第4話 村雨壱次の朝は遅い

 俺、村雨壱次の朝は遅い。いや、起きるだけなら割と早いほうだけど、ここでいう朝は仕事を始める時間だ。


「すー、すー」

「……」


 あの後、彼女が寝静まったことを確認しリビングのテーブルに着く。クリスマスだというのに徹夜作業とは、俺にサンタさんは来ないのだろうか。


「……」

 

 ぎぃ……とドアが開く音がする。


「おじさん……」

「……十香か」

「なにしてるの?」

「仕事だ」

「遅くまで、大変だね」

「そうでもない」


 そうは言っても、まだ彼女の顔には少し憂いが見えた。


「……ごめんね。今日は付き合わせて」

「別に、これくらい普通だろ」

「深夜にならないと終わらないぐらいお仕事たまってた?」

「明日が期日だからな」

「ごめんね、それなのに」

「いいんだよ。俺の自己満足もかねてだ」

「自己満足?」

「ああ。俺が「十香の親代わりをしてやれてる」っていう荒唐無稽かつ浅はかな夢さ」

「夢じゃないよ……」


 そういいながら、十香は俺の膝に座る。


「お仕事、大変?」

「そうだなー、たいへんだなー」

「毎日遅くまで、ありがとね」

「……見てたのか?」

「毎回じゃないけど、たまに台所に水のみに行くときに、ちょっと」

「そっか」

「……私、おじさんの家に生まれたかったかも」

「あはは、それにはまず結婚しないとな」

「それなら──」

「……十香?」

「……」

 

 静寂が暗がりのリビングにせせらいだ。


「んーん、なんでもない。それじゃあ、私は先に寝てるから。お仕事頑張ってね。あと、ほどほどに」

「ああ、さんきゅ」


 こうして俺は朝の六時まで徹夜することとなった。

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