第174話 「ムラサメ」と「千刑」

Side:村雨 大地


 


「ネルダリオって言ったか? 悪いが俺の糧になってもらうぞ」


「へっ! 面白え……来いよ」


 俺は「換装の指輪」から、2本の槍を取り出す。


 右手に装備したのは「魔槍・ムラサメ」。

 穂先は無く、一見すると唯の長い棒だ。

 これは親父の知り合いの鍛治士に作らせた一点物で、素材はミスリル70%とオリハルコン30%の合金で出来ている。


 そして左手に装備したのは「浮遊槍ふゆうそう千刑せんけい」、英人に貰ったS級の槍だ。


______

「浮遊槍・千刑」(S級)

 :魔力の充填が可能。

 :充填された魔力と同じ魔力に反応し、遠隔で槍を操作可能。 

 :槍の複製を最大で千本まで作成可能。

  *ただし、充填された魔力は複製することによって均等に分散する。   

 (一本あたり最大で 1/1000に減少)

______ 


 見た目は普通の黒い槍で、その性能は中々に特殊だ。


 この2本の槍を扱うのに、かなりの時間が掛かった。

 そして時間をかけて訓練した甲斐があり、想像以上の使い心地と強さだった。


 左手の「浮遊槍・千刑」から手を離すと、槍は落下することなく俺の横で浮遊する。


 そして俺の臨戦体勢と同時に、ネルダリオも臨戦体勢に入る

 

「妙な槍だなぁ……俺様をがっかりさせるなよ? 血呪・血双剣」


 真っ赤な血がどこからともなく現れ、両手に集まり二刀の曲剣が出来上がる。


 英人から聞いた情報では、吸血鬼の血に触れると不味いらしい。


 回復能力を奪われたり、身体の内部に入り込み爆発したり、個体によって効果が異なるらしい。


 まあ何にせよ、被弾は極力避けないといけない。


「いくぜぇ!」


 次の瞬間、ネルダリオの体がブレた。


 速い!

 

「龍纏!」


 すぐに龍気によって身体を強化し、「千刑」を三本に複製する。


 奴の動きはギリギリ目で追うことは出来たが、反応がやや遅れる。


 ネルダリオの右剣が俺の首に迫る。


「はん! 口だけかぁ? ノロマがぁ!」


 複製した三本の「千刑」を、奴と俺の間に滑り込ませる。


――キキキン!


 割り込んだ三本の「千刑」を瞬く間に弾き飛ばされ、舞の様に流れる所作で再び俺の首を狙う。


 こいつ……パワーもある上に技術までありやがる。


 だが槍を三本弾く動作のおかげで、俺にも余裕は生まれた。


 鞭の様に左腕をしならせ、真っ赤な血の曲剣による攻撃が右側から迫る。


 俺は右手の「ムラサメ」を両手に持ち替え、柄の中心で曲剣の攻撃を受ける。


――キーン!


 攻撃を受け止めた直後、互いの力が拮抗し競り合った。


 ムラサメと曲剣は組み合ったまま、どちら側にも動かない。


 俺はギリギリで踏ん張ってるけど、こいつは余裕そうだな…… 

 

「パワーもカス! 反応もカス! てめえは何が出来んだぁ? あぁん ! ?」


 言葉の後、ネルダリオの押す力が急激に増した。


 こいつの言う通りだ……だったら、今まで培った技術で勝つしかねえ。


 才能の無い俺にはそれしか無かったんだから!


 奴が押す力を上げた瞬間を見逃さず、俺は反対に右手だけ力を抜いた。


「っ ! ?」


 ネルダリオの曲剣は「ムラサメ」の柄を滑り、前に倒れる様に体勢を崩す。


 それに合わせて、俺は石突を横から顔面に叩き込む。


 そして「ムラサメ」に魔力を流すと、何も無かった穂先に魔力の刃が十字に形成される。


 身体を捻り、それによって発生する遠心力を乗せて、地面スレスレから穂先を掬い上げる。


――スパン!


 俺は前傾姿勢になっているネルダリオの両腕を斬り飛ばした。

 

 腕の皮膚の硬さもあって、若干の抵抗はあった。

 だがインパクトと同時に瞬間的に力を入れることで、あっさりとネルダリオの両腕を切断出来た。


 身体を捻り、回転しながら距離を取る。

 槍も同時に回転させることで、牽制する事も忘れない。


「ムラサメ」を脇に挟み、弾き飛ばされた「千刑」も回収して頭上に浮遊させる。


 ネルダリオは両腕から出血したまま、俺へと向く。

 

「クククッ……いいねぇ、技はちゃんとあるじゃねえかぁ!」


 笑みを浮かべるネルダリオ。


 そして切断した両腕は数秒で再生した。


「まだまだこんなものじゃ無いぞ?」


 ミスリル70%の合金で出来た「ムラサメ」でも、あの速度で再生するのか。


 だがおそらく、有効で無い訳じゃない。


 ここに向かう道中で戦った下級の吸血鬼よりも、今の両腕の再生速度のほうが遅いと感じた。


 再生そのものは止められないけど、本来の再生力をある程度なら減少させることができるみたいだな。


 それならやり様はある……今のはミスリル+魔力の攻撃だった。


 魔力を龍気にかえれば、奴を倒し切ることができるかもしれないな。


「気に入ったぞ小僧。名は何と言う?」


 一応答えてやるか……

 

「村雨大地だ」


「そうか……村雨大地! 貴様の名は覚えておいてやろう! 血呪・血盟降獣けつめいこうじゅう!」


 次の瞬間、ネルダリオの肉体がボコボコと音を立てながら膨張し始めた。


 膨張によって巨大な肉の塊の様になったが、次の瞬間には急激に縮小を始めた。

 

 そして変化が収まると、そこには狼人間の様な姿に変身したネルダリオが居た。


 黒い体毛に、犬耳や四肢は狼のものだ。


 一見するとライカンスロープの様でもあるが、俺の知っている特徴とは異なる。

 

 眼は五つ横に並び、額には二本の鬼の角が生えている。

 そして着ていた貴族服はボロボロに裂け、黒い体毛の下には肥大化した筋肉が覗いている。


 そしてネルダリオは上空の満月に顔を向けた。


「ワオーーン!」


 夜の街に、遠吠えが鳴り響いた。


 

 

 ***

 あとがき

 大地の現在のステータスを載せておきます。

 ちなみにステータスの数値は、龍装の上昇値分は含まれていません。

 

 ______

 名前:村雨 大地

 ジョブ:魔術師

 称号:龍王の契約者・開祖

 Lv 100

 HP:11500/11500(7000+1000+3500)(初期70)

 MP :14500/14500(9000+1000+4500)(初期90)

 龍気:3980/3980

 

 筋力:7000(4000+1000+2000)(初期値40)

 耐久:5500(3000+1000+1500) (初期値30)

 器用:7000(4000+1000+2000) (初期値30)

 敏捷:5500 (3000+1000+1500)(初期値30)

 知力:14500(9000+1000+4500)(初期値90)

 

 スキル(一部省略)

 ・魔法系

 風魔法Lv10

 ・強化系

 全ステータス増強Lv10

 ・特殊系

 魔力察知Lv10、魔呼吸Lv10、神速思考Lv10


 ・エクストラスキル

 龍槍術Lv10、龍闘術Lv10、龍感覚

 

 ・技能

  村雨流槍術(中伝)

  真・村雨流十槍術(開祖・奥伝)

  武神流格闘術(初伝)

  魔操術(中伝)


 ・龍装

  サファイア・バングル(Lv92・知力値上昇)

  韋駄天のグリーヴ(Lv78・敏捷値上昇)

  龍翼の鱗鎧(Lv62・耐久値上昇)

  エーテルガントレット(Lv40・筋力上昇)

 ______

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