第2話 アイドルがうちに居座るわけ
「はあ……」
どうして俺の家にアイドルが居座るようになったかといえば、これには訳がある。27歳の七月、彼女が17の時に彼女の両親が死亡した。死因は事故死だった。
葬式にいた彼女は悲しんでいるというより絶望している……のだったのだろうか。おかしな話ではあるが、俺には彼女が両親の死を純粋に悲しんでいるようには見えなかったのだ。
そんな話はさておき、彼女が15歳でアイドルデビューしたという話は叔父である俺の耳にも届いていた。あのクソガキだった兄貴からアイドルなんて言う何ともご高尚な子供が生まれたことに世の中不思議なこともあるもんだなと感嘆していたわけであるが、そこのマネージャーさんとやらが困っていた。
兄貴の家はそこまで親戚の中で親しまれていたほうではなかった。親の反対を押し切ってというわけではなかったが、そこまでいいイメージを持たれていなかったのだと思う。引き取りたいという人はあまり現れず、両親が高齢出産だったこともあり俺が就職するころには二人はすでに60歳。葬式のあったころにはすでに定年を過ぎて年金受給者となっていた。うちの両親が預かるにしても長崎の実家からじゃ到底都心のアイドル活動はできないし、かといって都内の家賃もろもろを二人に働かせて稼がせるのかという話にもなって、葬式だというのにその場にいたものはずっと金の話ばかりしていた。そんな親戚どもに嫌気がさしたんだろうか。それとも自分が疎外されているような気がしたんだろうか。何にしても彼女は死んだ目をしていた。
「よっ」
俺はなるたけ気さくに話しかけた。不謹慎だとか、この際気にしない。
「覚えてるか?壱次おじさんだ」
「……これは、どうも」
「覚えてないかな。昔はよく頻繁にあったりしてたものだが」
「……覚えています。あの頃はよくしていただいて」
「……アイドル活動、続けるのが難しそうなんだって?」
「そうみたいですね……皆さん私を引き取るの嫌そうですし、このままいけばおじいちゃん家にひきとられるんで、そうなれば長崎のほうに行くしかありません……」
「まあ、兄貴は結構なやんちゃガキだったからな。嫌われても仕方ないかもしれん」
「……」
「……けど、君は関係ないよな」
「え?」
俺は彼女の前に手を差し出した。
「俺の子にならないか?」
これが彼女、村雨十香との初の出会いである。
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