第66話 束の間の安寧



『レベル70到達を確認、「英霊召喚」が解放されます』 

『Eランク眷属のレベルが最大になりました。功績にて報酬が与えられます』

『部隊編成の指揮官枠が7人に拡張されました』

『ソウルスキル「狂龍臨天きょうりゅうりんてん」を再度封印します』


 今回はレベルアップ以外のアナウンスが多いな。


 気になる単語のオンパレードだが、今は帰還を優先しよう。

 母さんとアーサーさんの事も気になるし……


 俺は念の為「気配察知」でジャドやルアンの様子を確認したが、敵の反応は一切なかった。


 ルーシーさん達のいる壁際に着地し、そのまま鈴に駆け寄る。

 

「英人さん、お疲れ様です」

「英人様すごかったです!」


「ルーシーさんもリュウガもお疲れ様」


 そう言いつつ、俺は横になっている鈴に近づきもう一度強く抱きしめた。


「鈴……悪かった」


「お兄ちゃん……うぅ……怖かったよぅ。もう会えないかと思った……グズッ」


 腕の中で静かに泣く妹を、しばらく抱きしめていた。


 鈴が落ち着いた後、俺達はルアンが開けた転移魔法陣の小部屋から地上に帰還した。


 

 

 もう朝か……


 時計を見ると、時刻は昼の12時を過ぎている。

 

 地上に戻った後、レイナたちは池袋支部に状況の確認に向かった。


 俺は念の為、鈴を病院へ連れて行った。

 相当疲れが溜まっていたのか、気付いたら鈴の入院している部屋で寝てしまっていた。

 

 昨日は疲れたな……


 B級ダンジョンを攻略して地上に出て、そのままルアン達との戦いが始まった。


 本当に長い1日だった……


 池袋周辺に出現していたライカン達は、俺たちが地上に戻った時にはすでに討伐が完了していたらしい。

 

 今回のライカンによる襲撃事件は、かなりのニュースになっている。


 死者17名、負傷者128名。

 少なくない犠牲者が出たが、この数字で収まったのは池袋周辺にいた探索者と、池袋周辺に住んでいた探索者のOB達のおかげだ。


 ニュース番組やSNSではさまざまな憶測や陰謀論が飛び交っている。


 だけど今回の襲撃では終わらないことを、俺だけが知っている。


『これから地球は戦渦に巻き込まれる、それは避けられない。ジャドなんかに苦戦してたら、一瞬で人間は滅びることになる』


 龍王様が言っていたことが本当なら、これで終わりじゃない。


 敵の狙いは俺のコアと、地球の侵略?


 備えなければ……


 魔物が地上に出てくることが確定した今、いつ同じことが起こってもおかしくはない。

 それに特定の地域だけじゃなくて、日本全体……地球全体で魔物が現れたら……


 実際に起こってほしくはないけど、想定はしておいた方がいいかもしれないな。


 最悪の事態の想像を一旦やめて、俺はベッド脇の椅子から立ち上がり、鈴の様子を確認する。


 ルーシーさんのおかげで特に怪我はなく、目が覚めたら退院できるそうだ。


 正直ルーシーさんがいなければ、鈴が助かっていたかどうか……


 俺の意識が消える前、ジャドの毒針で刺されていたはず。

 おそらくジャドの毒は、ルーシーさんの魔法じゃないと効果がない。

 多種多様な症状が出ていたキメラウイルスも、おそらくジャドの毒だった。

 

 一連の事態が無事収まったのも、確実にルーシーさんのおかげだな……

 

 俺は鈴の病室を後にして、別の病室へと向かった。




 鈴の病室の向かいにある、母さんが入院している病室にやってきた。


 扉を開け中に入ると、すでに母さんは目を覚ましていた。


「あら英人、起きたのね」


「うん、さっき起きたところだよ」


「そう……ちょっとこっち来なさい」


 ん?


 俺は言われた通り、母さんのベット横にある椅子に座る。


「ごめん母さん……俺のせいで――」


 椅子に座り母さんに謝ると、母さんは無言で俺を抱きしめた。


「……鈴を助けてくれてありがとう。それと英人も……無事で帰ってきてくれてありがとう」

 

 顔は見えないけど、肩に感じる冷たさで、母さんが泣いているのがわかった。

 

「心配かけてごめん母さん……」


 気付けば再び謝っていた。


 今日は謝ってばっかりだな……


 しばらくの間、お互い何も言わずに時は過ぎていった。




 その後目を覚ました鈴と母さんは退院し、3人で我が家に帰った。


 あの後同じ病院に入院していると聞いていたアーサーさんの病室を訪ねたが、すでに退院していて会うことはできなかった。


 困ったな……母さんを助けてくれた礼ができなかった。


 まあ、次会った時にちゃんとお礼を言おうか。


 あと二つのB級ダンジョンを攻略すれば、A級に上がれる……


 そして約一ヶ月後、Dリーグのトーナメントが開始される。


 そこで優勝して、予定通りクランを作ろう。


 ベッドで横になり今後の予定やらを色々考えていると、知らぬ間に眠りについていた。 


 


______

あとがき

少し短いですが、キリがいいのでここで終わります。

次話で第3章終了です。


今後ともよろしくお願いします。

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