第9話 ほのかに残る甘噛の後
「………………」
「さっきからぼ~っとしてるけど大丈夫? メーアちゃん?」
「あっ、はい。申し訳ありません、奥様」
私は止まっていた手を再び動かし、お皿を一つ一つまた洗い出す。
「くふふっ、メーアったら最近気が抜けているんじゃないの〜? もっと気を引き締めた方が良いんじゃない?」
スカイさ──スカイは作業している私の肩によいしょと肘を置いてきた。
アンタのせいでしょうがっ!
マリアがいる前で、そんなことを口に出せるわけもなく、メーアは気分が憂鬱な中、黙々と皿洗いを続けた。
それを見て何を思ったのか、スカイがメーアの耳に向かって息を吹く。
「はにゃっ!?」
スカイに甘噛された耳の部分が敏感になっていたため、素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
「アハハッ! メーアが、メーアが──『はにゃっ!?』だって、あはははははっ!!」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
よ、良かった〜。危うく大事なお皿を割ってしまうところだった。
「それじゃあ、二人とも仲良くしててね。私は洗濯物を干してくるからー」
「「はーい!」」
「メーアって耳に息を吹き掛けられただけなのに、こんなえっちな声出しちゃうんだ〜?」
そう、スカイは奥方様が居なくなった途端に態度を変える。いつもの日課なので私は最近では気にしなくなり始めていた。
しかし──ムッカー! ガマンよ、メーア。ガマンガマンっ。こういう時は無視が一番なんだから!
……でもね──限度というものがある! 毎日、毎日やられれば流石の私でもストレスが溜まる。
今日という今日はもう許せないので、この嘲笑う小悪魔に無視を決め込み、私は視界からスカイの一切を遮断した。
「へぇ〜、メーアはスカイに対してそんな事するだ〜? ヒッド〜イっ! そんな悪い娘にはお仕置きだよ?」
そう言って、スカイはどこかに行ってしまったようだ。
(はぁ~疲れた。やっとあの小悪魔が居なくなった。これでようやく、仕事に集中──)
「ひゃっ!?」
安心したのも束の間、何かが私の体に触れている感触があった。
「メーアって細くていい体してるよね〜」
「ス、スカイ様っ!?」
消えたと思った変態主は私の腰に手を回し、体全体をいやらしく撫で回していたのだ。
「メーア、私言ったよね? “様”付けで呼ばないでって!」
スカイはさらにいやらしい手付きで、貪るかのようにして私を辱める。
「〜〜〜〜〜〜っっ!!」
「ほらっ、ちゃんと言ってよメーア。──スカイって」
「い……イヤです」
「ほら言ってよ〜〜。じゃないと〜〜」
「意地でも言いませんよっ!」
誰が言うもんですか、こんな生意気な悪魔に!
「……言いなさい」
「やで……」
ドンッ
突如私はスカイに片手で両手を抑えられ、勢い良く壁ドンされた。
「──メーア、あなたナメてるよね?」
「えっ……?」
「私のこと、ナメてるって聞いてんのっ!」
獣のような鋭い目つきとドスの利いた声がか弱いペットである小動物を逃がそうとしてくれない。
「そんな……ことは……」
先ほどとは打って変わったスカイの態度に私は動揺を隠せ切れずにいた。
「次、私に生意気な態度取れば、あなたのその胸が平地と化することになることを心に留めておきなさい。────一度は赦す。次は──ないから。身の程をわきまえることね」
スカイは指先を私の胸に強く押し付ける。
「は、はい……すみませんでした」
「分かればよろしいっ!」
するとスカイは顔を近付け、有無を言わせず私に優しく口づけをした。
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