つれづれ夢七夜
こぼねサワー
第1夜「蝶」
気がつくと暗闇に立ち尽くしていた。
周囲にただよう「わずかながら」も「圧倒的」な気配を感じる。
「わずかながら」と感じたのはそれらがとても小さな個体であり、「圧倒的」と感じたのは、それらが膨大な数そこに存在したから。
はだしの足元の周囲から果てしなく続く広い闇を構成する空間の地面の一面にぎっしりとすきまなく存在したから。
それは、こげ茶色の蝶の群れだった。
地面に張り付いてかすかな羽音をふるわせて、にくらしいほどに存在をアピールしている。
わたしは、蝶や蛾の類がまったくダメだ。
生理的に嫌悪している。
いつから立ち尽くしていたのか、ふいにすさまじい疲労感が、膝をふるわせる。いや、原因は疲労感だけではないが。
倒れたら、わたしの体は蝶の大群の中に埋もれるだろう。
この手、顔すべてにヤツらの鱗粉がへばりつくだろう。鼻くうから口から耳から目からバサつく羽虫の粉が入り込んであらゆる粘膜にこびりついて気が狂うだろうか。
気が狂ってしまえたら、いっそラクだろう。
立ったまま気を失ってしまうのが一番望ましいが、そうもうまくはいくまい。
正常な意識を保ったまま崩れ落ちることが一番恐ろしい。
ああ、いっそ、舌でも噛み切ってしまおうか?
しかし、死に損なったら本当にことだ。
そのうえ気が狂うことすらできなかったら?
目覚めるまで、ずっと立ち尽くしていた。
おわり
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