第78話 A級昇格試験
オークキングの討伐後、俺たちはそのまま次のB級ダンジョンに移動し、翌日の夕方ごろに無事攻略が完了した。
休憩中や空いた時間に修行を続け、魔力の操作もそこそこ慣れてきた。
そして三つのB級ダンジョンを攻略した俺は、A級への昇格試験を受けるために池袋支部にやって来た。
今は昇格試験の呼び出しのアナウンスを待っているところだ。
さて、待っている間に試験についておさらいでもしておこう。
A級昇格試験はこれまでと違う点がいくつかある。
まず一つ、B級までの試験は観客を動員して、半ば娯楽のように扱われている側面があるが、A級昇格試験は一般には公開されていない。
そしてこれまでの合否の判断は、試験官一人に委任されていた。
試験官を買収してランクを上げることも可能だし、実際他の支部ではよくあるらしい。
だけどA級昇格試験においてそれは不可能だ。
まず模擬戦の試験官はS級の探索者で、それ以外にも支部長一名とS級探索者がもう一人審査を担当する。
三人全員の合格の判断がなければ、A級に昇格することはできない。
ダンジョンデータベースという攻略情報があるとは言え、A級以上のダンジョンでの死亡率は今現在でも高いのは変わらない。
だから、本当に実力がある者しかA級には上がれないと言われている。
まあ相手はS級探索者なわけだけど、別に勝つ必要はない。
というか、今まで昇格試験でS級に勝ったという話はあまり聞かない。
まあ、勝てそうなら勝たせてもらうけどね。
負けるのが普通とは言え、その場合は三人の試験官の判定ということになるし、不合格の可能性も出てくる。
ここで立ち止まるわけにはいかないし、試験官に勝つのが一番わかりやすくていい。
俺と戦う試験官は誰になるだろうな?
「勇者」の御崎さんでないことを祈りたいな……
そんなことを考えていると、シーカーリングのアラームが鳴る。
準備できたのか……意外と早いな。
俺は池袋支部に併設されている試験会場に向かった。
俺は支部の5階にある模擬戦用の部屋にやってきた。
「おはようございます天道さん。これが噂の模擬戦ができる魔道具ですか……」
部屋は普通の大きさで、少し広めのリビングくらいの大きさだ。
そして部屋の中心に、半透明の立方体が台座に嵌められている。
「おや? ここにくるのは初めてかい?」
「ええ、いつも予約でいっぱいですし、ダンジョンに行った方が早かったので」
この戦闘訓練室は誰でも使えるようになっているが、数が少ないため予約制になっている。
みんなここを使いたがるおかげで、予約は取ろうと思ってもなかなか取れない。
「なんだ、言ってくれれば優先してもよかったんだがね」
「今日でA級に上がる予定ですし、今更ですよ。それより、模擬戦の相手は誰ですか?」
今現在、天道さんと俺以外に人はいない。
ちなみにミトさんとユミレアさんは家で特訓中だ。
「ああ、もう時期来るはずなんだが……お、来たようだね」
天道さんがそう言うと同時に、入り口の扉が開いた。
「遅れて申し訳ありません。打ち合わせが長引いてしまって……」
そう言って入室して来たのは、綺麗な赤毛に修道服の様なローブを着た女性と、凛とした佇まいでブロンドの髪を靡かせる西洋騎士の女性だった。
「ルーシーさんにアンナさん……まさか二人が試験官ですか?」
俺が天道さんの方を見ると、無言でにっこりと微笑まれた。
「英人の相手は私だ。一度本気で手合わせしたかったからな」
アンナさんはニヒルな笑みを浮かべてそう言った。
アンナさんが相手かよ……
「聖女様が試験の監督をしてくれるなんて、日本では君だけだろう。頑張るんだぞ」
かくして、A級昇格試験は和やかな空気で始まった。
少しの談笑を終え、俺とアンナさんは部屋の中央にあるキューブを挟んで向かいあう
「今回の試験は、この仮想戦闘キューブという魔道具で行う。そのキューブに触れると仮想戦闘エリアに転送される。中で負った傷は現実の肉体には反映されないから、思う存分戦ってくれ」
この「仮想戦闘キューブ」という魔道具は、S級ダンジョンのボスからドロップする。
このキューブの中ではどんな傷を負っても、現実には反映されない。
そのため、こうした本格的な模擬戦をするときに使われる。
ちなみにだが今度のDリーグの大会も、この「仮想戦闘キューブ」を使って行われる。
「中に入ったら、好きなタイミングで初めてくれて構わない。キューブに致死ダメージと判断された場合、自動的に外に飛ばされる仕組みになっている。どちらかがこの部屋に戻された時点で、試験は終了だ。では、準備ができたらキューブに触れてくれ」
「わかりました」
「了解した」
俺とアンナさんは、ほぼ同時にキューブに触れた。
すると、俺とアンナさんの体が光に包まれた。
『転送開始』
キューブの機械音声が聞こえた途端、俺の視界が一瞬で変わった。
「これはすごいな……」
転送された仮想空間は、荒野型のダンジョンによく似ていた。
荒れた大地が視界いっぱいに広がっていて、遠くには小さい山も見える。
戦いやすい場所ではあるな……
周りの建物を壊す心配もないから、思う存分戦うことができる。
俺が周囲を眺めていると、「危険察知」が警鐘を鳴らす。
「どこを見ている? もう戦いは始まっているぞ!」
アンナさんの姿は既に目の前にあり、ロングソードを大きく振り上げていた。
「ちょっ ! ?」
――ガキン!
咄嗟に大剣を目の前に召喚し、なんとか初撃を防いだ。
危ねぇ……鞘から抜いていたら間に合わなかった。
俺の大剣が「召喚」で呼び出すシステムで助かった。
俺は「魔纏」を発動し、受けた剣を弾いて一旦後方に退避する。
今は使わなかったみたいだけど、ユニークスキルを発動されなくてよかった。
「遅延」、対象の時間を遅らせるユニークスキル……あれは厄介だ。
俺は思考を加速させ、今までの経験とダンジョンデータベースの閲覧記憶から、対抗策を模索した。
一見隙がないように思えるけど、無敵ってわけじゃないはずだ。
遅くできるのにも限界があるだろうし、無限に使い続けられるわけでもない。
ユニークスキルの継続使用時間に関する研究があった。
それによるとどのユニークスキルの被験者も、差はあれどいずれ発動できなくなると言う結果になった。
『ユニークスキルは魔力以外のなんらかのエネルギーで発動されているのではないか?』
と言うのが、大多数の研究者の見解だ。
なんらかのエネルギーか……ん? もしかしたら……
俺は「魔纏」の倍率を限界まで高め、今出せる最高速度でアンナさんに接近する。
高速で流れる景色を横目に、背後に回って上段から袈裟掛けに斬りかかる。
大剣を振り下ろそうとした直後、俺の視界が突如スローになる。
「くっ!」
――ガキン!
俺の動きがわずかに遅くなった間に、アンナさんは防御を間に合わせた。
鍔迫り合う中で、アンナさんの顔がよく見えた。
「流石の速さだ!」
笑っていた。
この戦いが心底楽しいのだと、表情から伝わってくる。
「ありがとうございます」
俺はそう返して、ガラ空きの胴体に蹴りを放つ。
俺の蹴りは命中し、アンナさんを後方に突き飛ばす。
今の蹴りも、わずかに「遅延」スキルの影響を受けたのを
今の一連の攻防の中で、俺は偶然にも大発見をしてしまった。
多分、ダンジョン研究者達が聞いたら阿鼻叫喚になるレベルだ。
俺は「龍感覚」を使って、あるものを感知した。
魔力でもなく、龍気でもない……全く別のエネルギーの流れを……
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