お暇する時間
「そろそろお暇する時間かな」
アーロンは部屋の壁掛け時計を見て言う。
それに従うように皆一斉に立ち上がり、ロジーに頭を下げながら部屋を出た。
最後尾にいたアーロンも部屋を出ようとした時、ふと後ろを振り返り立ち止まった。
「……ごめん、もう少しだけ2人で話したいから、下で待っていて貰ってもいいかな?」
ルイスがその言葉に了承すると「ありがとう」と言って部屋に戻って行った。
皆で下へと降りると、店主が店の後片付けをしている所だった。
「お邪魔してすみません。アーロン先生が戻ったら帰りますので」
そうルイスが店主に話すと、店主は手を横に振った。
「いえいえ、うちはいつまでもいてくれて構わないんですよ。アーロンさんにはいつもお世話になってますから」
「いつも?」
ロボが反応する。
「ええ、アーロンさんはうちに度々来てくれて。母の病気の診察や薬の手配をしてくれたり、自分がいつも側に居られる訳ではないからとこの近くに住んでる腕の良いお医者様を紹介してくれたり、本当に良くしてくれたんですよ」
「先生が度々家を空けていたのは、ここに来ていたからだったんですね」
「でも、お医者様からもうそう長くはないだろうと言われているんです。アーロンさんのお陰で病気の進行は緩やかでしたけど、病気が見つかってもう大分経ちますからね。だから今日皆さんを連れて来たのでしょうね。特にお二人は母と面識があったそうですから」
店主はルイスとナタリーを指した。
「だから、母とアーロンさんの事は少しでも長く一緒に居させてあげ下さい。僕にも子供がいますけど亡くなった子はいないので想像するしかないんですけど、親の自分より先に子供を亡くすなんて、どれ程の精神的苦痛を伴うのでしょうね」
そう言うと、店主は軽く会釈をして大きなバケツを持って店を出て行った。
しんと静まり返った店内で、ルイスがハッと我に返ったような顔をする。
「店主さんになにか手伝えることないか聞いて来る。どうせする事ないんだしな」
そう言うとルイスは店主の後を追って行った。
その姿を見送りながら、ロボは先程のロジーの言葉と店主の言葉を思い返していた。
「お待たせ」
アーロンが二階から下へと降りて来たのは、大分時間が経った後だった。
アーロンが下へと降りると、ルイスやナタリー達は箒や塵取りを持って掃除をしている最中だった。
アーロンはそれをゆっくりと観察すると、店主に聞いた。
「あれ、ここってこんなに沢山人を雇ってましたっけ?」
「ああ、アーロンさん。いやあ、皆さん本当によく動いてくれて、最近歳のせいか身体を動かすのがしんどくなて来ていたので、大助かりです。本当によく気が付く良い子たちですねえ」
「ありがとうございます。僕がだらしないのでその分子供たちの方がしっかりしてしくれて、僕もいつも助かってるんですよ」
「先生」
アーロンと店主が話している所に、ルイスが声を掛けた。
「もういいんですか?」
ルイスの言葉にアーロンは少し間を置いて、にっこりと笑って答えた。
「うん、もう大丈夫。そろそろ帰ろうか」
アーロンはルイスの頭を軽く撫でると、店主に言った。
「こんな遅くまでお邪魔してすみません。そろそろお暇させて頂きますね」
「いえいえ、こちらもなにもお構い出来なくて。またいつでもいらしてくださいね」
「はい、また来ます」
店主に挨拶をしてアーロン達は来た時と同じ、魔法陣で家へと帰った。
ロジーの家を訪ねて数日が過ぎた時、家にチドリが訪ねてきた。
「おい、アーロンはいるか」
庭で薪を割っていたロボは、チドリの問に少し考えて答える。
「今は書斎にいると思うが、なにか用か?」
「届け物だ。おこちゃまには後で構ってやるから、仕事に戻りな」
チドリはそう言うと、手で払うような仕草をした。
ロボはチドリの言動に苦い顔をしながら、大人しく従った。
その晩、夕食の席でアーロンが真剣な面持ちで全員に話し掛けた。
「ロジーが亡くなったと知らせがあったんだ。葬儀は親族だけで行うそうだから、僕だけ明日行ってくるね。留守を任せてもいいかな」
「はい、わかりました」
こういった事は過去にもあったのか、ルイスはあまり言及したりすることなく素直に従った。
「家の事は気にしないでいいですからね」
ルイスの言葉にアーロンは「うん、ありがとう」と言った。
次の日の晩、アーロンが帰ってくることはなかった。
気になったロボがルイスに聞くと、毎度こうなのだと答えが返ってきた。
「その日は丸一日帰ってきませんけど、次の日の朝にはケロッとした顔で帰ってきますから、心配はいりませんよ」
そう言うと、ルイスはミア達の寝かしつけに行ってしまった。
次の日の朝。
朝食を食べている時にアーロンが満面の笑みで帰って来た。
「ただいまー! お土産買って来たぞお」
アーロンの帰宅にミアとノアが駆け寄る。
「美味しそうなドーナッツ屋さんが新しく出来てたから、幾つか買ってきたよ」
そう言ってアーロンは袋からドーナッツを取り出して、1人ずつ手渡した。
「朝ご飯の最中だったんですけど、ご飯残したらどうするんですか」
ルイスが抗議する。
「大丈夫だよ。このぐらいペロッと食べられるよねー?」
アーロンがそう問いかけると、ミアが賛同する。
「じゃあ、これはロボ君の分ね」
アーロンがロボへドーナッツを手渡そうとした時、ドーナッツの包み紙を落として急にしゃがみ込んだミアの頭と当たりそうになり、ロボは咄嗟にアーロン腕を掴んで阻止した。
その時掴んだアーロンの袖は、酷く濡れていた。
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