#09 猫の手を借りたら爆発した男『猫の手を借りた結果』
「どわー!」
ドカーンという大きな爆発音がしたあと、空から真っ黒ななにかがミヒムの目のまえに落ちてきた。
「ええ? なんなの、いきなり? 爆発みたいな音と聞き覚えのある声がしたと思ったら、今度はきたないものが降ってくるし──」
もっと近づいてよく見てみると、それはエゾシカ族のシセロクであることがわかった。全身黒焦げで、所どころ煙が立っている。
「シカの丸焼き……だけど、おいしそうには見えないわね。すっかり焦げちゃってて香りもよくないわ」
ミヒムがしゃがみ込んで観察していると、黒いかたまりはモゾモゾと動きだし、むくりと起きあがった。
「ふう、死ぬかと思っただあ」
「あら、生きてたの」
「あれ? ミヒムさんじゃねえか。こんなとこでなにしてるだ?」
「それはこっちのセリフよ」
立ち上がったシセロクは、首や肩をまわして一息ついてから話しはじめた。
「いやー、参った参った。さっき猫の手を借りたんだけど爆発しちまって。まったく、えらい目にあっただよ」
「は? 猫の手を借りたら……爆発した?」シセロクのまるで要領を得ない説明に、ミヒムは首をかしげる。「順を追って説明しなさい」
「じつはな、さっきうまそうな柿を見つけたんだけど、手が届かなかったから近くにいた猫にとってもらっただ。そしたら爆発しただよ」
「……さっぱりわからないわ。どうして猫に柿をとってもらったら爆発するのよ。もっと詳しく」
「その柿の木がじつはカミナリおやじのもので、怒ったおやじが雷を落として爆発しただよ」
「雷を落としたというのは比喩的な表現よね? おやじが怒っただけでは爆発なんてしないわ」
「いいや、ほんとに本物の雷を落として、それがとなりの家に落ちただよ」
「──頭が痛くなってきたわ。いったい何者なのよ、そのおやじは……」ミヒムはこめかみをおさえた。「まあいいわ。それで、となりの家が花火工房かなにかだったってわけでしょう?」
「ちがうだ。となりもふつうの民家だったんだけど、住んでたのがカンシャクおやじだっただよ」
ミヒムは両手で頭を抱えた。
「──念のため聞いておくけど、かんしゃく持ちの怒りっぽいおやじ、という比喩的な表現よね? そうなのよね?」
「いいや、ほんとに本物のかんしゃく玉みてえに爆発するおやじだっただ。カミナリおやじのうるさい怒鳴り声に怒ったカンシャクおやじが外に出てきて、そこに雷が直撃しただよ。そしたら大爆発して、おらも吹っ飛ばされたってわけだ」
ミヒムは晴れやかな表情で空を見上げている。
「今夜はきっと花火日和だわ……さぞかしきれいに見えることでしょうね……」
「うわー! ミヒムさん、帰ってくるだあ!」
現実逃避していたミヒムは、シセロクの呼びかけにより、ハッと正気にもどった。
「いまひとつ納得いかないところも多々あるけど、いちおう理解できたわ──って、猫はほとんど関係ないじゃないの! 『猫の手を借りたら爆発した』じゃなくて、『食い意地を張ったら爆発した』の間違いでしょう。爆発したのは全部あなたの責任よ」
「そうかなあ」
「そうよ。とにかく、ふたりのおやじに謝ってきなさい」
「ミヒムさんがそう言うなら……わかっただよ」
シセロクは足取り重く謝罪しに行った。
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