5 第五話
森を進んでどれくらい経っただろうか。
日の光の位置からしてそう経ってはいないはずだが、早めに達成するに越したことは無い。
と、どうやら向こうから来てくれたようだ。
カンカンと甲高い金属が弾けるような音を立てながら森の中を闊歩する存在。
種族としてもかなり能力が高く、群れを成さずに自由に行動している。
と言うより、他の個体が縄張りに入ることを極度に嫌う性質がある。
「ついに現れたな……アイアンアント……!」
全身が銀色の金属のような硬い外殻で覆われている。そのため斬撃攻撃は効果が薄い。
だがそんな堅牢な体も高温には弱い。炎で燃やせば体の内部が焼けて動きが鈍くなる。
しかし問題は、俺が使える炎系の攻撃は超初歩的な炎魔法『ファイアアロー』だけなのだ。
お世辞にも火力があるとは言えない。ましてやアイアンアントレベルの相手に効果的かどうかと言われれば……。
いや、とにかくやるしか無いんだ。
倒せなければ終わり。死に物狂いでやって見せろ俺……!
「ギギギ……」
ヤツは金属の擦れるような音を立てて歩き続けている。
なら今の内に出来るだけ近づかせてもらおう。
極力足音を立てないようにしてヤツの背後にまで近づいて行く。
後はファイアアローを……頼む、これで終わってくれ……!
「燃えろ炎の矢……ファイアアロー!」
「グギギィッッ!?」
不意打ちの一撃は見事命中した。
だがこれだけで終わるとは思えない。後何発必要だろうか……。
俺の魔力量だと使えて後二発程……ってうん?
魔力が……ほとんど減っていない……?
ファイアアローは魔力消費量が300程のはずだ。当然だが俺の魔力量ではそうポンポン撃てるものでは無い。
しかし、今の俺の魔力量は恐らくまだ九割以上残っている。
「ギ……ギィ……」
「まだ生きていたか……って、え?」
これまた不思議なことが起きていた。
とても火力があるとは言えないはずのファイアアローたった一発で、アイアンアントが倒れたのだ。
「信じられない……そ、そうだとどめを……!」
そうだ。まだ安心はできない。とどめを刺さない限り魔物は襲って来ると考えるべきだ。
その昔、倒したと思って油断して後ろから喰われた冒険者もいたって言うしな。
「ふぅ……これで流石に死んだだろう」
短刀を使って完全に頭と胴体を別れさせた。
これも驚いたのだが、短刀の切れ味が今までとは比べようも無い程に跳ね上がっている。
何と言うか、俺の何もかもが上方修正されていると言った感覚だ。一種のバフ……なのか?
まあいい。依頼は達成したんだ。今は街に戻ろう。
……そうして街へ戻った俺をまず最初に出迎えたのは厳つい冒険者の二人組だった。
「よう、アンタ……魔力量が凄まじいってんで専属契約したんだってな」
「あ、ああそうだが……」
ガラが悪いにも程がある……。
もしや急に現れて専属契約することになった俺に対して不信感を持っているのか?
いやそれもそうか。不自然だもんな……。
「アンタが何モンなのかは知らねえが、この街で一番の魔法使いってのはなぁ……既に決まってんだよ」
「おう、既に決まってんだよ」
「そ、それは申し訳ないことをしました……その、今持ち合わせが無くて……」
こんな時は金を払って退散するに限るが……今俺は金を持っていない。不味い。
何とか見逃してくれ頼むから……。
「金ェ? そんなのいらねえんだよ」
「おう、いらねえんだよ」
「俺たちの目的はたった一つ……!」
「おう、たった一つ」
男二人はジリジリと近づいてくる。
「しまった……」
いつの間にか後ろには壁があった。もう逃げられない。
「す、すみません……どうか命だけは……」
「俺たちの師匠に、魔法を教えていただけませんか!」
「おう、教えていただけませんか!」
「ひぃいっ……って……えぇ?」
男二人は頭を下げて俺に頼み込んできたのだった。
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