01 図書室
私は、記憶をなくした幽霊として一人ぼっちで図書館で過ごしていた。
幽霊を見える人は少なくて、だから私はずっとさみしい思いをしていた。
そんな私は、いつも本を読んで暇をつぶしていた。
図書館の幽霊だけど、たまたま図書館で死んだだけ。だから、元々はあまり本を読む人間ではなかった。
けれど、長すぎる一人の時間が苦痛だったから、その内に本を読む事が趣味になっていった。
本はいろいろな知識を与えてくれる。生前は分からなかった本の良さがわかるようになって、すぐに虜になった。
肝心な事……自分の名前や家族の事、家の住所も思い出せないから、どこかに行きたいと思う事がなかったせいもあるかもしれない。
そんな私はある日、自分の事が見える男性と出会った。
小さな学校の、小さな図書室の、その司書としてやってきた男性。
男性は、私の事を憐れんで、いろいろな外の話をしてくれた。
その話はとても楽しいものばかりだったから、次第に男性との時間を心待ちにするようになった。
だから外へのあこがれも強くなって、いつかは図書室から出たいと思うようになった。
男性は、自分の事や、過去の事は語りたがらなかったけれど、それでも私は良かった。
けれど、楽しい時間に陰りが差す。
その頃から、私の記憶がよみがえり始めた。
それは、決して良いものではなく、辛いものばかりだった。
誰かに罵詈雑言を投げつけられたり、叩かれたりしている記憶など。
おそらく生前の私は、虐めを受けていたのだろう。
それで、居場所が図書室しかなかったから、ずっとここにい続けた。
けれど、そんな安息の場所さえも、加害者たちの手によって脅かされてしまったから……。
私は自ら命を断ったのだ。
記憶を取り戻した私は、その加害者たちの顔を思い出す。
みな、もう卒業してほかの学校へ行ってしまっただろう。
しかし、奇跡的に一人だけは戻ってきてくれた人がいる。
私は、本を読んでいて良かったと思いながら、その人がやってくるのを待ち遠しく思った、
この図書室にあるたくさんの本の中には、何をすれば人が苦しむのか描かれているものもある。
どんな事にも人が苦痛を覚えるのか、丁寧に教えてくれるものもある。
本は本当にいろいろな知識を与えてくれる素晴らしいものだ。
だから読書が趣味になって、心からよかったと思った。
「こんにちは司書さん。きょうはとっておきのお話があるんです」
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