7 第七話

 目の前にいるのに、手が届かない……。

 あと少しで助けられそうなのに、そのあと少しが果てしなく遠く感じる。


「駄目だ……!! っはぁっ……はぁ……夢か……」


 気付けば天井へと手を伸ばしていた。それに全身汗ぐっしょりだ。


「もう朝か……」 


 朝日が窓から差し込んで来ている。

 慣れない環境だというのにぐっすり寝ていたようだ。それだけ疲れていたってことだろうけど。


 それにしても寝汗が酷い。流石にこのまま汗まみれでいる訳にも行かないな。

 別の服に着替えてから、朝飯を食べよう。丁度昨日買っておいた干し肉と黒パンがある。

 その後は魔力と魔法について調べるとするか。


 朝食を終え、装備を整えてから街を出た。

 流石に街のど真ん中で魔法の研究は出来ない。そんなことをすれば今度こそ監獄入りだろう。


 しばらく歩き、適当に広い草原にやってきた。

 ここならば変に被害も出ないだろう。


「よし……ファイアアロー!」


 発動詠唱のみでの短縮詠唱は成功した。

 この場合魔力消費は大きくなるのだが、昨日と同じくほとんど魔力は消費していなかった。

 となると魔法そのものの魔力消費が減っている可能性がある。

 

 そう言えばギルドマスターが回復魔法十発は謙遜だか嫌味だかって言っていたような。

 もし仮にそれが変な意味も無く言葉通りだとしたら、ここでは魔法を発動する際に消費する魔力が極端に少ないのか……?


 よし、なら他の魔法も試してみよう。


「ウォーターアロー!」


 放たれた水の矢は辺りに生えている草をスパっと斬り裂きながら飛んでいった。

 明らかに切れ味が増しているのは一旦置いておいて……消費した魔力量はファイアアローの時と同じくらいか。


「なら今度は回復魔法を……キュアラ!」


 今までは十発使えばそれでおしまいだったはずの初級回復魔法。

 だが、これも他と同じく全く魔力を消費しなかった。

 どうやら攻撃魔法だけでは無くサポート系のものも同様らしい。


 魔法についてはこの程度だろうか。俺は基本的に初級魔法しか使えないからこれ以上は調べることも出来ない。

 どうせだからその辺りは今度メアリーに会った時に聞いてみるとしよう。


 よし次は接近戦だ。

 昨日のポイズンボア戦もそうだったが体が異常に軽い。

 恐らく身体能力もかなり上昇しているはずだ。


「ブフォォ」


 ちょうどよく近くにビッグボアがいた。

 昨日の謎現象の答え合わせも出来そうだ。


「バフォ……バフォォッッ」

「フンッ!」


 昨日と同じようにビッグボアの前に腕を出す。

 そしてそこにヤツは突っこんできた。


 その瞬間、ぐちゃっという音を立ててビッグボアは崩れ落ちた。

 昨日と同じように奇麗に一部が吹き飛んだビッグボアがそこにはあった。


「おお……」


 やはりあれをやったのは俺だったんだ。

 明らかに身体能力が向上している。それも異常なくらい。

 道理でアイアンアントの堅い外殻もスパスパ斬れた訳だ。


 ただ何故そうなったのかは未だわからない。

 こればかりはもっと情報を集めないと駄目そうだ。


 確かめたいと思ったことはあらかた試し終えたためとりあえず街に戻ろうとしたのだが……そこで何か嫌な予感がした。

 第六感ともいうべきものだろうか。言葉では言い表せないが、何か体の奥底から湧き上がる不快感が体中を駆け巡る。


「何かが……来る?」


 一際不快感が強くなったと同時に、辺り一帯が暗くなった。


「ギュオァァァ!!」


 一瞬だった。一瞬だけ俺の上空を何か巨大な物が通った。それしかわからなかった。

 具体的に何なのかはわからない。だが、放っておいて良いものでは無い。それだけは確実だ。

 早く街に戻ったが良い……心の底からそう思った。

 

 胸騒ぎに従うように街へ戻ると、中はてんやわんやの大騒ぎになっていた。

 その反応から改めて理解した。理解せざるを得なかった。あの影はただ者じゃない……と。

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