異星人襲来。地球をかけた最後の九戦

代々木夜々一

異星人襲来 一巻

第1話 緊急!

 やあ、みんな。


 いや、あいさつはいいのか!


 そんな場合ではないのです!


 地球に危機がせまっています!


「なんだ温暖化の話か」


 そう思わないでください。そんな話ではないのです。事態は緊急なのです。緊急!


 だれかに伝わればと、オープンWEBスペースに書きこんでいます。


 これはハワイ環境局が運営するサイト。ただし、三年前に開設されたらしいのですが、まだ一件の書きこみもありません!


 英語で書こうかと思ったけど、それだと時間がかかる。日本語でも、きっとだいじょうぶ。スマホの自動翻訳がある。だれかが読んでくれると期待したい。


 そうだ。ぼくの名前も書いておきます。ぼくはオチ・タツロウ。


 日本人でなければ「タツロウ」の発音がむずかしいかも。


「タッツ」と呼ばれても、うれしく思います。そう呼んでくれる人もいませんが。


 ぼくはハワイ大学の大学院生、そして日本人です。


 そう六年前にあったハワイ大学の大改革。あのあとに入学した者です。国籍に関係なく論文、推薦状、面接という統一審査。


 いまやハワイ大学は、学生数や学部も大幅に増えました。


 ぼくは天文学部の院生で、ハワイ島のヒロに住んでいます。


 ふつうハワイといえば、ワイキキビーチや、アラモアナ・ショッピングセンターが有名。つまり、オアフ島だと思います。ぼくはそのとなり、ハワイ島です。


 ハワイ島に住むのは、マウナケア山頂に大学の天文台ができたためです。


 天文。ああ、そうだ。ぼくのあやまちは、天文学部であったせいです。かれらに返事をしてしまったのです!


 かれらがくる。ハワイ島のみんな、すぐ逃げて!


 みんなに伝えたい。でもぼくは、いささか困難な状況におちいっています。


 いまぼくは、監禁されています。


 壁にそった四角い金網のなかにいます。


 金網は三メートルほどの高さです。でも乗り越えることはできません。天井てんじょうも金網でふさがれいるからです。下はコンクリートの床。これではどうやっても逃げだすことができません。


 倉庫の片隅にあるこの金網スペース。もともとは腕時計など貴金属の在庫を置くためだったようです。


 ここはハワイ島のヒロという街。その街はずれにある巨大ストア、スーパーストアーズの倉庫です。


 警備員につかまって、監禁されてしまいました。いやまあ、それはぼくが悪いのだけれど。


 その警備員は、いまも近くにいます。ここは倉庫ですが、警備員の待機所でもありました。


 金網ごしのむこう、警備員のデスクがあります。


 大きなスチール製のデスクには、防犯カメラのモニターが数台。そして小さなTVがあります。


 その小さなTV画面で、カブスとメッツの試合を見ている警備員がひとり。


 あの警備員が、ぼくをつかまえました。デスクチェアに座り、大きなシナモンロールを食べています。


 そうだ、疑問に思うかもしれません。なぜ監禁されているのにWEBに書きこみができるのか。それはさきほどノートPCを借りたからです。


 ほんとうは「どこかひとつに電話をかけてもよい」と言われたのですが、ぼくはこううそをつきました。


「父に電話ではなくメールをしたい。なぜなら、ぼくの父はスマホを持っておらず、おまけに耳が遠いから。メールでないと気づかない」


 では、自分のスマホでメールしろ、そう言われました。ですがあいにく、ぼくはスマホも財布も家に忘れてきたのです。


 ぼくの身なりを警備員はながめました。短パンにTシャツ一枚、足はサンダル。なにも持っていないのは明白です。


「ポリス・オフィスには連絡してある。引き取りがくるまで、それほど時間はないかもな。急いだほうがいいぞ」


 警備員はそう言ってノートPCを貸してくれました。


 ここの警備員の服は灰色です。熊が灰色の制服を着ているような、かなり巨漢の警備員ですが、意外にやさしいのかもしれません。巨漢なわりに大きなシナモンロールを食べているので、ダイエットには興味なさそうです。


 いやそんなことより、ハワイ島のみんなは逃げないと!


 ああ、ぼくは説明がへたです。なぜこんなことになったのか。そこから書かないと伝わらない。


 かれらの信号をキャッチしたのは、三日前のことなのです!

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