不憫な魔王と不運な勇者。
音佐りんご。
第1話「私はその娘レイラ・ウルリカ・シュテリーナ・ファウストゥスです。」
◇◆◆◇
魔王の居城。
玉座の間の扉前に勇者ニコロ。
手記を書いている。
勇者:僕――いや、俺の名前はニコロ・マルフィ。世界を救う勇者をやっている。
勇者:絶大な魔力とカリスマ的な支配力で魔族を率い世界を征服せんとする魔王、ノヴァリス・ヴォルフ・シュテオロ・ファウストゥス。
勇者:今から十六年前、突如、彼の王は全世界に軍勢を差し向けた。それにより世界は混沌の時代を迎えた。
勇者:そんな魔王を討伐するために俺は戦い、ついに彼の魔王の居城ファウストゥスの玉座、その扉の前まで辿りついた。この先に魔王がいる。
勇者:俺はやつを倒す。そして必ずや、人々の不安で眠れぬ夜と俺の長い旅を終わらせる。
勇者:そう、あの人の為にも――。
勇者:――っと。手記はこんな感じで良いか。
勇者:……よし。行くか。
ニコロ、手記をしまうと扉を押し開ける。
玉座に魔王レイラ。
魔王:おぉ、勇者よ!
勇者:……お前が!
魔王:我が手勢を退けよくぞここまで辿りつ……けほっ、けほっ……!
魔王、激しく咳き込む。
勇者:……おい?。
魔王:けほっ!……ごめん、なさい。……んんっ。……ふぅ。
勇者:……。
魔王:辿り着いたな!待っていたぞ。勇っ、者。
勇者:耐えたな。
魔王:けほっ、けほっ!……名は何という?
勇者:ニコロ・マルフィ……だが、
魔王:勇者、ニコロ・マルフィ……!けほっ。けほっけほっ!
勇者:あー……貴様が、その、……魔王?
魔王:そう、我こそは魔族の軍勢を率い世界を征服せんとする魔……けほっ!王だ。
勇者:……なんて?
魔王:魔……けほっ!んんっ……!魔、けほうっ!
勇者:……。
魔王:けほっけほっ!けほっ!
勇者:えーっと……。あの、大丈夫?
魔王:けほっ、けほっ、……ま、魔お……けほっ!はぁはぁ、魔けほっ!魔!まぁっ!!けほっ!けほっ!
勇者:いや落ち着けって!一旦深呼吸しろよ、息乱れてるぞ!
魔王:あ……、深。呼吸……?んんっ!すーー……ふぅ。
勇者:落ち着いた?
魔王:おかげ、様で。……あの、ごめんなさい。
勇者:……何が?
魔王:実は私、持病であんまり長くないのです。
勇者:え?そう、なのか……?というか聞きたいんだけど。
魔王:はい?
勇者:ここって玉座の間、だよな?魔王城の。
魔王:はい、代々魔けほっ、うに伝わる由緒正しき玉座の間です。
勇者:……その豪華で禍々しい雰囲気の、
魔王:ええ。
勇者:椅子、というか、リクライニング式ベッドみたいなの、ほんとに玉座?見たことある気がするんだけど、病院で。
魔王:見て分かりませんか?玉座です。
勇者:ベッドじゃなくて?
魔王:ベッドにもなるんです。
勇者:はぁ。
魔王:私のために四天王の一人、マッシブ・ゴリアスが作ってくれた自慢の逸品です。
勇者:あいつが作ったんだ……。意外に器用だったんだな。
魔王:ええ、「おいらに任せなぁレイラ様ぁ!」と。あなたが殺したマッシブ・ゴリアスが。
勇者:……。
魔王:だから、これは形見ですね。ふふ、彼の優しさを感じます。……うっ、ぐすっ。ひくっ……けほっ、けほっ!
勇者:……。あの。なんか、ごめん。
魔王:んんっ。……ふぅ。良いのです。私はあなたを決して許しませんが、あなたにも彼を手にかけるだけの事情がある。
勇者:それは、
魔王:それが戦いなのですから、仕方の無いことです。咎める資格などあるはずも無い。ですが、私は魔、けほっ!うとして、彼の仇をとらな……けほっ!けほっ!
勇者:……あんた、ほんとに魔王、で合ってる?
魔王:はぁ、はぁ……あ、合ってます、よ?
勇者:違うと言って欲しかったわ。でも僕――俺の聞いてた魔王って、何百年と生きてる大男の筈だったんだけど……ほんとに?
魔王:あぁ……父は、先代魔けほっけほ、王、ノヴァリス・ヴォルフ・シュテオロ・ファウストゥスは、昨年の暮れに亡くなりました。
勇者:そこはすらすらと言えるんだ。……え?死ん?!じゃあ、あんたは?
魔王:私はその娘レイラ・ウルリカ・シュテリーナ・ファウストゥスです。
勇者:えぇー!?知らないうちに魔王が代替わりしてた!?あの、ほんとに失礼な質問で申し訳ないんだけど、
魔王:なんでしょうか?
勇者:どうして先代魔王は死ん……お父様は亡くなられたんだ?他の勇者に倒された、とか?
魔王:はぁ?
勇者:え?
魔王:勇者に?勇者風情に?っは!そんなわけほっ!けほっ!……ぁ、ありません!
魔王:お父様は歴代最高の魔力と知性と高潔な意志と優しさを兼ね備えた至上の支配者で、勇者如きにけほっ!けほっ、けほっ……!!
勇者:お、落ち着けって、ゆっくりで良いから。
魔王:はぁ、はぁ……。……ふぅ。
勇者:……どうして亡くなったの?
魔王:父は、
勇者:父は?
魔王:……ろ、老衰で……。うぅ……。
勇者:天寿全うしてんじゃねぇよ魔王!
魔王:うぅ、大往生でした……。
勇者:なんか腹立つわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます