第8話 とりあえず防具が欲しい
プレコール鍛冶屋で武器を買ったナタリワとクロティルドの2人は、
ヴァレンティンから得物を受け取って店を出た。
「次は防具を買いに行きましょうか」
「どこの防具屋さんにするの?」
「ここからだとデュール防具店が一番近いはずだから、そこにしようかしら」
そういうとナタリワは少し驚いていた。
まぁさっきの武器屋決めた時も驚いていたけれど、それよりも驚いていた。
理由は簡単、こっちの世界の地理に強くなっていたからだ。
なぜ元とは違う世界なのに私が場所を把握できているのかといえば、
私が朝寝坊したことと大いに関係がある。
ナタリワが瞼を閉じて夢に旅立った後の事。
明日、いや今日は町にてナタリワと武器等の装備類を買いに行く日だ。
けど私自身この世界に来て数日しか経っていないので、
フルールさんに地図を貰い、(借りるだけで後で返しますと言ったが、あげるあげると押し切られたのでそのご厚意に甘えてしまった。)
星が、自分はここにいるよと伝えるかの如く光っている中、
ナタリワの部屋にて店の場所を大方把握していた。
武器屋は周辺に二件あるが、
重武器だったり高級な材質を使った武器を扱っている店なので、
どちらも私たち二人は行かないでしょう。
遠いところには女性が多く通う武器屋もあるみたいだが、
片道馬車で2時間くらいかかるとのことで断念。
よってそこまで遠くないプレコール鍛冶屋にしよう。
しかもその近くにデュール防具店もあるし、
これならどっちから行っても変わらないわね。
行く順番は明日追々決めるとして、
流石に寝ないと不味いわね、朝弱いのにも関わらずこんな時間じゃ。
いつもと違う場所なのに案外あっさりと寝れた。
ナタリワが一緒だからか、ただ睡魔が強かったのかは分からない。
という経緯があったので装備関連のお店が何処にあるのか、どんな店なのかは把握出来ていた。(フルールさんが居なければどうなっていたのだろうか。)
「デュール防具店に着いたわ。実際は魔道士だとそこまで防具は要らないし、
私自身も軽装備でいいからさくっと決められそうね」
中に入ってみると、少し大きなプレートだったり小さな盾など、
多種多様な身を守るための物が店内に綺麗に陳列されていた。
綺麗に並べてあるね~。とナタリワの声が聞こえて、そうね。と返した。
店主が几帳面なのかと辺りを見回すと、誰かが私たちに話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。お二人はここに来るのは初めてですね。
どうも、店主のシャンタル=レオノールです。」
店主さんはエルフ族だった。
挨拶や仕草の所作一つ一つが丁寧で少し見惚れてしまいそうな程美しいと感じた。
「シャンタルさんですね、よろしくお願いします。
なぜ初めてと分かったんです?
あ、あと魔導士と剣士にあった防具を探してます」
「私は昔から記憶力や観察力だけはいいのですよ。だから大体店に来てくださったお客さんの顔は覚えています。あとは、魔導士と剣士なら主要部分だけを守る軽装備がいいですね」
こちらなんていかがでしょう、とシャンタルに見せられたものは腕や胸を守る鉄でできたプレートである。
値段もそこまで高くなく触り心地もさらっとひんやりしていた。
「私はいいと思うのだけれど、ナタリワはどう?」
「私もいいと思う!触ってみるとすべすべする~」
ナタリワは気に入ったのか、まだ買ってないのにも関わらず頬をすりすりしていた。
「じゃあこのセットを二つお会計お願いします」
「値段は一セット分だけでいいですよ。見たところ駆け出しさんみたいなので」
そう言ったとき、シャンタルは何故だか私の方は見ずにナタリワはしか見てなかった。
一セット分の代金を払い、途中の屋台でちょっとした小腹満たしにバードの串焼きを二本買って帰路へ着いた。
少し甘めなタレにつけてあり、美味しいねとナタリワと語り合いながら家に戻った。
今日は武器に防具も揃えられて良かったと思う反面、元の世界に戻るにはどうすれば良いのかと考えていた。
別にこの世界が嫌なわけではない、むしろ好きではある。
フルールさんにヴァレンティンさんにシャンタルさん、この世界の人は優しいひとばかりだからだ。
シロ、いやナタリワと話した通り帰るには強くなってあの魔導士をどうにかしなければないだろう。
私の家族に直接的に関わってきたのだからまた会う機会があるはずだ。
次に会うときは戦えるように、二人を元の世界で失ったあの時に誓ったように、
強くなる必要がある。
この意志だけは忘れてはならない。
これは信念であり、使命であり、生きる意味であり、それはまた残酷な物でもあるだろう。
明日からはナタリワと共に昔の自分を凌駕するくらい強くなろう。
そうここにはいない憧憬の母へと誓った。
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