「2084」スピンオフ中編【ピレネーの場合】
露月 ノボル
第1話 「山」の頂にて
この山の上にはお宝があるに違いない。
そう根拠はないが確信した俺は、ガラクタや膨大なコンクリート片などの産業廃棄物でできた山を細心の注意をしながら登っていく。
無心に登り2,3時間でやっと辿り着いただろうか、頂上付近に着くと、俺はかついでいたズタボロで迷彩のように所々変色したリュックを置いて見渡しながら、感覚的にここではないかと思うところを、漁る。
ガラクタの角や産業廃棄物の割れたガラスや飛び出した針金など、手に怪我を負いそうなものを慎重に気を付けカーボンファイバーの軍手でかき分ける。
だがお宝らしきものはなく、腐りかけた廃棄食品から漏れ出る汁が手に付いて顔をしかめた。おかしい。この山が昨日ゴミを運び込まれた山なのに。
何か当たりがあると思ったのに。だからこの危険な山をわざわざ登ってきたのに。
そう少し弱気になりつつ漁ってどかしたガラクタの下に、周囲の変色したプラスチックやコンクリ片などとは異質な銀色の光を放つ何かが見えた。
俺は祈るような気持ちで最後の邪魔なガラクタを退かすと、それは現れた。
「よしっ!」とつい声に出てしまう、これは確か2040年代後半の家庭用のロボットで、掘り起こしてみても上半身しかないが、希少鉱物や使えるチップやメモリがふんだんに使われているはずだし、様々なデータが残っているかもしれない。30万グローブは固い。
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登った甲斐があったと安堵し身体と緊張が弛緩したのと、登ってきた疲れから、比較的平らで比較的綺麗な、何かの金属コンテナに腰を掛け、ぼーっと空を見る。
地上ではあちこちの山から煙が燻り、青空をかき消されているが、こう高い山だと青空が見る事ができる。ちょっとした「登山家」の特典だ。
視線を降ろすと、壁に囲まれたここの外が見え、黒焦げ溶けた大地の先に蜃気楼のように浮かぶ、白亜の都市が見える。
まるで、おとぎ話の巨大な城にその周りを囲み守っている塔が立ち並んでるみたいで、教養のない俺にも荘厳さを感じるような美麗な高層建築が林立している。
暗くなってからこの山を登った事はないが、夜になるとあらゆる色彩が、光を放ち暗闇が駆逐された世界が広がっているという、この地域では最も大きい都市であるノーストウキョウ。
だがこう眺めて見えるだけで、当然ながら行った事もない。そういった都市は、事実上ホワイトランク以上の市民しか住めず、ここ廃棄地区…過去の爆心地とその周辺に点在するレッドやオレンジの街。
ここは確か正式な名前は「第12廃棄商業地区」と呼ばれているらしいが、住民は塀に囲まれたこの街を、かつての地名だったそうである、「シブヤゲットー」と呼んでいる。
このゲットーが今の俺の生きる場所であり、白亜の都市から吐き出される、大量のゴミの山の一時的な廃棄所の一つだ。
その吐き出される大量の様々なゴミが辿り着く集積所、俺の生活の糧だ。
ところどころで煙が燻る、集積所に無数にある「トレジャーマウンテン」、ふもとで採掘したり、俺のように上部のゴミの方が価値の高いものがあるはずだと、「登山」して発掘したりして生計を立てている人間がここに集まってくる。
その一つ、俺のような「登山家」や住民が、「エベレスト」と呼んでいるこのとレジャーマウンテンの中では最も大きな山の頂上で、一仕事終えたとランチボックスとそのまま再利用している水筒替わりのペットボトルの水を出して、昼飯を食べながら、なんとなくただ白亜の都市のほうに、焦点をあわさずぼーっと視線を向けて考えていた。
これらの山から取り出せる、ホワイト以上でよく使われている、無数の家電製品や家庭用ロボット、産業用機械、今時珍しい木製やプラスチック製、カーボン製の家具や調度品類、触る時は気をつけなければならない医療廃棄物などがある。
それどころか様々な消費期限切れの廃棄食品の収集、果ては壊れ廃棄された機器の記憶媒体から抜き取る、役に立ちそうな各種データやパスワード、電子鍵まで、裏のマーケットに回るものも含め様々な資源を発掘しては、たまに買取額を過少に間違える油断ならない馴染みの買い取り屋に持ち込んで俺は日銭を稼いでいる。
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俺は、自分が生まれたのはどこなのか、誰が親なのかは知らないが、赤ん坊の当時、トレジャーマウンテンの一つ、「ピレネー」のふもとに捨てられていたらしく、「登山家」が拾って孤児院に引き渡され育った。
その際拾って届けくれた「登山家」が、俺の名を安直っぽいが「ピレネー」と名付けたらしい。まあ、俺はその名前を気に入っている。そのオオタ孤児院では、捨て子などで姓が無い者には「オオタ」と与えるので、俺は「ピレネー・オオタ」になる。俺は当然覚えていないが、両親が、もしくはその片方が、西大陸の出身だったのか、統一機構が定期的移住を推奨しているのもあって、ここアジアブロック群島C4でも混血化が進んでいるが、エメラルドの目で赤毛だとそれなりに珍しく見えるらしい。
孤児院に入って当初は訳が分からず荒れた時もあったものの、6歳の時に「チョーカー」が与えられ、メアリー、俺のバディAIに教え導かれて社会についての基礎知識を学び、それ以来はこれでも模範的院生と言われるよう過ごしていた。
だが残念ながら養子にもらわれないで15歳の誕生日を迎えた者は、孤児院を出なければならず、結局俺は孤児院を出た後は17歳の現在こうした生活をしている。
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