勇者と魔王!何かより転生者『人生二度目』の俺の方が強い説!

あきとん

プロローグ 堕落、サラリーマン。

 日の光がカーテンの隙間から眩しく差し込んでくる。

 僕は目うつらうらしながら、眩しさに耐えきれず目を覚ます。

 揺れる窓の隙間からビュービューと、冷たい風が入ってくる。

 家賃の安さが破格なのは、築年数40年のオンボロアパートだからだ。

 至る所が、経年劣化でボロがでている。

 おまけに選ぶのサイズを誤ってしまったカーテン。

 安い買い物だからと言って、確認せず勢いで買ってしまった。

 サイズを調べずに安易にネットで買うのはやめた方がいい。


 1LDKの独身男の一人暮らし。

 畳の部屋にはそぐわないシングルベッド。

 殺風景な寝室。

 六畳の畳の部屋には、ベッドと収納棚。

 それと座椅子と小さい机。

 小さい机の上には、ノートパソコンが1つ。

 余計なものはおかない主義だ。


 僕の名前は、戸田真とだまこと

 先日、30代の仲間入りを果たした。

 職業は、下請けも下請けのSE職。

 年下の上司に毎日どやされる。

 何とも不甲斐ない、平凡サラリーマン。



 外は冬嵐だ。

 今年一番の冷え込みらしい。

 僕は、昨日久しぶりの休みだった。

 残業に続く残業。

 休日出勤と言う名の奴隷生活。

 ほぼ休みなどない、毎日がただ空しく過ぎている。


 ふとスマホに手を伸ばし画面を見てみると朝8時。

 スヌーズ機能は、まったく役に立たない。


 だ。


 包まっていた掛布団から、芋虫のように這い出す。

 慌てても時間は戻らない。

 僕はゆっくりと背伸びをし欠伸をしながら起き上がる。

 くたびれた寝巻、ズボンの裾をずるずると引き摺りながら

 寝室のドアを開け、洗面所へと向かう。


 洗面台には、歯ブラシと歯磨き粉。

 顔を洗う固形石鹸、

 安いからいつもこの赤いパッケージの牛さんだ。

 粗品のハンドタオル。

 無駄を一切なくしたシンプルなラインナップ。

 彼女いない歴=年齢。

 独身男の生活などこんなものだ。


 浴室は洗面台の隣にある。

 珪藻土マットは楽でいい。



 鏡を覗き込むと……

 伸びきった髪はボサボサ。

 目の下にくっきりと深い隈。

 頬がこけた猫背の痩せ細った男。


 今にも


 仕事が休みを良い事に、昼夜問わずゲームをし続けた結果。

 気絶するように寝落ちしたから記憶が曖昧だ。


 唯一と言っていいほどの休みの日。

 堕落した生活を満喫させてほしい。


 僕は、RPGが大好きだ。自分を投影してのめり込む。

 ゲームの中では、僕は主人公だ。


 仲間たちに囲まれ、勇猛果敢に立ち向かい。

 魔物を倒し、魔王を倒し、そして伝説へ―――


 プレイ後に押し寄せてくる感動と虚しさ。

 全てのゲームには必ず終わりがある。

 終わった後、僕は僕に戻る。

 そして、また現実がやってくる。


 出社時間は、朝9時だ。

 自宅からは電車で1時間近く掛かる。

 どうせ年下の上司にどやされる未来しかない。

 なので、もう急ぐことなどしないのだ。


 蛇口を捻り、冷たい水で顔を洗う。洗う。洗う。

 顔を洗うだけでは、恐ろしいほどの睡魔は拭いきれなかった。

 軽くタオルで顔を拭いた。

 まだ、頭が回らない。

 僕は、シャワーを浴びることにした。

 給湯器のスイッチパネルの設定温度を45度に設定する。

 これぐらい、熱めのお湯でないと目が覚めないからだ。


 くたびれたよれよれの寝巻きを脱ぎ捨て、洗濯機に直で投げ込む。

 生まれたままの姿で、浴室に入りすぐさま熱いシャワーを全身に浴びる。


 身体の体温が急上昇する。

 全身が燃えるように熱くなる。

 この痛いぐらいの熱さが良い―――。


 髪を洗い、身体を洗い。


 ――全身が喜ぶ。喜ぶ。歓喜の声をあげる。


 かなり頭がスッキリしてきた。

 十分に温まった。快感だ。

 気分爽快、ホカホカの身体。

 僕は、ウキウキで浴室を出る。


(―――あっ。)


 そこから、プツリと急に意識が途絶える―――。

 目の前が真っ暗になる。

 何も見えない。

 身体の力が抜けガタンと崩れ落ちるように倒れる。


 急に視界が元に戻る。

 おかしな点は、自分がいる。

 別な角度から自分を見下ろしていた。


(なるほど……僕がいる。)


 見下ろした先には、無残に倒れた生まれたままの姿の男。

 情けない、非常に情けないがどうやら僕は死んだようだ。

 倒れている僕はだらしなく開いた口から泡を吹き。

 青ざめた顔、白目をむいて死んでいる。


(聞いたことはあったが、まさか自分がなるとは……。)


 これをヒートショックと言うらしい。

 冬場の寒い時期になると、ニュースで取り上げられていたのを記憶していた。

 急激な温度差があると心筋梗塞を起こしてしまうこともある。


 まさに、今の僕だ。


 たしかに、寝室の部屋はエアコンがあるが、洗面所、浴室についてない。

 今年の冬は、例年に比べ寒暖差が激しかった。

 特に今日は冬嵐状態だった。寒さも一段と厳しかった。


(なるほど、惨めな死に方だ。まだ30になったばかりなのに……。)


 地方新聞の小さい欄にヒートショックで30代独身男性死亡などと

 記事が書かれるに違いない。


 嗚呼、嘆かわしい。


 なんとも呆気ない。

 なんとも惨めな亡くなりかただろう。

 もっと自由フリーダムに、もっと刺激的エキサイティングな生き方ができたなら……僕は変われただろうか?


(そう異世界とか行けたらなぁ……ファンタジー世界がいいなぁ。)


 RPGの勇者の様な、誰からも羨望の眼差しを向けられる存在。

 RPGの魔王の様な、様々な魔物を従わせ屈服させる圧倒的存在。


 そんな、存在になれたら人生ハッピーだろうな―――。


 "その願い、叶えてやらんこともない"


 直接の頭に語り掛けてくる尊大な声。


 "ほんの暇つぶしだ、見ていてあまりにも惨めなので声を掛けてやった"


 突如現れた神様の様なものだろう。

 もし願いが叶うなら、叶えて欲しいものだ……。


 "お主の考えている事は筒抜けだぞ、ふんっヤメヨウカナ……"


 最後の声は、投げやりな感じの片言だ。

 僕は、選択を間違える所だった。

 ここは、最大限の謝罪に限る。


(申し訳ございません、申し訳ございません。

 何卒、何卒、何卒。

 お許しください――お許しください――

 神は、偉大でございます。

 どうか、この不肖の身に神の恩恵を―――。)


 僕は、これでもかと言うほど念じた。


 "ふん、よかろう。我からしたら余興だ"


 "よいか、転生したら我を楽しませろ――。"


(楽しませます!楽しませます!)


 "つまらなかったら次は生まれ変わる事はないぞ"


(承知いたしました―――。)


 "ふふっ、良い返事だ。"


 神様の尊大な声が幾重にも重なり空間に響き渡る。

 僕の意識もどんどん遠のいていく……。

 既に死んでいるはずの身体。

 虚無の空間に一点の光の渦が現れる。

 僕はその光の渦に吸い込まれていく。


 気が付けば手足があるような感覚。


 がある。


 僕は、ゆっくりと目をあける。


 霞んだ景色がはっきりと色鮮やかになっていく――


 目に映のは煌びやかな高い天井。

 美しいブロンドの髪をした女性。

 女性は、こちらを優し気な表情を浮かべ覗き込む。


「エリザ!よくやった!よくやったぞ!」

 その隣で顎髭を蓄えた男が、大声で喜びの声をあげる。

 耳を劈くほどの声に、僕は驚いた。


「ええ……ダルス。元気な男の子よ……。」

 美しい女性が、嬉しそうに僕の手を握る。

 こんなに綺麗な人に触られると恥ずかしい。


「ほぎゃぁ~!」

 僕は、恥ずかしくて離してとバタバタ手足を動かす。

 何か言葉がうまく喋れないんだが――


 女性から逃げ出そうにも、柔らかいたわわと実った山に埋もれ

 身動きがとれない。


 なんだ、転生失敗か?


 綺麗な女性は手を伸ばし、僕を男へと差し出す。

 何をする気だ……。

 と言うか、身体が縮んでないか?

「おおっ、お前の名はクリスだ。良い名前だろう?」

 僕の名を、クリスと呼び、顔を近づけてくる。

 髭がチクチクと痛い。

「ほぎゃぁ~ほぎゃ~」

 痛みに耐え切れず、泣き喚く

「お~よしよし、元気な子よ」

 まるで赤ん坊をあやすような優しい声。

 男は僕を軽々と抱きかかえ、ぐるぐると室内を歩き回る。

 ちらっと、豪華な装飾の化粧台が見えた。

 そこに映姿はの姿の赤ん坊の姿。


 どうやら、僕である―――。


 まさか、赤ん坊からスタートするとは予想外だ。











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