変わりゆく世界編

第33話 世界

 まえがき 

 大変長らくお待たせ致しました!

 第3章のタイトルを変更します。

『憎悪の奇術師』→『変わりゆく世界』編へと変更いたしました。

 それではお楽しみください!

 

 ***

 SIDE:天霧鈴




 お兄ちゃんの世界には……たぶんお父さんしかいない。


 私が5歳の時、お父さんはダンジョンに行って、そのまま帰らなかった。

 お兄ちゃんはそれ以来、庭でお父さんみたいに剣を振るようになった。


 いつも楽しそうにお父さんの鍛錬を見ていたのを、私ははっきり覚えてる。

 でもお兄ちゃんが剣を振っている時は、なんだか苦しそうに見えた。


 私の中に、お父さんとの記憶はほとんど残っていない。

 だからお兄ちゃんほど私は、お父さんに会いたいと思うことは減ってきたと思う。

 むしろ私は、お兄ちゃんともっと話したい。


 お兄ちゃんは鍛錬ばかりで、私が話しかけない限り話すことは滅多にない。


 学校から帰ってすぐ、庭で剣を振り始める。

 休日は一日中体を動かしてる。


 私の部屋は、窓から丁度庭が見える。


 朝起きると、必ずお兄ちゃんはそこにいて、黙々と剣を振っている。

 最近は特に苦しそうに剣を振っていて、私はもう……そんなお兄ちゃんを見たくない。

 4月から探索者育成高校に通う。

 そしたら探索者として、お兄ちゃんの力になれるといいな。




 ***

 SIDE:天霧英人




 一つ目のC級ダンジョンを攻略した俺は地上に帰還して、そのまま池袋支部にやってきた。


 ライカンがボス部屋に出現し、討伐後にルアンが現れた一連の出来事を天道さんに報告した。


「ふむ……そのルアンと名乗る男は、御崎君達やレイナが遭遇した男の特徴と似ているな。それで……そのルアンと名乗る男は、英人君を探していたようだったと……」


「いえ、おそらくルアンが探していたのはこれです」


 俺は大剣を召喚して、天道支部長に見せる。


「今どこから出した ! ? いや……今は置いておこう。それで、その剣を探していたのかい?」


 俺は剣に嵌っている丸い宝玉のような球を指差す。


「いえ、おそらくこれです。奴はこの宝玉を見て「コア」と言いました。そして俺のスキル欄にも、コアスキルという欄があります。ルアンはこの「コア」というものを探していたみたいです」


「ふむ……そもそも、英人君はこの剣をどこで手に入れたんだい?」


「この剣は俺のステータスが発現した時に召喚できるようになった剣です。手に入れたというよりは、ステータスと同時に現れたという感じですね……」


 改めて説明していても、俺のスキルのおかしさはすごいな……


「ステータスと共に現れた……か、そしてその剣に嵌っているコアは、男が探しているものだったと……ふむ……現状では何もわからんな。どこかの国の諜報員か……」


 探していると言っていたが、俺から奪うのが目的だろうか?

 奪ったところで俺が手元に召喚すれば、おそらく戻って来る。


 俺からコアを奪えるとしたら、俺が死んだ後なら可能になるのか?


 だとしたら……どうしてあの時ルアンは逃げたんだ?


 あの時俺は、奴の接近に全く気づかなかった。

 俺を殺すなら絶好のチャンスのはず……


 奪うには何か条件があるとか?

 そもそも奪うのが目的じゃない?

 

 うーむ、わからん……


 そして俺は、ルアンの目が赤かったのを思い出した。


「そういえば、ルアンという男は赤い目をしていました……」


「赤い目か……何か特殊な薬物の開発に成功した国があるのか?」


「薬物?」


「ああ、魔石の研究は多岐にわたるが……中には魔石で人間の身体能力を増強させる実験も行われている。成功した例は聞いたことがないが、スキルでできるんだ、魔石を使って出来てもおかしくはないだろう」


 特殊な薬物の副作用で目が赤いのか?

 確かにその可能性もあるけど……なんとなく違う気もする。


 なんだか歯に食べ物が挟まったような変な気分だ。


 何か見落としている気がするんだけど……うーん。


 現状では何もわからず、ひとまずはルアンのことは要注意人物として探索者全体に警戒を呼びかけるようだ。


 天道支部長に報告を終えた俺は池袋支部を後にした。




 帰宅して自分の部屋に戻った俺は、リュートを召喚して話を聞くことにした。

 ライカンと戦う時に、俺の指示を無視して突撃したアレだ。


「リュート、あの時なんで勝手に飛び出していったんだ?」


「申し訳ございません。あの時は少し取り乱してしまいました」


 俺の指示を聞く前に、雄叫びを上げながらライカンに突っ込んでいった。

 いつものこいつからはあまり想像できない。


「で? 何があったんだ?」


 リュートは悔しげな表情で、あの時のことを語り出した。

 

「あの狼の魔物を見た時、私の頭に一つの記憶とその時の感情が流れ込んできました」


 そういえば、リュートがライカンを見るのは初めてだったな。

 アーサーさんの時には、インベントリに送喚した状態だった。

 

 それにしても……記憶と感情?


 確か召喚した時に言っていた、魂がどうのってやつか?


「私は以前の生で、あの獣に殺された様です。王を守るという使命を果たせず、無惨に殺された記憶。そして……使命を果たせぬまま、敵に遅れをとった不甲斐なさと後悔……」


 なるほど、ライカンを見た時に生前の記憶が蘇ったということかな?


 ふーむ……前の人生で、あの生きたライカンスロープに殺されたと。


 そもそもこいつら……どこで生きてたんだ?


 人類の歴史上、ダンジョンが出現したのは50年前。

 それ以前は魔物とかスキルとかはファンタジーだったらしい。

 龍人という種族が存在していたことはないはずだ。

 

 少なくとも俺は聞いた事がない。

 大昔の、人類が生まれる前の恐竜が生きていた時代に存在してたとか?

 

 龍人族か……そんなのがいたのか?……


 ん? 龍人族……龍人……


 っ ! ?


 そして俺は、天道さんと話している時に感じていた違和感に気づく。

 

 もしかしてだけど、ルアンは……人間じゃない?

 

 龍人族がいるなら……魔人族や獣人族とか、言葉を話す種族がいてもおかしくない。

 目が赤いのも種族の特徴だとしたら……


 いや、これは話が飛躍しすぎか?

  

 でも実際に、ダンジョンというファンタジーは50年前に地球に現れた。


 完全に的外れとも言い切れないんじゃないか?


 今は確定的な証拠があるわけじゃない。

 他国のスパイの線も残ってる。


 結論は急がないでおこう……


「リュート、次は取り乱すなよ?」


「はっ! 次は遅れを取らぬよう精進いたします!」


 いや、そういうことでは……まあいいか。


 リュートを送喚し、いつものようにリトスを召喚して眠ろうとすると、ドアのノックが聞こえ、部屋の扉が開いた。


 ――コンコン、ガチャ


「お兄ちゃん? 誰か来てるの?」


 鈴が扉を開けて中に入ってきた。


「ピュイ!」


 すると俺の代わりにリトスが反応してしまった。

 

「え?……」


 しばらく時が止まったような静寂が続いた。


 やべ……まあいいか、ディーンも知られてるし……


「ピュイ?」


「あー、えっとだな……」


 俺がリトスを説明しようとすると、鈴が奇声を上げながら詰め寄ってくる。


「な……何その子 ! ? 可愛いー!」


 確かにリトスは愛くるしいが、かわいいで済む容姿ではない気がする。

 犬とか猫とは全く見た目が違うわけだし……

 どちらかというと、初見は魔物に見えるんじゃないだろうか?


「うーんと、こいつは俺の相棒でリトスって言うんだ」


 俺はリトスを抱えて、鈴の方へ向ける。


「ピュイ!(よろしくね!)」


 リトスは小さな右手を上げて挨拶をする。


「お、お兄ちゃん! 抱っこしてもいい ! ?」


「別にいいぞ。ほれ」


 俺は両手でリトスの脇を抱えて鈴に差し出す。


 鈴はリトスを抱えて、頬をすりすりしている。

 リトスはされるがままだ。

 

「ピュイ〜」


「むふ……もふもふしてる〜」

 

 リトスの毛並みはサラサラだからな、すずも気に入った様子。


「俺はもう寝るから、そろそろリトス返してくれる?」


「ええ〜、鈴の部屋連れて行ってもいい?――あっ」


 俺が答える前に、リトスはパタパタと小さな羽を動かして俺の元へ戻ってきた。


「だめみたいだな……」


「ぶー、明日も寝る前にリトスちゃん触りに来るからね! おやすみ〜」

 

「毎日は来るなよ?」


「は〜い」


「ピュイ〜」


 毎日来られると困るんだが……まあいいか。


 そうして、長い俺の1日は終わった。




 そして翌日、俺は二つ目のC級ダンジョンを攻略しに新宿にやって来た。

 池袋周辺はC級ダンジョンは一つしかないので、新宿にあるアンデット系のダンジョンにやってきた。


 

 このダンジョンの地形は階層全てが洞窟になっている。

 大小様々な通路が、アリの巣のように張り巡らされている。


 狭い場所も多いし、何より「夜目」のスキルがないと視界が悪い。

 洞窟の壁は僅かに光を放っているが、あまり明るくはない。

 

 そしてアンデット系の主な魔物はスケルトンや、レイスなどのゴースト系が出現する。

 

 一応10階層で一泊して、2日かけて攻略する予定だ。

 

 入り口でシーカーリングをかざしてダンジョンに入場する。


 ルアンと名乗った男がまた現れるかもしれない。

 定期的に「龍感覚」で索敵しておこう。

 先日の戦いで大量に龍気を使ったからな、なるべく温存しながら戦って行かないといけない。


 俺は10層を目指して、洞窟を進み始めた。




 最初に遭遇したのはスケルトンソルジャーの集団。

 スケルトンソルジャーはE級の魔物で大したことはない。

 光魔法が弱点になるけど、MPを温存してもE級なら余裕がある。

 

 5体いるスケルトンソルジャーは、カタカタと歯を鳴らしながら近づいてくる。

 それぞれボロボロの斧や槍を片手に装備している。


「リュート、一人でやれるか?」


「お任せください。この程度、王が出るまでもありません」


 俺はリュートの戦いを観察する。


 リュートは二刀の短剣を構えて走り出す。


「はっ!」


 最初に狙ったのは、一番後ろでこちらを狙っている弓持ちのスケルトンアーチャー。

 リュートは高い敏捷値を活かして瞬時に敵全体の背後を取った。


 ――パリン!


 そしてスケルトンのもう一つの弱点である心臓付近の魔石を短剣で砕く。

 

 「「「「カタカタカタ!」」」」


 一瞬で後衛がやられたことで、スケルトンの陣形が乱れる。


 その隙に、リュートは一番近い槍持ちのスケルトンに接近。


 スケルトンも槍で応戦するが、難なく躱して魔石をひと突き。


 ――パリン!

 

 そして残りの剣持ちの三体のスケルトンソルジャーも、MPを使うことなく魔石を砕いてみせた。

 ちなみに魔石を砕いて討伐しても、ちゃんと魔石はドロップする。

 核を砕かれて霧散した魔力が、一箇所に集まって魔石に戻る。


 レベル差があるのと、スキルも高レベルで習得させているおかげで、なかなか余裕がある戦いだった。


 ふむ……次のドラゴニュートはどんなビルドにしようか?


 眷属のネームドは、C級だけ2体目以降も可能なはず。


 ネームドの説明欄には『C級を除いて各ランク一体のみ』と書かれている。


 何体まで名前を付けられるかわからないけど、限界まで増やしておきたい。


 


 その後も俺とリュートで交互に戦闘を行い、無事夕方頃に10層に到着した。


 道中はなるべくMPを節約して、龍気に変換している。

 

 今日は予定通り探索を切り上げて、結界石で安全地帯を作る。

 インベントリからテントを取り出し、結界の中に貼った。

 このテントは庭の物置にあったやつだ。

 

 ダンジョン前の広場で買った弁当を食べて、早々に毛布にくるまる。


 俺は次のドラゴニュートのビルドを考えているうちに、いつの間にか眠りについていた。

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