう人は世の中にたくさんいるだろう。
だが、心底その想いで小説を書いている人は、己の作品をネットに公開したりなどしない。まして宣伝や、自作の解説のような愚かな真似はしない。自分が楽しむためのものだからね。
六地蔵リクオはそうではない。彼はネットに公開し、宣伝し、解説までする。
それは誰に向けてだ? 他者に対してだ。
それは何故だ? 他人に読まれ、他人に評価されたいからだ。
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