英雄の獅子団。

音佐りんご。

英雄と獅子団。

 ◇◆◆◇


  悲壮な面持ちの兵士達が集まっている。

  一番後ろに気怠そうなリヴァル。

  兵士達に向かい合うパルロス、その傍らにトーレン。


パルロス:一緒にこの国を救おう! 僕についてきてくれないだろうか? みんなの力を貸して欲しい。


  間。


トーレン:聞け皆の者! 我々は今窮地に立たされている。先の戦「絶望の谷の大戦」で我々は大勝利を収めた。

 しかしその後、不運にも不作が続き国民は痩せ、その一部は夜盗に成り下がり我が国に牙を剥いた。我々は内乱状態に陥った。そして皆も知っての通り、姑息な帝国の連中はその弱みに付け入り暴虐の限りを尽くした。

 常ならば、我々はあのような卑怯者に負けるはずは無い! それは大戦の英雄、我らがパルロス・エル・レーヴェファストが証明してくれた!

 我らが英雄は誇りを掲げ、一千の敵兵に囲まれてなお勝利した!


トーレン:そうだ! 今この時と同じくあの戦いでも、我らは不利を強いられた。

 その戦力差はおおよそ十倍。勝てる望みは薄かった。

 しかし我々は戦った。何故か?

 帝国が我らの誇りを穢したからだ!

 そして我々は勝った。何故か?

 帝国に誇りは無く、我らにはそれがあったからだ!


トーレン:我らは誇りのために戦い、誇りのために勝った獅子だ!

 数に劣る我々の意志は、帝国の野良犬共の薄汚い欲望を蹴散らし! そののど笛を噛み千切ったのだ!


トーレン:誇るが良い諸君! 己に宿る猛き誇りを!

 我らは強い! 諸君らは強い! 帝国など敵では無い!

 我らは帝国を必ずや打ち破る! 何故なら!

 我々には誇りがあるからだ!

 我々には英雄がついているのだから!


トーレン:我々は今窮地に立たされている! しかし!

 先の戦と同様に我々は必ずや勝つだろう!

 我らは獅子だ! 餓えても獅子だ! 牙を打ち鳴らせ! 雄叫びを上げろ!


トーレン:諸君? 死肉喰らいの薄汚い野犬共に果たして獅子が恐れるだろうか?

 あの帝国に我らが誇りは怯むだろうか?

 この戦の勝利は王国では無く帝国の物だろうか?


トーレン:否! 断じて否である!


トーレン:あの約束された勝利は常に我らの物だ!

 我らは勝つ。勝ち続ける。

 我らには誇りがある。

 そして誇りを一際強く宿した者がいるからだ。誰か?


リヴァル:……パルロス・エル・レーヴェファスト。


トーレン:そうだ!

 絶望の谷の英雄。

 一騎当千の戦神。

 我が王国の守護者はここにあり!


  兵士達の表情に高揚が宿る。


トーレン:そう、この御方こそ我らが誇り!

パルロス:パルロス・エル・レーヴェファストだ。

リヴァル:…………。

パルロス:王国兵のみんな。正直に問おう、獅子だ、誇りだ、戦神だ、英雄だ、と言われるのが僕のような優男でがっかりさせてしまったかな?

 ふふふ、そうだね。僕だって「一騎当千の英雄」と聞いたら小山が歩くように筋骨隆々で、その身の丈は立ち上がった熊よりも大きい。そんな男を想像してしまうだろう。でも間違いない、今、みんなの前に立つこの僕が英雄だ。

リヴァル:自分で言うのかよ優男。

パルロス:僕は僕という存在を偽るつもりは無いからね。それがこの僕の王国民としての誇りだ。君は僕の誇りを疑うかい? リヴァル・クロスト。

リヴァル:(口笛)俺みたいな一兵卒の名前を知ってんのかい。捨ててきた家の名前までご丁寧に。

パルロス:共に戦う我らが同志の名前だ、知っているとも。

リヴァル:同志、ね。

パルロス:もちろん君だけじゃない、ヤーハン、レディウス、カルナダ、シプラス、ヘンディ、ケレン、フィンドル、コレヴィオ、アムス、ベント、カイラ、スロップ、フィノン、エレハム……

リヴァル:(被せるように)おいおい、全員の名前を呼び上げるつもりか? 暢気にやってたら帝国が来ちまうぜ。

トーレン:おい貴様! さっきから無礼だぞ!

パルロス:いいよ。トーレン。

トーレン:しかし、パルロス様!

パルロス:様はいらないって。トーレン将軍。

トーレン:しかし、パルロス、あんな兵士に舐められてはパルロスの名声に……延いては指揮に関わります。

パルロス:だからこそだよ。彼は僕を見定めてるのさ。信用に足るかどうかね。

トーレン:ですが!

パルロス:それに僕は君に守られなきゃいけない兎じゃ無い。獅子。なんだろ? トーレン・ジオ・アデルロンド将軍?

トーレン:……は!? はい!

パルロス:……よろしい。うん。ごめんねリヴァル。話を中断しちゃって。

リヴァル:いいや、別に気にしてないぜ。ここにいる誰もそんなことはどうでもいい。気にしてんのは一つだけだろ?

パルロス:そうだね。

リヴァル:それで、結局あんた何が言いたいんだよ?

パルロス:僕が言いたかったのは、そうだね。僕は君と同じだということだよ。

リヴァル:同じ? 英雄様と? 冗談止してくれ。

パルロス:いいや、同じだよ。僕は英雄だと呼ばれているけど、結局のところ、その本質は君達と同じ、功績を認められただけで所詮一兵卒に過ぎない。

トーレン:謙遜が過ぎます! パルロス、あなたは王国の希望! 一兵卒などでは!

パルロス:同じさ、リヴァル。僕の隣で今ぺこぺこしているトーレンと違ってね。

トーレン:な……!

リヴァル:飼い犬じゃないって言いたいのか?

トーレン:貴様!

パルロス:そういうことだ。

トーレン:パルロス!?

パルロス:僕は、君達は、いいや僕達は獅子。

 トーレンが言ったように誇りのために戦う獅子だ。

リヴァル:なるほどな。

パルロス:ご覧の通り僕は存外普通の優男だ。体格だけで言えば君達の方が幾分良いくらいだろう。しかし一人の獅子であることは誇ろう。それがこの王国の流儀だからね。

 そして君達もまた獅子だ。僕と同じく獅子だ。

 獅子たる僕らは、皆、誰しも英雄になれる。僕のような優男になれて、屈強な君達になれない道理があるだろうか? 僕らは共に誇りを持つ獅子だ。そうだろう? トーレン。

トーレン:そうだ。英雄パルロスの言うとおりだぞ、諸君。諸君らは帝国を打ち払い、やがて英雄にならんとする獅子だ! 誇りの限り戦おうでは無いか!

リヴァル:ふん、くだらねぇ。

トーレン:何だと貴様!

パルロス:僕らは何が違う? リヴァル。

リヴァル:……餓えているか。

パルロス:そうだね、それも一つの答えだ。僕は餓えている。君達はどうだろう? 餓えているかな?

リヴァル:愚問だろ。今この国で餓えてねぇのなんて、そこのボンボンみてーな奴らだけだろ。

トーレン:貴様いい加減に!

パルロス:トーレン、君は昨晩何を食べた?

トーレン:え、いえ、パンと……。

パルロス:パンと?

トーレン:……羊肉を少々。

パルロス:しかも子羊だ。違うかい?

トーレン:は、はい。

リヴァル:贅沢だなぁ、おい。

パルロス:リヴァル、君達は何を食べた?

リヴァル:兵舎のマズい汁だ。魚のすり身とイモの欠片が入ってる。

パルロス:うんうん。

リヴァル:あんたは?

パルロス:僕? 僕は熊だよ。

トーレン:パルロス、また山へ狩りに行ったんですか?! そんなことしなくても、食事なら……。

パルロス:君と僕は違うよトーレン。僕は餓えているんだ、子羊なんかじゃ物足りなくて、夜中に起き出してしまう。それは困るだろ?

トーレン:え、ええ。

リヴァル:なら俺とあんたも違うさ、英雄様。俺には腹が減って眠れねー時もあるくらいだ。それでも寝る。無駄に起きてちゃ腹が減るからな。

パルロス:眠れる獅子だね。

リヴァル:そして死にゆく獅子だ。

パルロス:ほう。

トーレン:我らが負けるというのか貴様!

リヴァル:負けるかどうかは知らねえが。死ぬのは確かだ。そこにさしたる違いはねえ。勝とうが負けようが餓えた獅子はやがて死ぬぜ。

トーレン:我々は死しても獅子だ。そこに誇りが残る!

リヴァル:だとすれば、俺達は何も残せまいよ。

トーレン:どういう意味だ?

リヴァル:誇りじゃ腹は膨れねぇ。

パルロス:…………。

リヴァル:この国の抱える問題は帝国に攻められていることだけじゃねぇだろ。英雄様。

パルロス:そうかも知れないね。

リヴァル:曖昧に濁すじゃねぇか。あんたも飼い犬か?

パルロス:君は狼といったところだね。

リヴァル:狼か。成る程。どおりであんたとは相容れないわけだ。

パルロス:それはどうだろう。僕らは仲良くなれるかも知れないよ?

リヴァル:そいつは無理だな。あんたは一人で誇り高き獅子を演じてるが、俺はその限りじゃねぇよ。誇りなんざとうに捨てた。

パルロス:ならばどうして君はここにいる? 餓えを満たす為に戦おうとしてるんじゃじゃないのかな?

リヴァル:あんたのそれは逆だろう。戦うために餓える獅子。

パルロス:ふふふ。

 いいや。買いかぶりだよ、リヴァル。僕はこの国を守るために戦っている。英雄にして守護者だからね。

 誇りで腹は膨れない。けれど、希望は胸を満たすだろう?

 人は餓えて死ぬ生き物だけど食うに困らずとも、人は死ぬことがある。それは何だと思う?

リヴァル:さぁな。

パルロス:絶望だよ。絶望は心を奪う。この国に満ちているのはそれだ。君がさっき言ったように、この国の抱える問題は帝国だけでは無い。餓えと迫害。この国は今光を無くしているのさ。

 だからこそ僕は立つ。もう一度この国を奮い立たせる象徴の英雄として。

リヴァル:俺達にその仲間入りをしろってか?

パルロス:そうだよ。僕らは、獅子を率いる獅子になる。

リヴァル:それはすごい見世物だな、獅子団長。

パルロス:獅子団長。はは。良い響きだね、気に入ったよ。獅子隊長。

リヴァル:俺は木っ端の一兵卒だし、それ以前に狼じゃなかったか。

パルロス:そんなことは些細な問題さ。それを言うなら僕の隣にいる将軍は犬なのだろう?

トーレン:それはあんまりですよ、パルロス!

パルロス:ははは。けれど彼にだって立派な誇りがある。この国への忠誠が。それは君にも分かるだろう?

リヴァル:かも知れねぇな。

パルロス:ならばそれだけで良い。僕らに必要なのは誇りだけだからね。どうだろう、僕と一緒に来てはくれないだろうか? 英雄の獅子団に。僕は君を、君達を歓迎する。そして、この国の民もまた君達を歓迎し、そして崇敬するだろう。


  間。


リヴァル:死しても誇りが残る、……そういう意味か。

パルロス:ふふふ。どうだろう、君が何を考えているのかは分からないからね。でも、良い考えだろう?

リヴァル:俺だって、あんたの考えてることなんてこれっぽっちも分からねぇ。ただ、大層な理想だってことは確かだ。

パルロス:理想は明日を生きる力だよ。

リヴァル:現実に明日を生きる糧が無いって言ってんだ。

パルロス:糧はそうだね、もうすぐ手に入るよ。

リヴァル:何?

パルロス:この痩せこけた大地に、たくさんの食料が運ばれてくるんだ。

リヴァル:まさか……!

パルロス:ふふふふふふふふ。

リヴァル:……あんたイカレてんのか。

パルロス:ふふふ、いいや、ただ僕は餓えているんだよ。君は言っただろう。帝国の攻勢だけがこの国の問題では無いと。しかし視点を変えて考えれば良い。

 この国に迫る二つの問題。それは、合わせてみれば何ということは無い。この国には今、飢饉の為に食料が、物資が足りていない人々の心は荒み、自壊しようとしている。そこ現れたのは何だろう?

 そうだね、帝国だ。

 彼らは、我々が弱ったその機を逃すまいと、遠路遥々攻めてきた。君が言うように、放っておけば死にゆく餓えた獅子にだよ。

 僕らは腹が減って動けない。そこへ現れたのは恨みを持った無数の野犬。

 絶体絶命の状況だ。

 本当にそうかな?

 ふふふ、僕は思うんだ。

 何たる僥倖。これは神の思し召しだってね。戦神の導きだ。と。


パルロス:トーレン、君はさっき、死して何が残ると言った?

トーレン:は! 誇りが残る、と。

パルロス:そうだね。僕らの誇りは獅子団の栄光として、希望として皆の心に残るだろう。けれど、残る物は本当にそれだけかな?

 つまり、そういうことだよ。


  間。


リヴァル:は。はは。理想に満ちてはいるが、ぐうの音も出ねぇほどに現実的だな。

パルロス:僕は理想家だからね。理想を形にするために、僕なりに色々考えてみたんだ。実際家の君から見てみれば穴はあるだろうけれど、どうだろう。なかなか悪くないと思わないかな?

リヴァル:あんたは悪いと思わないのか? トーレン・ジオ・アデルロンド将軍。

トーレン:愚問だな兵卒リヴァル。これ以上無いほど英雄的で素晴らしい考えだ。良いに決まっている。

リヴァル:ああ、合理的だ。合理的だよ。俺達は餓えている。そして、その隙を突いて敵は攻めてくる。待つのは死だ。ただ待つ先にあるのは死。

 そうだな。ああ。これは生きるか死ぬか、その瀬戸際だ。死にたくなければどうするか。備えることだ、何を? 食料はもうすぐ底をつく。備蓄は無い。ならば何を備える、何に備える?

パルロス:絶望は人を殺す。

トーレン:腹を満たせなければ胸を満たせ。

リヴァル:俺達は生きる。生きるためには、どうすれば良い? 生き物はどうやって生きていく?

トーレン:決まっている。殺して、

パルロス:喰らう。

トーレン:しかし、敵は子羊のような家畜では無い。牙を持った獣。ならばどうする貴様は?

パルロス:リヴァル? 熊を殺したことはあるかな。彼らの上背は人より大きく逞しい。爪はナイフだ。その重みは一振りで野牛の突進のようだ。そんな相手をどうやって殺す?

リヴァル:備えるんだ。

パルロス:そうさ、戦うために。

トーレン:殺すために。

パルロス:生き残るために。

リヴァル:戦いに、備える。襲い来る熊に備える。生きるために、殺す。

トーレン:殺さなければ生きられない。

パルロス:しかし殺せば僕らは生きられる。

リヴァル:生きるために、殺す。

トーレン:そして死にゆく獅子に供えられた供物を喰らえば、我々は生き長らえられる。

パルロス:かも知れない。

リヴァル:ああ。けどな、英雄パルロス・エル・レーヴェファスト。そこに、その行為に誇りはあるのか?

パルロス:誇り、ね。

リヴァル:死しても誇りが残るなら、そうまでして生きることを獅子は誇れるのかよ? 死肉喰らいの野犬と呼んだ奴らを喰らう俺達はこれから何になれるってんだよ?

トーレン:誇りはある。

リヴァル:それはどこにある?

パルロス:確かな生の実感の中だ。

リヴァル:死して得られる誇りが生の中にあると? ちゃんと答えろよ英雄。

パルロス:そうさ。もちろん僕らはただ生きるだけでは誇りを得られない。それは死を通してしか得られない物だよ。奪う命と奪われる命。その狭間に横たわる飢餓感こそ僕らの誇りだ。

 それこそ獅子の誇りだ。英雄の誉れだ。戦神の施しだ。

リヴァル:そんな物俺は欲しくない。名誉も名声も、嫌悪も罪悪も、俺はいらない。

パルロス:では何が望みかな? 生きることは悪では無いよ。喰らうことは罪では無いように。

リヴァル:少なくともそんな物は望んでない。あんたにとってイモと魚の汁をすすることと、血と肉を貪り餓えを満たすことは同義か?

バルロス:同じだよ。違うのか?

リヴァル:違うね。

パルロス:なら、やがて同じになるさ。何故なら僕らは同じ生き物だから。

リヴァル:違うな。俺とあんたは違うさ、英雄様。

パルロス:それは残念だよ。けれど、この死にゆく王国を生かすのに、それ以外の方法があるかな? 遅かれ早かれ、この国は死にゆくよ。獅子には二つの苦難だけじゃ無い。三つ目の苦難がある。

リヴァル:三つ目?

トーレン:身中の虫だ。この私とてその一人だろうがな。

パルロス:君は犬だからね、虫に仕えるトーレン。そうとも言えないさ。

トーレン:有り難きお言葉。しかし、いずれこの国は内側から食いつぶされるだろう。この国は餓えていながら、病んでもいる。

パルロス:だから君は、いいや僕らはは選択しなければならない。何を喰らい何に喰われるか、ね。

リヴァル:おいおいおい、あんた、まさか敵だけじゃなくて……!

パルロス:その答えはは想像に任せるけどね。僕らに必要なのは権威では無い、さっき君が言った名誉や名声でも無い。

リヴァル:だったら何なんだよ。

パルロス:誇りだよ。何をしても生き抜くという誇り。降り掛かる火の粉は全て払うという誇り。敵をなぎ倒し、死肉を喰らい、自らは最後まで立っているという誇りだよ。生きることこそ誇りだよ。死んでいった者達の誇りを糧にして、僕らは生き続ける獅子となる。僕達はその象徴になるんだ。

リヴァル:ふざけんな。

パルロス:リヴァル?

リヴァル:俺に必要なのはそんな忌々しいもんじゃねぇ、この国の平和だ! 人々の暮らしだ!

 それ以上の何を欲しがる? 何を欲しがる必要がある! 土地か? 財産か? 餓えて苦しまないための圧倒的な戦力か? そんなもの……

パルロス:全てだよ。

 僕らは全てを手に入れる。

リヴァル:全てだと? そんな物は手に入らない。本当に必要なもんはもう既に失われた、それが全てだ! 俺は、家族を失った。友を失った。それを手に入れることはできねぇ。分かってるだろ、あんたも、俺達はもう負けたんだよ。負けてるんだよ。ここから勝って何になる? 後に残るのは誇りと屍。それを空虚と言わずになんて言うんだよ? 誇りじゃ腹は膨れねぇ、死肉で腹を満たしたとして、俺の胸の、国民の胸のどこに希望が、何の希望が宿るってんだよ? そんなもの、どこにも無いだろうが!

トーレン:…………。

パルロス:そうだね。そうかも知れない。君の言うとおりだリヴァル。僕らは死にゆく獅子。いいや、既に死んだ獅子だ。誇りもとうに朽ち果てている。ならば、もう良いじゃ無いか、好きにやっても。

トーレン:パルロス……。

パルロス:リヴァル、トーレン。それに獅子団候補のみんな。僕は始めに「一緒にこの国を救おう! 僕についてきてくれないだろうか? みんなの力を貸して欲しい」そう言ったけれど、結論から言ってこの国に救いようなど無い。トーレンが言ってくれたように、この国は危機的状況で、リヴァルが言ってくれたように、僕らに遺されたのは痩せた大地と、空虚な誇りだけだ。

 それでも僕は戦うよ。

 死ぬまで。命の限り。そして残った誇りが尽きるまで、後を追う獅子たちが四肢を散らして死屍累々築くまで、その死が無意味であると気付かぬふりして、命振り乱して僕は戦おう。

 さぁ、ここに集った猛き血潮の獅子の団、もとい既に生きることを諦めた死屍の団よ。僕に、この英雄と呼ばれた愚かな優男、パルロス・エル・レーヴェファストに続くが良い。

 最後に言っておくが、これは何も救えぬ救いようの無い憐れな戦いだ。そしてそれを憐れむ者も己以外ない、空虚な戦いだ。

 降りてくれても構わない。続かなくてもいい。好きに生きてくれ。好きに死んでくれ。君達に明日は無く義務は無い。ただあるのは誇りだけ。

 それでも構わないと言うのなら、

 獅子団へようこそ。僕は君達を歓迎しよう。

 さぁ君達は獅子だ。誇りの為に戦おう!


  間。


リヴァル:だったら俺は、降りるぜ。

トーレン:……貴様。

リヴァル:俺は獅子にゃなれん。あんたは成る程確かに英雄だ。すげぇ覚悟だ。誇りだよ。けどな、俺には無理だ。命を捨てても構わないとは思ってた兵士だからな。けど、英雄にゃなれねぇな。だから、俺もあんたの誇りに敬意を表してフェアに汚れ役買ってやらぁ。心して聞きやがれ。

パルロス:なんだい?

リヴァル:国は救えねぇ。パルロスは言った。俺達は全て失った。なら、残されてんのは何だ? 誇りか? いいやもう一つあるだろう?

 俺達の命そのものだ。なぁみんな、誇りなんて投げ捨てて、俺と来ねぇか? 一緒に俺達の命を救おう。付いてきてもいいんだぜ? どうするよお前ら。俺は逃げるぜ。命あっての物種だ。過去からも、誇りからも。尻尾巻いて逃げきってやる。

 それでも、なんもかんも捨てたとしても。全身全霊、命だけは拾ってやらぁ。

 ……トーレン将軍。あんたはこっち側だろ? 狼にならないか?

トーレン:私は……。

パルロス:行きなよ。そしてせいぜい長く生きなよ。僕は君を咎めない。そして、この場の誰もが誰かを咎めない。寧ろ祝おうじゃないか、門出を。

トーレン:パルロス……。今まで、ありがとう。そして申し訳ありません。あなた様を英雄にし、そのような道を歩ませたのは我々です。本当になんと詫びれば良いか……。

パルロス:気にしないでよ、これは僕の道だ。君は君の道を行けば良い。

トーレン:っは。

リヴァル:俺達はそろそろ行くぜ、他には居ないか?

パルロス:さぁ、みんな。もう一度聞くよ。


パルロス:君達は獅子か、狼か、どっちだ?


 ◆◇◇◆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

英雄の獅子団。 音佐りんご。 @ringo_otosa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ