第214話 選別・試練

Side : 鬼王アルバゼオン

 

 


「お前は……美味そうだ。おい! こいつは連れて行け」


 俺様の目の前には、人間共が列を成している。


 その先頭に立つ丸々と肥えた男を、手下の者に食糧庫へと連れていかせた。


「はい。仰せのままに」


「ま、待ってください ! ? 俺は大魔術師のジョブ持ちです! 必ずやあなた様の力に――」


――スパン!


 五月蝿く喚き出した人間の首を、手下が刎ねた。


 壮絶な表情のまま落ちていく首を見ながら、俺様は心の内で嘲笑う。 


 ジョブだって? 笑わせやがるぜ! 紛い物の力なんざぁ、何の役にも立たねんだよ。


「次だ」


 俺様がそう言うと、肥えた男の後ろに並んでいた人間が俺の前に出る。


「お前は……」


 年寄りは食っても美味くねえからな、食糧は女子供と肥えた人間だけ居りゃ十分だ。


「おめでとう! お前さんには印を授けてやる」


「おぉ……」

 

 老いた人間は、食われなくて済む事に涙を流して喜んでやがる。


「こっちに来い。俺様の前で跪け」


「はい」


 老人の頭に手を置き、烙印を刻む。

 

「俺様に魂を捧げろ……なあに、悪い様にはしねえぜ?」


「おぉ、喜んで」


 老人が俺様の言葉に返事をすると、額に黒い紋様が浮かび上がる。


「これでお前さんも、俺様の配下になった。喜べ」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 老人は食われなくて済んだ喜びを噛み締めながら、他の印を刻まれた人間達の元へと歩いていく。


 フン……チョロい奴らだぜ。


 老人に印を刻み終えると、隣で見ていた人狼族の長が話しかけてきた。


「アルバゼオンよ、なぜ人間など配下に加えるのだ? しかも加える者は老人や戦力にならない者ばかりではないか」


 こいつは人狼族の長、ルジャクだ。


 人狼族の犬っころ共は、長い事ネメアの使いっ走りをしていた奴らだ。

 ネメアがこいつらを上手く躾けてくれたおかげで、騙すのは本当に簡単だったぜぇ。


 そこだけは感謝するぜ? ネメアよ……


「俺達鬼人族は数が少ねぇからな? 美味そうなやつは食糧に、他は精々肉壁になってくれる。肉壁もこんだけいりゃぁ、俺達も楽に戦えるだろう?」


 ルジャクは他の犬っころに比べて、多少賢いからな。

 こうやって適当な理由を並べりゃ――


「ふむ……確かにな。人質として使えば、人間共は途端に動けなくなる。それに不要になれば、その場で食えばいいな」


――勝手に納得してくれるんだよ。


 ククク……バカを見てると、笑いを堪えるのが大変だなあ!


「その通りだぜルジャクよ! やはりお前は賢いな! それに戦力で言ったら、お前達人狼族が力を貸してくれりゃ十分だろう?」


「ふん! 褒めても何も出んぞ。まあ、我ら一族の力は貸すが……約束は忘れるなよ?」


「もちろんだぜ? コアをゼラ様に献上する時に、お前ら人狼族を魔神軍の幹部に推薦してやるからよ。何なら夜にしか力を発揮できないお前らの種族特性を、ゼラ様に頼んで作り替えて貰えるように言ってやるさ!」


「ネメアの奴を裏切るというリスクを冒したんだ。それくらいは当然だ」


 ネメアの野郎が死んだからって安心してやがるな? 強がりやがってよ〜 


 お前ら人狼族には、もう俺様の印が付いてんだ。

 あとは俺様の言葉一つで、お前達は終わるんだぜ?

 

 お前らがどんな顔すんのか、今から楽しみで仕方がねえぜ。 


 プッ……ククク……



 

 ***

 Side:ユミレア・レーネベルト

 



 レイナ達の作戦開始と同時に、私は五千のドラゴニュート兵を引き連れ、鹿児島市のA級ダンジョン近辺を制圧した。

 

『お疲れ様です。ユミレアさん』


 耳に装着している魔道具から、美澄の労う言葉が聞こえた。


「ああ、今後の私の動きはどうすればいい?」


『今福岡のダンジョンにて、転移魔法陣の調査が始まるところです。それが終わるまで、しばらくそこで待機していてもらえますか? 何かあれば知らせてください』


「ああ、了解した」


 ふむ……転移魔法陣か。


 私は美澄との会話を終え、目の前で輝く転移魔法陣を見つめる。


 そして共にいる、風の精霊シルフ様に意見を訊いた。


「シルフ様。どう思われますか?」


「うーん……転移魔法陣は多分、大きい山の方に繋がってるの」


 大きい山、確か阿蘇山という名前だったか。


 ということは阿蘇山のどこかに、敵の本拠地がある。


 そして、シルフ様が言葉を続けた。


「それよりもこのダンジョンの方が重要なの……」


「重要? と言いますと?」


「この星の魂が、ダンジョンに吸い取られてるの。おかしいと思ってたの。この星には彷徨う魂が少なすぎるの」


 そういえば昔、精霊は魂を認識できるという話をシルフィーナ様が仰っていたな。


 それで、魂がダンジョンに吸い取られていると……そういえば、この世界には死霊術師ネクロマンサーがいない事が気になってはいたが、もしや魂が無いことが原因だったのか?


 彷徨う魂が無いことは理解したが……

 

「シルフ様、魂がダンジョンに吸い取られていると、何か問題があるのですか?」


「問題だらけなの。魂は循環しているの。そのうちこの星では、肉体だけの人間しか生まれなくなるの」

 

 それは……まずいどころでは無いな。


「我々はどうすれば……」

 

「天霧英人がイヴァ様の権能を継承すれば、問題ないの」


 英人がイヴァ様の権能を……どういうことだ、さっぱり訳がわからない。


 だがシルフ様の言い方的に、英人は目覚めるという話で良いのだろうか?

 

「シルフ様、英人は目を覚ますということですか?」


「それは天霧英人次第なの。今天霧英人は試練の途中のはずなの。それが終われば、選択を迫られるの。どちらを選択するか次第なの」


 試練……


「試練を受けることで、イヴァ様の権能が継承できるのですか?」


「そうなの」


 何だそれは……

 

「その試練はどうやって、何をしたら受けられるのでしょうか?」


「それは教えられないの。知ってはいけないの」


 シルフ様は、教えてはくださらなかった。


 試練を突破すれば、神の力が手に入る。

 そんな試練があるなんて訊いた事がない。


 いや、それは今となってはどうでも良い。


 だがその試練とやらをなぜ英人が?


 それにその様な力を手に入れる方法があるのなら、なぜお師剣聖様や大賢者様達は試練を受けなかった?


 何なら私だって良かったではないか!


 私でなくとも、私が死ぬ直前に生きていた者なら誰でもよかった。


 あの時イヴァ様の力があれば、たくさんの仲間、弟弟子達、私の家族も、皆死なずに済んだと言うのに……

 

 お師様や龍王様達は、いったい英人に何をしたのだ?


 疑問は尽きないが、この場に答えてくれる人は居ない。


 英人に託すしかないのだな……


 早く戻ってこい……英人よ。

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