世界一の職人ドワーフに、弟子入り志願される
冒険者ブレイバに百均ナイフを渡した後、俺は商人のクゥジョーのもとへ向かった。
ナイフ、そして魔法を付与した装飾品を売るためだ。
で、俺はクゥジョーとともに、王都の端っこへ向かっていた。
「買い取ってくれるんじゃなかったのかよ?」
腰から翼を生やさした商人、クゥジョー。
天翼族っていう亜人種なんだってさ。
「もちろん買い取りますよぉ。ただ、適正な価格での取引したいものでぇ」
へこへこと頭を下げるクゥジョー。
こないだビー玉をものすんごい値段で、即決で買ってくれたから、今回もあっさりお金くれるかと思った。
「武器や装飾品の類いは、ワタクシの専門外でして。プロに任せております」
「ほー、プロ」
「はぃ~。腕利きの職人、ドワーフでございますぅ」
ドワーフ!
ファンタジーとかでよく見るやつだ。
背がちっこくってもじゃもじゃの髭と髪を携えている、あの!
「世界一の職人……を父に持つ、凄まじい鍛冶師でございます」
「おお、世界一の職人……の子供?」
「ええ。本人は既に他界しておりましてねえ」
なるほどねえ……。じゃあ実質世界一位みたいなもんなのか。
「じゃあ目も良いんだろうな。目より先に手が肥えることはないからな」
マンガ編集をしていたときに、教わったことだ。良い作り手とは、一流の読み手であると。
目より先に手、つまり技術が上達することはない。
「まさに、その通りでございます! いやぁ、さすがカイト様でございます。さすが賢者、博識でございますなあ」
まあ賢者じゃないけどね。俺。
ややあって。
王都の端っこへとやってきた俺たち。
きらびやかな王都の建物と違って、そこは小さな、レンガで作られた、古めかしい工房だった。
「ここにその世界一の職人がいるんだな?」
「ええ、そのとおりですぅ。我が
マリク……ウォールナット?
妙な名前だな。
クゥジョーが工房の扉を開く。
と、同時に……。
「駄目だああああああああああああああああああああああああああああ!」
中から剣がぶっ飛んできた……!
回転しながら俺のとこへ飛んでくる。
俺は結界魔法を張る。
ぱきんっ、と剣がぶつかって砕け散った。
あ、あぶねえ……。スキル、明鏡止水がなきゃ、今頃あの世行きだったわ。
「マリク! 何をしてるのですかぁ! 大事な大事なお客様が死ぬところでしたよぉ!」
クゥジョーのやつは、偶然避けることができたみたいだ。良かった。明鏡止水持ちじゃなかったら、多分クビ切れてたな。
「くそぉ! こんなんじゃだめなんだ! 親父を! 超えられねえ!」
「……女?」
なんか、中から聞こえてくる声が結構甲高いんだが。
気になって俺は中に入る。
これもまあ、ザ・職人の工房ってかんじだった。
そこら辺にいろんな物がごちゃごちゃと置いてある。
打ち損じらしき剣が、山のように詰まれている。
炉の前に座っているのは、女だった。
小柄で、しかもまだ若そうな、女。
こいつが……マリク・ウォールナット。世界一の職人?
こんなに若いのに……?
「くそ! んだよ客か? おれは見ての通り忙しいんだ。帰ってくれ!」
女なのに一人称がおれなのか。
割と男勝りな性格なのかもな。いらついて剣をぶん投げてたし。
「そうはいきませんよぉ。あなたは
「けっ! 武器は打たねえぞ。今おれはスランプなんだ!」
「大丈夫です、目利きをお願いしたいだけですので」
「あ? 目利きだぁ……?」
マリクさんは俺に近づいてくる。
じろじろ、と俺の体を見つめてくる。
特に……俺の着ている、ばあさんからもらってる、赤いローブを。
「……見せてみろ」
さっきの態度から一転して、真面目な顔つきになる。
何か気づいたのか?
まあ俺には関係ない。さっさと売って帰ろう。
「ほれ」
俺はアイテムボックスから百均ナイフを取り出す。
勇者ブレイバに渡したものとは違って、付与は抑えめだ。
「なっ、なっ、なぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
ずしゃ、とマリクさんがその場に膝をついて叫ぶ。
え、なに?
「なんだこれは! とんでもない、超高度な技術で作られてるぞ、このナイフ!」
高度って……まあ、異世界で作られた品だしな。
作り方はわからんが、工場で量産された、やっすいナイフだぞ?
「素晴らしい! 見事だ! あ、あ、あんたがこれを作ったのか!?」
「え? いや作ったっていうか……」
横流しっていうか。
マリクさんは俺の前で膝をついて、頭を深々と下げる。
「たのむー! おれを、弟子にしてくれぇえええええええええええ!」
「え、ええー……?」
世界一の職人から、なぜか頭を下げられたんですけど?
ただの百均ナイフなのにこれ……。
「すごいですぅ……まさか、あの頑固な職人のマリクが、土下座までするなんて……さすがカイト様ですぅ……」
さて、どうするかな……。
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