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メヂカラ
ヤギとサソリと裏取引
第1話 ヤギとサソリ
「じいさんが亡くなった・・・?!」
そいつは唐突な電報だった。そしたら葬式やるからすぐに実家に帰ってこいとせかされ夜遅くだと言うのに通っている大学の方に連絡を入れ、次の日の一番電車で実家のある岩手県の方までおもむく。
電車の中。オレ以外まともに乗っていないその空間で窓越しに外の景色をダラリと眺めながらあの不思議なじいさんとの記憶が蘇ってゆく。
「君がアイ君だね」
ゆっくりと手を伸ばしながらかけられた声の主は年老いていたが、その声の色から裏にある大きな生きた時間の差を知らしめるようであった。
これがオレとじいさんとのファーストコンタクトであった。
オレの名前は先ほどから言われているように[アイ]と言い、そんときにじいさんの苗字の[下院]をもらいそこからは[
赤子の頃に施設に捨てられた孤児といったこと以外は至って普通な俺の元に飛び込んできた数少ない身内の死。
しかし、電車は気持ちの整理のつかない中、オレの気持ちとは裏腹に電車は足を止めず、着々と目的地へと足を進めていた。
家に着いたときにはかなり県の奥の方にあると言うこともあり、電車だタクシーだバスだと乗り継いでいたら、着いたときにはもうすでに夕方になってしまっていた。家の玄関に着くと母さん。[マイさん]が出迎えてくれた。マイさんは相変わらず全部屋畳のこの屋敷で何故か映画で見るような西洋のメイドのように白黒でロングスカートな格好でいた。万年この様トンチキな格好だが、詳しい理由は俺も知らん。
そんなことを考えているとマイさんの方から声をかけてくる。
「おかえりなさい。アイ。この長距離だもの疲れたでしょう。さぁ中に。」
「ただいま。マイさん心配ありがとう」
こんなやりとりをするとそのまま中へ入っていく。
とりあえず茶の間の座布団に腰掛け、マイさんが入れてくれた熱い茶を口にする。
するとマイさんが口を開いた。
「しかし、垢抜けましたねアイ」
「そうかな、俺としてはあんま変わった気はしないけど」
「いいえ、ここにいた時は万年同じシャツに短パンで過ごしていたのが、年頃の男子らしい格好しながら、髪までそんな金色に染めてるではありませんか」
「いやぁ、流石に元の髪色だと目立ったてのもあるんだがなぁ」
そんなんで一息吐こうとするとその息を肺に戻すような勢いで、奥の方から恐らくはじいさんのものであろう喪服を出してくる。
「しかし、お葬式まであまり時間がありませんのでお早めにお着替えを」
と少しばかり申し訳なさそうにマイさんが言ってきた。
そもそもマイさんが出してきてくれた喪服はじいさんがしばらく前に来たっきりだと言うのにかなり綺麗になっておりまるで新品同様だった。こう言うところでマイさんの仕事っぷりが発揮されているのを見ると少し気分が良く、そんな些細なことはどうでも良くなってしまった。
そんなんですぐに着替えると、歩いて会場の方へと足を向ける。
葬式自体はかなり小ぢんまりとオレとマイさんと町の知り合いが10ポッチで行われ、そっから3日かけてお通夜から火葬まで済まされると家に戻った瞬間にそのまま疲れから茶の間の座布団をの上でばたりと眠ってしまい。気がつき、起きたときにはもう既に夜の9時だった。
「あぁ。お気づきになられましたか」
マイさんが洗濯物を畳みながら声をかけてきてくれた。
「あぁ。寝ちゃってたのか、昼頃に戻ってきたから。六時間も寝てたのかぁー」
そう言うとせっかく起こした体を力が抜けたように再び体をたおす。
はぁ、とため息をつくと再び重い体を起こしてマイさんにしょぼくれた目をしながら
「ご飯ってもうつくった?」とだるそうに聞く。
「大丈夫。つくってありますよ。あまり時間がなかったので簡単なものですが。」
そう言うとマイさんは立ち上がり台所の方からラップにかけられたご飯とネギの味噌汁と生姜焼きとサラダをおぼんに乗せて持ってきてくれた。
オレは目の前のバランスの良い食事に軽く手を合わせた後無言で口へとかき込むと、
「うまい」
とボソリと呟くとあっという間に平らげてしまった。
そのまま食器なんかを台所の方に置きに行って戻ってくると、茶の間のテーブルのマイさんと小さな木箱と縦に嫌な折り方のされた紙が置いてあった。
オレは言われるまでもなくマイさんの正面に座り込む。そうすると静かにゆっくりとマイさんが口を開いた。
「ここに置いてあるのはユウさんが、自身の死後に直接渡してくれと託されていたものです。本人曰く[絶対にアイにマイが直接わたせ。]だそうです。」
と口調そのまんまにマイさんは俺の前に木箱と手紙を近づけてくる。
その手紙を開けようとするとマイさんが注意するように。
「あぁ後。その木箱と手紙は一人だけの時に開けろ。とのことです。」
そう言うとマイさんは席を外し、扉を開け、何処かへと歩いていってしまう。
呼び止めようとするが、一人にして、開けさせようと言う目論見だろうと解釈し、そのうち中身を見れば戻ってくるだろうと考え、呼び止めようとした手を引っ込める。
のちにこの時止めておけば良かったと、後悔することも知らずに。
ともかく、中身を読まねば何も始まらぬと思い、はらりと文についている紐を取り、中の紙を取り出す。
一つの文に目が止まる。そいつは普段あまりふざけないじいさんが書かないような文。
「アイ。唐突だが、お前の首に賞金が掛かった。莫大な金額だ私のせいですまない」
当時のオレは知らなかった。これから巻き込まれるとある遊戯のことを。
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