花火の様に
和泉 花乃羽
第1話
ーー彼女が、亡くなった。
家に帰ると彼女は倒れていた。
救急搬送されたが間に合わず、そのまま息を引きとった。
家に帰る気力もなく、夜の街を彷徨う。
今日はやけに騒がしい。
「後30分で年明けねぇ。」
「そろそろ神社に行こうか。」
ああ、今日は大晦日だったな…。
「すっかり忘れてた。張り切っていたのになぁ…。」
最後だからと、わざわざ銀行からお金を下ろして買い出しに出かけた。
彼女は楽しそうに笑う。
「買いすぎないでね。私も貴方もそんなに食べられないよ?」
「わかってるよ。」
あの時は元気だったのだ。
「もし出掛けていなければ、」
彼女は、助かったかもしれない。
ずっと愛していた。
あの日ーー彼女の誕生日に思いを伝えた。彼女は目を開いて驚き、微笑んだ。
「私も、貴方と一緒に生きたいです。」
苦しい時はいつもそばにいてくれた。嬉しいことも分けあった。
「貴方がいてくれたから、私は幸せだった。」
「君が幸せなら、よかったよ。」
数日前の言葉。
「カウントダウンスタート!! 10! 9!…」
年が明ける…。
「3! 2! 1!! 明けましておめでとうございまーす!!」
ヒュー、バーーン!!
空一面に、花が咲き誇る。
「ああ、綺麗だ…。」
花火は人生の様だ。
長い時間をかけ、核を作る。完成した核を使うのは、限られた時だけ。
周りを圧巻させる程の美しい光を一瞬だけ放ち、散っていく。
時間をかけて、一回の人生のために全てをかける。
長い長い時間の中の、たった一人の人生。
でも、その人は必ず誰かの心に響く。
美しい花火のように。
「この世に生まれてよかったなぁ…。」
もう心残りは、ない。
「私も、長くはもたないから。すぐ会えるさ。」
君が先に行くとは、思わなかったけど。
「おじいちゃーん!」
孫が走って来た。
「どうしたんだい?」
「おじいちゃん、おばあちゃんが死んじゃったけど、私がいるから寂しくないよ!」
「ありがとね。でも、大丈夫だよ。」
ーー私は幸せだったのだから。
人生で最後の花火は、キラキラと散っていった。
花火の様に 和泉 花乃羽 @kanoha-izumi
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