第3話:先輩がお風呂に入る

 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……

 風呂のお湯が張られたことを伝えるチャイムが鳴る。


「それじゃ、入ってきますね」

「ごゆっくり~」

「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」


 調子に乗って、僕はとんでもないことを喋ってしまった。もちろんこの時は冗談のつもりだった。てっきり軽く流されるとばかり思っていた。


「あら、いいのかしら」


 え?  予想外の返事だった。まさか本当に一緒に入るつもりなのか?!


「ええ、私も汗かきっぱなしだし、それにぬかの臭いってお風呂に入らないとなかなか落ちないのよ」

「でも、一緒に入るのはさすがに……」

「別々に入ると6時に間に合わないでしょ。ご飯は炊きたてが一番おいしいんだから」


 うろたえている間に、彼女は洗面所に入ってしまった。今さら断ることもできず、仕方ないので僕も後を追う。


「昔はよく一緒に入ったんだから、今さら気にしなくてもいいのに」


 そうは言っても、まだ僕が小学校に上がるかどうかの頃の話だ。特に夏の暑い日、外で遊んで汗をかいて帰ってきたときなどは親にシャワーを浴びなさいと言われ、よく一緒に入ったものだ。確かにあの頃は、一緒に裸になっても特に何とも思わなかった。


 ただ、今は違う。お互い成長した体を見せ合うという行為は、なんだかしてはいけないことのように僕は思っていた。逆に言えば、先輩は今でも僕のことを子供だと思っているから、一緒に入っても問題ないと思っているのだろうか。


 確かに僕は背が低く、よく年下に見られてしまうが、先輩は僕の歳を知っている。ちょっと扱いがひどいんじゃないか?


 しかし、先輩は悩む僕の心の中を全く気にすることなく、目の前で服を脱ぎ始めた。


「わ、わわ……」


 僕は慌てて後ろを向く。この人は何を考えてるんだろう。いくら年下とはいえ、男に裸を見られても本当になんとも思わないのだろうか。うちのクラスの女子なんて、一年生にスカートをめくられただけでも大騒ぎしたのに。しかも見られたのは下着のパンツではなくスパッツだ。


「どうしたの?誘ってきたのは君のほうなのに」

「……い、いや、その、何と言いますか」

「まあいいわ。先に入ってるから」


 僕が慌てている間に、先輩は風呂場のドアを開けて中に入っていった。ドアのくもりガラスから見える先輩は、タオルすら巻いていない真っ裸である。このまま入っても大丈夫なんだろうか……。


 僕はまだ迷っている。子供扱いされるのは嫌だが、先輩の裸が見たいかどうかと聞かれたら、間違いなく見たい。うちの風呂場は、ドアを開けると縦に長い洗い場があり、突き当たりに鏡と蛇口が、左側に湯船があるという作りになっている。ドアのすりガラス越しに見ると、鏡の前に座って髪を洗っているようだ。


 今入れば正面から向き合うことはない。入るなら絶好のタイミングだ。先輩のほうは気にしている素振りはないんだから、僕も気にせず入ればいいじゃないか。


 僕は決心すると、急いで服を脱いで、ドアを開けた。


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