01 森
人の目には止まらない場所。
目立たない場所。
人々から忘れ去られた場所。
人里離れた山の中、そこにうっそうとした森がある。
静まりかえっていて、鳥や獣の鳴き声などしない、不気味な森が。
その森には、要らなくなった子供たちが大人たちの手によって、毎日のように捨てられていた。
我儘な子や病気の子、などなど。
そう聞くと、とてもたくさんの子供たちがいるように聞こえるかもしれないけれど。
人数は少ない。
なぜならその森は、人を食べてしまうから。
ばけものがすむ森だから。
今日も、かわいそうな子供たちがやってくる。
その残酷な森にやってくる。
子供たちはすぐに、食べられてしまうだろう。
ばけものに、頭からばくりと飲み込まれてしまうだろう。
けれど、一人だけ違った。
「あら、ばけものさん。私を食べないの?」
その日やってきた女の子、森にやってきたその子供は、食べられなかった。
今まで子供たちを丸吞みにしていたばけものは、食べようとしなかった。
それどころか、「ふふふ」と笑って答えた。
今まで一度も、
「あたりまえだろ? 同類は食べたっておいしくないんだから」
大人よりも大きな体を、声に合わせて震わせながら、少年の声で「これからよろしく」と言う。
歓迎の言葉を聞いた女の子は「ふふふ」と笑った。
その影が、ざわりと動き出して、髪の毛がうねる。
それは、まるで何匹もの蛇のようだった。
森の住人が増えて数日後。
今日も、また子供がやってくる。
「ぐすっ、おかあさん、おとうさん。どうして僕をおいていったの?」
その人物は、
涙を流す小さな男の子。
男の子は、あちこち森を歩いて、自分のいる場所がどこなのかわからなくなっていた。
そのうち、疲れ果ててしまったので、男の子は木の葉がたくさん積もっている場所で眠りについた。
ぐっすり眠った男の子。
夢の中では家の中。
幸せな時間に慰められていた。
その男の子の前に、二つの影がやってくる。
「お腹がすいたから、ご飯を一緒に食べよう」
「お腹がすいた時までご飯をとっておくなんて、頭いいのね」
二つの影は、ぴたりと止まり。
たくさんの木の葉の上で横になっている男の子の姿に気づいた。
じっと、光る目がその男の子を見つめつづける。
近づいてきた何かの気配に気づいてか、男の子が起き上がった。
目をこすりながら、辺りを見回す。
そして焦点の合わない目を、近くにある二つの影の方に向けて、ほっとした声を出す。
「よかった、他にも人がいたんだ」
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