第4話【週に一度の関係】
演技には大きく分けると憑依・出産・建築・合体型の系四種類が存在するらしい。
今の私はどちらかと言えば合体型だろう。
最初の頃は完全に『かんな』という役になりきって接客していたが、それでは場の空気を呼んで臨機応変に対応できない事態が起きてしまう。
経験を積むごとに演じている最中でも冷静さを保つことができ、いつしか私の中の『かんな』には二つの意思が存在するように。
一見ベストなように思えるこの合体型。
だけど今ほどそれを後悔したことはない。
「おっしゃ! 本日三匹目ゲット!」
JKリフレ『
今でも続編が作られている、モンスターを捕まえて自分の代わりに戦わせるゲーム。
その初代には限定版を含めるとなんと四種類もあり、勿論それぞれ出てくるモンスターが微妙に違う。
私の手元の携帯ゲームに刺さっているのは、黄色い電気ネズミのイラストが描かれたソフト。
「俺がいくらやっても出てきてくれないのに、かんながやると十回に一回位の割合で必ず出てくるから不思議だよなー」
「へへ~。褒めて褒めて~」
ベッドの縁に隣同士で座っている藤原さんは、赤いトカゲのイラストが描かれたソフトをプレイしながら、感激のため息を漏らし声をかけた。
――ここ一ヶ月間、もうずっとこの調子だ。
その前も、この部屋に完備された元祖テレビゲームの不良が運動会をするソフトで、丸々60分間毎週遊び続けていた。
JKリフレというのはメイド喫茶やガールズバーと違って、全くキャストに触ってはいけないというルールはない。
先にお金さえ払ってもらえれば、添い寝や膝枕、そしてハグなんかもできる。
他の細かな部分はキャスト次第で差はあるものの、要するに”性行為”かもしくそれに準
ずるものはNG。
色んなフェチをお持ちのお客様が、癒しを求めて私たちキャストに健全な範囲で要求してくるのは当たり前。何も珍しくない。だと言うのにこの人ときたら――。
「うーん。やっぱりこいつも能力値は平均クラスか。本当に突然変異種なんか存在するのかな」
私から受け取った、およそ持ち歩くには重たすぎる携帯ゲーム機の画面を厳しい眼差しで見つめる彼は、一体何を考えているのだろう?
VIPルームはオプションで添い寝を始め、男性憧れの様々なシチュエーションが体験できるというのに、今日もこのまま最後までゲームをして終了となりかねない。
......はっきり言って、屈辱だ。
手を伸ばせば簡単に届く場所にJK――の制服を着た、二十歳未満の女性がいるにも拘わらず、昔のゲームなんかに夢中になっちゃって。
毎月売り上げ上位に入る私にだって、当然プライドというものがある。
顔は笑顔を取り繕っていても、心では何一つ面白くない私は、今日こそ彼の男としての本能を呼び覚まさせるために行動に出た。
「ねーお兄ちゃん。かんな、いい加減このゲーム飽きちゃった。他のゲームやろう」
「確かに、ここ一ヶ月くらいずっとやり放しだったもんな。そろそろ別のソフトに変えるか」
「うん。あのね、かんな......こういうゲームがやってみたいな」
「ひゃうッ!」
衣装ケースの中に入った大量のソフトを物色している彼の隙を突き、ジーパンの上から太股を指で静かになぞって見せれば、なんとも素っ頓狂な声が部屋中に響いた。
「おい、何すんだよ」
「何って性感帯ゲーム。どこがお互いの感じる部分か当てっこしよう。今度はお兄ちゃんの番」
「そういうのはいいよ」
「じゃあ......これはどう?」
ジョイントマットの上にあぐらをかいているような状態の彼を押し倒し、首の後ろに腕を絡ませ私自慢のDカップを押し付ける。素の私ではとてもマネできないような派手なプレイも、かんなと融合しなりきっている私にできないものはない。
「やめろって」
「もし私の胸のサイズ当てることができたら、その時は腕だけじゃなくて足も絡ませてあげる。ほらほらー、早く答えてお兄ちゃーん」
彼の顔が見る見る羞恥で赤くなっているのを間近で感じ、あと一歩で落ちると確信した――その時だった。
「真白さん」
接客中に本名で呼ばれるのは本当に気分が萎える。
思わず腕の力を緩めてしまい、身体を剥がされてしまったではないか。
「前にも言ったけど、俺は君にそういうのは求めていないんだよ」
覚えている。
藤原さんはかんなというキャラにハマっているだけで、彼女とどうこうしたいというわけではないことを。
だとしても、女性と毎週60分、決まった時間と場所でただゲームをして遊んで満足できる男性がいるものだろうか。
この店に来るお客さんは、大なり小なり、私たちキャストとの身体的接触が目的でやってくる人がほとんど。
JKリフレ初体験なお客さんならともかく、藤原さんは今や私の大事な大常連のお客様。
ここまで我を通されると彼の目的が益々分からず、現れてはいけない心の中の表情が如実に表に出てきてしまう。
「......お兄ちゃんのバカ」
これ以上のアピールは無駄と判断した私は、彼に本心を悟られないよう、ベッドの上で体育座りをして俯いた。
「お、反抗期シチュか。たまにはそういうのも新鮮味があっていいな」
拗ねる私をよそに彼は再びゲームソフト漁り始めた。
本当に......わけがわからない人だ。
結局藤原さんは私の隣で最後まで一人ゲームを満喫し『それじゃ、また来週な』と、満足気な笑顔と言葉を残して帰って行った。
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