歩み寄り
「リザードマンの血が入ってるのに、あんまりお肌がゴツゴツしてないんだね。どちらかと言えば魚人種みたいなお肌してる気がする」
そう言いながら、ミアは無遠慮にロボの頬や腕を触っている。
その姿をノアはハラハラとした様子で見ていた。
「入っていると言っても薄いのかもしれないな。祖父母がリザードマンだったとか。両親の事はよく知らないから、なんとも言えないが」
「そうなんだ。ミア達はね、お父さんが人間でお母さんが鳥人種だったの。ハーフって言うんだっけ」
そう言いながら、ミアは自身の羽を大きく広げて見せた。
「ノア君も一緒だよ」
そう言ってノアの方を見ると、ノアは諦めたように自身の首に掛けてあったネックレスを外した。
双子の筈なのに、2人の持つ羽の色は異なっていた。
ノアは濃い茶色をした髪色を持っているのに、その翼の色は黒に近い色だった。
同じように自身の身体を覆える程の大きな翼であるのは同じだが、その翼は片翼しか生えていなかった。
気まずそうに眼を逸らすノアの様子を見て、ロボはあまり深く言及する事を避けた。
「双子なのに、翼の色は異なるんだな」
「うーん、なんでかな。お父さんの影響なのかな? わかんないや」
ミアは少し考えるような顔をしたが、すぐにやめた。
「こんな姿してるけど純粋な鳥人種じゃないから、羽が生えてても飛ぶのは少し苦手なの。だから、大きくなったら自由に飛び回れるようになって、色んな所を旅するのが夢なの」
ミアは思いを馳せるようにうっとりとした顔をした。
「だから、飛行の練習に付き合ってね。普段はノア君に手伝ってもらってたんだけど、ロボ君も魔法が使えるんだもんね」
「ロボ君……」
ミアよりは年上であるにも関わらず、君呼びな事にロボは動揺していたが、まるで気にしていないような顔でミアは見ていた。
抗議をしようか迷ったが、年功序列なのではなくここに来た順で序列が決まっているのなら、ミアのこの言い方は間違っていないな、とロボは思い直し何も言わなかった。
「さっきと同じ魔法をミアにかけてくれればいいから! それで飛ぶのを補助してね」
「ま、まあ、俺に出来る事なら手伝うよ」
ミアの勢いに押されるように、ロボは承諾した。
「ロボ君はそういうのないの?」
「そういうの?」
ロボは首を傾げる。
「夢とか、大きくなったらやりたいこととか!」
ミアはキラキラとした瞳でロボを見る。
「夢……。考えた事もなかったな」
ロボは考え込むように顔を伏せる。
「なら、考えといてよ! 私達がこの家を出るまでに」
「この家を出て行くのか?」
「うん! だってノア君と2人で世界中を旅するのが夢なんだもん。大人になってこの羽根が全部生え変わって上手く飛べるようになったら、身支度をして出て行くって決めてるの。だから今の内から飛ぶ練習と野宿した時の練習をしてるの。ノア君には私には出来ない魔法の勉強をお願いしてるんだよ」
「そうか。今から準備をしてるなんて偉いな」
「えへへ。そんなことないよ」
ミアは褒められて嬉しそうな顔をした。
「でも、本当に考えておいてね。ロボ君のしたいこと」
「まあ……、少しづつ考えてみるよ」
ロボは少し寂し気に笑って答えた。
「しかし……」
ロボは思い出したように立ち上がり、側に転がっていたミアのネックレスを手に取った。
「何処かで引っ掻けたのか、千切れてるな。劣化していたってのもあるんだろうな」
ミアのネックレスを見ながら、ロボは呟く。
「これと同じ素材のものはまだ残っているか? なければ俺が適当に紐を編んでそれっぽくするか……」
ぶつぶつと呟きながら思案するロボに、ノアが声を上げた。
「同じではないけど、紐ならあったかも」
そういうとノアは家から茶色い紐を持って戻って来た。
「麻縄か。まあ、応急処置としてはいいか」
そういうとロボは麻縄を数本手に取り、器用に編み込みを始めた。
その様子をミアは目を丸くして見ていた。
出来上がったものにネックレスを結び付け、ロボはミアに手渡した。
「ほら。急ごしらえだがマシだろ。アーロンに言って早めに新しいのを買って貰った方がいい」
ネックレスを受け取ると、ミアはキラキラとして瞳で尋ねる。
「編み物出来るの?」
「編み物って程のものじゃない。ただの紐だぞ?」
「凄い! 編み物出来るんだ!」
ミアは大袈裟な程にはしゃいでいた。
「大袈裟だ。ただの本に載っていたことをやっただけだぞ」
「だってミア、本の説明読んでもわからないもん」
ミアは口を尖らせる。
「ミアね! 花冠作りたいと思ってたの! 作り方教えて!」
「いや! 俺作り方なんて知らないぞ!」
「大丈夫! 作り方書いてもらったメモがあるから、それを読んで教えてくれればいいから!」
そう言いながら、ミアはロボの手を強引に引いていった。
甲高い子供の声が外から家の中まで聞こえてきている。
その声をアーロンは微笑まし気に聞きながら、部屋で一人机に向かい、幾つかの手紙を真剣な表情で読んでいた。
その時、アーロンの後方から声が振ってきた。
「渡した手紙は読んだか?」
「うん。今読み合えたところだよ。届けてくれてありがとう」
アーロンが振り返ると、そこにはチドリが浮かんでいた。
「ロジーの家にも行ってくれたんだね。ロジーの様子はどうだった?」
「もうそろそろ危ないだろうな。あと数日ってところだろう」
「そっか……」
アーロンは目を伏せる。
「他の街の様子は?」
「どこも荒れてたな。暴動が頻発していて部隊が駆り出されていた。レジスタンスの動きも活発化してるって話だ」
「そっか」
チドリはふと思い出したような顔をして、声を潜めた。
「そういえばあのガキ、ロボって言ったか? あいつもしかして」
「うん、多分そうかもしれない」
「はあ?! どうすんだよ。お前の手に負えんのか?」
アーロンの返答にチドリは驚いたように叫んだ。
「わからない。でもあの子は優しいから。きっと大丈夫だよ」
楽観的なアーロンの顔を、チドリは少し呆れたような顔で見ていた。
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