義妹と○○シテ、ナニが悪い。
せんと
第1話【二人はまだ、知らない】
夜がふけるほど、昨今の秋葉原というのは、外国人観光客を中心に大勢の人たちで賑わいを増す。
電気街口の改札の前には大小のかたまり問わず多くの人間が
駅前広場に出れば、今度は酷い歌声を大音量で響かせるバンドマンやら、訳の分からないパフォーマーたちが自己陶酔しながらオナニーショーを開催中。
見向きもせず中央通り方面に向かおうとすれば、今度はアンケート調査員の名を騙った怪しいキャッチが横から声をかけてくるが、それもスルー。
たまに目の前に立ち塞がって強制的に足を止めさせる輩もいるが、大抵は舌打ちして軽く睨みつけてやれば簡単に引き下がる。
誰にも今の俺を止めることはできない。
――今日は週の真ん中水曜日。
普段、夜遅くまで残業させられている中で、この日だけは会社の決まりで絶対に定時に帰れる。
中央通り沿いではメイド服やら着物姿等、様々な男心を
その様子をライムグリーンのビブスを着た区の委託職員が目を光らせる光景も見慣れ、ここ数年で起きた秋葉原の変化をひしひしと感じながら、細い路地へと入って行く。
この辺りから徐々にナース服やバニースーツといった、絶対メイド喫茶じゃないだろ!? という服装の女の子の割合が増え、正直目のやり場に困らなくもない。
それらを交わして更に奥の方へ進み、とある雑居ビルの前に到着すると、俺は地下へと繋がる階段を降りていく。
狭いビルにありがちな降りるのも上るのも謎に疲れる階段の先にある、アニメキャラの
イラストが描かれた、見るからにいかがわしい部屋。
その部屋のドアノブをなんの躊躇もなく回す。
「お疲れ様です、藤原さん。すっかり毎週水曜日の男ですね」
入って早々、この店の長身イケメン店長さんが爽やかな笑顔で出迎える。
そりゃあ、毎週水曜日の決まった時間に顔を出していれば自然と覚えられ、扱い方も常連客そのものだ。
「今日もカンナをご指名でよろしいでしょうか?」
「ええ......」
「ありがとうございます――カンナも良いですけど、たまにはサレンのご指名もよろしくお願いしますね。あの子、また藤原さんとお話ししたいって言ってましたよ」
「はは......まぁ、近いうちに」
会話もほどほどに、財布を取り出して支払いを済ませる。
受付カウンター横には、この店のキャストの写真がそれぞれ額縁に入った状態で飾られているが、予約済みの俺はちらと一瞬見るだけ。
「では、ごゆっくり」
予約した時間よりまだ3分ほど早いが、俺は慣れた足取りで奥の部屋へと向かう。
一般の部屋より少しばかり割高な通称『思春期の間』は、男子高校生の部屋をイメージした作りになっており、学習机やベッドはもちろんレトロゲームまで完備。
おまけにロボットアニメの模型や、俺が学生時代の時に流行っていたベイやモーターで走る小さな四駆も飾られていて再現が細かい。
修学旅行のお土産と解釈できる、6畳の部屋の隅に置かれた木刀がまたいい味を醸し出している。
ベッドの縁に座って待っていると、ほどなくして扉代わりのカーテンがめくられ、ご指名の彼女『カンナ』が制服姿で現れた。
「お帰りお兄ちゃん! 今日も時間ぴったりだね!」
部屋に入ってくるなり、爽やかで元気の良い笑顔を浮かべながら、滑り込むようにして俺の隣に腰かける。
肩が触れ、彼女の空気を含んだ綺麗な黒髪の毛先が一本一本はっきりと目視でき、何度経験しても未だに慣れない。
「......ひょっとしてお兄ちゃん、お風呂入ってきた?」
「まぁ... ...ね」
鼻を俺の胸もとに近づけ匂いを嗅ぐカンナに上目遣いで尋ねられ、思わず視線を逃がすも女の子特有の甘い匂いからは逃れることはできない。
少し暖かくなってきたこの時期、仕事のあとはどうしても汗臭くなってしまう。
体拭きシートを使っても髪の毛ばかりはどうしようもないので、ここに来る前に職場周辺にあるネットカフェのシャワールームで軽く洗い流してきたのだ。
「凄く石鹸のいい匂いと、お兄ちゃんの匂いがする」
「ちょ......あんまり嗅がないでくれるかな」
「えへへ、ごめんごめん。カンナ、ワンちゃんみたいだったね。わん!」
はにかんだカンナは俺から身体を離して、両手首を前に出して小型犬みたいに吠えてみせた。上下に揺れるものだから、その度に寸詰まりのスカートが大きく揺れて余計に目のやり場に困ってしまう。
「で、今日は何してカンナと遊ぶ? やっぱりまずは、いつものアレにしとく?」
「うん。お願いできるかな」
「了解であります! すぐ準備するからちょっと待っててね」
そう言って彼女は立ち上がり、これから始まる週に一度の儀式の準備を始めた。
『JK』――この国に生きるほぼ全ての女性に一定期間与えられる、男子・男性が強く憧れ求める最強の記号。
女性に興味が薄くなったと思われていた俺でも、現にこうして惹かれ、見事にどっぷりと浸かってしまうほどの魅力がある。
――しかし目の前にいる彼女は本物のJKでにあらず。成人済みの女性。
職業柄、ただ理由があってJKの制服を着ているにすぎない。
だと言うのに、本物のJKと接している感覚に陥るのだから、制服と見た目の若さのベストマッチ効果には概念を超えた何かがあるのだろう。
「いいよ。今日もお兄ちゃん疲れたでしょ? カンナがいっぱい――出してあげるね?」
準備を終えて戻ってきた彼女は再び俺の隣へと座り、八重歯を見せながら魅惑の視線を向けた。
31歳になる、いい歳して彼女のいない独身のおじさんが、風俗の週に一回の二時間コースで癒される......低俗で愚かだと罵りたかったら罵りやがれ。
タバコを吸うわけでもない。酒もほとんど飲まない。ギャンブルなんかしたこともない。
毎日朝から晩まで仕事を真面目にこなしている。
誰に迷惑をかけているわけじゃないんだから、このくらいの息抜きはさせてほしい――。
◇
第1話を読んでいただきありがとうございます!
毎日午後6時01分に1話づつ投稿予定です。
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