第26話 指環の秘密


 暫く待っていると、サルーニエさんが到着した。最初は仕事で忙しいのに、急な招集を掛けられ機嫌がとてもとても悪かった。しかし、僕の顔を見るなり態度が一変した。と言うか、泣き出してしまった。



 どうやらこのサルーニエと言う方は随分と年齢がいっており、彼が子どもの頃に私と一度直接会っているため、僕と眼が合った瞬間咽び泣き始めた。



「おお、おお、ウホウ、正しく正しく貴女様はユートピュア様じゃ有りませんか!? オイオイオイオイ」



 何か、途中猿の泣き声が聞こえた気がしたけど、まあそこは触れないで置こう。でも、彼には悪いが前世の僕の話しだから当然面識が無いんだよな~~面識がありませんって言ったら、物凄く残念がるだろう。



 どうしたものかと苦笑いをしていると。



「失礼しました。まさか、貴女様が生きていらっしゃるとは思っておりませんでした。この老いぼれ感動の余り泣いてしまいました。


 しかし、貴女様には今の私の姿を見ても分かりますまい。


 何せ、私が貴女様にお会いしたのは、私が幼少期の頃で御座いますから」



「幼少期ですか? 何歳の頃ですか?」



「私めが5つになった頃で御座います」



「何年前のお話ですか?」



「かれこれ数百年前になりますかな」



 ちょっと待って、数百年前から私はと言うか前世の私はこの姿を維持してるって言うの? 元の世界で漫画とか小説でも良くそんな記述はされてたけどさ、本当にエルフって長寿なんだ。



 少し違うとすれば、僕の耳は尖っては居ないんだよね。



「どうされました?」



「いえ、何でも有りませんわ。それより」



「指環の事ですかな?」



「はい。サルバドールさんから指環については、サルーニエさん!? 貴方に尋ねる様に言われました」



 そう、この人に会う理由は指環についての情報を得るため、昔話を聞きに来たわけじゃない。



「そうですね。何からお話しすれば良いのか。私があの本を読んだのは大分昔ですから、何処まで脳の記憶から搾り出せるか分かりませぬが」



「構いません、もちろん全部とは言いません。いま知る限りで結構ですので、教えて貰えないでしょうか?」



「分かりました。そう言う事で有れば、


 まずこの世界には五つの指環が存在しています。


 ユートピュア様、貴女がいま身につけられ居るそれは、と呼ばれて居るものです」



「平和の指環?」



「はい、そしてその他の四つは、


の指環、の指環、の指環、の指環と呼ばれる物が存在しています。


 しかし、実はそれは本当の意味での名前ではありません。全ての指環には同じ力が有り、能力に違いは御座いません」



「どういう事ですか?」



 名前が有るのに本当の意味じゃない? 

 一体どういう事なのだろう?



「ユートピュア様は、もし国をまた納めるとしたら? 民とどの様なお付き合いをし、国を維持しようとお考えですか?」



「私ですか。そうですね~~皆さんと仲良く協力し、平和で豊かな国を築いて行きたいです。永遠の大きな愛に守られた平和の国とでも言うのでしょうか」



「ユートピュア様、まさにソレです!?」



「と言うのは?」



「貴女様の心には、愛と平和が常に有ります。思い出して下さい。記憶をなくされていると聞いてはおりますが、貴女様は私にあの時教えてくれました。の由来を」



「「カメリアは永遠の愛、全ての民を守る為に有り続けるよう名付けました」」



「そうです。そう貴女は私に言いました。この事は憶えていらっしゃったんですか? それとも、思い出されましたか?」



「いえ、私の国の歴史の本を此処に来る前に偶然少し読みました。でも……」



 本には永遠の愛についてしか記載は無かった。何故? さっき私はサルーニエさんのセリフと、一言一句違えずに被ったのだろう。それよりも、私が身につけているこの指環も、残りの四つの指環も秘めている力は同じ。



それって、つまり……



「それよりも聡明な貴女の事です。指環について私が言わんとする事に既にお気付きになられた事でしょう。どうですかな? 私の読みが外れておりますかな?」



「はい、何となくですが分かりました。名前の由来は、嘗てそれを身につけ、それぞれの国を納めていた人物の考えと思いに由来するのでは無いでしょうか?」



「正解で御座います。


 世界を我が物にしたいと願う王が身につけた指環、その名を


 世界を常に戦争と殺戮を続ける世を目指した者が身につけた指環を、


 世界を破壊し魔族の生きる世界にしようとした魔王が身につけた指環は、と言われ。


 この世界の悩める人々を祈りにより救済されると説いた者が身につけた指環を、と人々はそう呼びました」



「身につける者が変われば、その指環の名前も変わると言う訳ですね」



「はい。ただ、この指環は誰が造り、どうして存在するのかまでは、当時の貴女様も御存知では御座居ませんでした」



「そうなんですね。先程のお話でどうしてこの世界にこの指環が存在するのか知りたくなりましたが、貴方よりも永く生きて来た私が知らなかったなら、分かるわけ無いですね」



「はい、お役に立てず申し訳ありません」



「いえ、指環の歴史に触れれただけでも有難いです。三つの指環の行方は分かりませんが、恐らく一つは私の弟が持っている筈です」



「ユニバーシア様がですか? 何処でそれを」



「と或る公爵家のお屋敷を訪れた時に知りました」



 訪れると言っても玄関から入った訳じゃ無いけど(汗)



「ほお、それはどの様にですかな? ユニバーシア様とお知り合いの方がいらしたのでしょうか?」



「いえ、一枚の大きな絵を見せて貰ったんです。そこに当時の私と弟が描かれており、二人共に同じ指環を身に着けて居ました」



「なるほど、そこでお知りになりましたか」



 そう言うと、パンパンッと尻尾を器用に使い、床を鳴らした。すると、もの凄い速さで一匹の猿が走って来た。



「サルマン、例の絵を此処に居るユートピュア様にお持ちせよ」



「ははっ。直ちに」



 うん、此処は突っ込んだ方が良いところなのかな?  またサルって普通に名前に付いてるんだけど。もう右手が今にもサルーニエさんの肩へパンッ『またですか!?』って飛んで行きそう。



「どうされましたか? ユートピュア様」



「いえ、何でも御座いませんのよ、オホホホ」


(もう敬語と女の子言葉嫌っ)



「お待たせ致しました。どうぞ」



 そこにはローゼンマリアさんの所で見たものと同じ巻物が有った。普通の人間では一人で開けない物も、彼等の手は軽く僕の身体を包み込める大きさなので、反物を広げるような動作でバサッと広げてしまった。



「これって?」



「貴女様が目にした物と同じですかな?」



「はい、これです。私が椅子に座っていて、弟が隣に居る絵なので同じ絵だと思います。それに此処です、彼も私と同じ指環をしていますよね?」



「ユートピュア様、大変申し上げ難いのですが、弟様が身につけられていのはイミテーションです。貴女様が身に付けている指環に似せたものです。何かしらの力は付与されているかも知れませんが、貴女様の平和の指環とは似て非なるものなのです」



「そうなんですね……てっきり私と同じものを弟が持っていると思っていました。この強大な力を持った指環をもっているものと」



「いえ、それも違います」



「どういう意味ですか?」



「もし弟様、ユニバーシア様が指環を身に着けても、それは平和の指環には成りません。あの方も確かに平和を望んでいました。


 しかし恐らくですが、弟様が身につけた場合、それはとなり、どちらかと言うと、支配と混沌の中間を意味するものへとなっていたと言われております」



「それって、弟は戦いが好きだと言う事ですか?」



 絵で見る彼は柔和な笑みを浮かべ、とても戦闘狂がある様に見え無かった。



「好きと言うよりも、剣と戦に愛された方です。をまるで自分の体の一部の様に操られたと聴いています」



「そうですか、所有する者により変わるのですね」



 ところで、龍炎の剣って何だろう? まあ、でも今はそれは重要じゃない。

 今聞き出さないといけないので、指環に秘められた力だ。



「次にこの指環に秘められた機能についてお聞きしたいのですが」



「ああ、そうでしたな。元はこちらが今回の目的でしたな。指環は意思を持って居ると言われております。もし、貴女様が見えない罠に近付いた場合、指環は『赤く点滅するですね』、赤い光線が照射されます。おっと、此方はご存知でしたか」



「はい、これは実際に体験しましたので存じています」



「成る程、では続きですが、もし貴女様が救援や救難信号を出された時は、指環に魔力を送り、そして指環を中心に手をあげてください」



「こうでしょうか?」



 僕は彼に言われた通り魔力を指環へ通すイメージをし、そして手を上げた。すると青い光の信号が空高く照射されたかと思うと、光は渦を巻きある程度の大きさになった後、その光の集まりが四方八方へ弾け飛んだ。



「まるで照明弾の様ですね」



「照明弾? それは一体?」



 しまった、元の世界の知識が出てしまった。

 どうやらこの世界にそんな物は無いらしかった。



「いえ、私が魔法が無い方でもこの指環の様に信号を送れる道具を考案している所で、でも実際にはまだ成功していませんが。その名前を照明弾と名付けようかと」



 って、幾ら何でもこじつけ過ぎだから信用されるわけ無いよね。



「成る程、さすがユートピュア様は発明家でもあらされる」




「あの、他の能力も有るんですか?」



「ええ、もちろんです。同じ様に指環に魔力を流し、その後自分を包み込む球体をイメージしながら、指環を起点に頭上で回転させながら、貴女様自身も時計まわりに回って下さい」



「こっ、こうでしょうか?」



 僕はまた彼に言われた通りに頭上で手を回転させながら、一緒に体を回した。何というか、少しダンスを躍らされている様な、騙されて無いよね?



 何か少し笑って!? 

 結構傍から見たら馬鹿な子に映ってるんじゃ無いの?



 疑いつつも試していると、頭上から緑色の光線が360度照射され、それは僕の体を包み込むバリアの様な物へと変わった。試しにサルバドールさんに剣で攻撃してもらったが、ビクともしなかった。



 難点は発動に時間が掛かる事だったが、試しているうちに分かった事が一つ、魔力の流し方を早め、動作も速やかに行う事で、その効果も数段に早く実行される事が分かった。



 サルーニエさんが言うにはもう一つ有ったとの事だが、残念ながら忘れてしまったらしい。



 さて、指環の秘密も分かったし。そろそろザーザさんを助けに行かないと……生きてればの話だけど(汗)



◇◇◇◇◇◇



その頃、ザーザー先生は?



「うお~~いつになったらユートピュア様は助けに来てくれるんだ~~」

「くっ喰われる!?」



〇uUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUCK!?



 かろうじて生きていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る