第27話


牧田は、自分の盗撮写真を撮って、以前晒されていた掲示板の続きに自分でアップした。




-盗撮成功、ちょろい、カメラ設置完了




そして、別アカウントで、その下に自分でコメントをいれる。




-お前、マジやべえ、今警察動いてるぞ




「これで、小心者なら、動くはずです」


牧田と照代は、目をあわせてうなずく。


罠をセットしたから、後は動くのを待つだけだ。




翌日、盗撮アプリの不審者チェックに引っ掛かった女性社員がいた。


女性社員は営業部の28歳の社員で、牧田は知らない人だった。




不自然にすべてのトイレのサニタリーボックスを確認していたため、すぐに特定できた。




牧田は奈津美にその社員の情報を依頼する。


奈津美は3日後に、その社員の男女関係の情報を牧田に伝えた。




「・・・奈津美さんありがとう。相変わらず、凄いネットワークね。またごちそうするわ」


電話を切る。




牧田が3年前に、1ヶ月だけ付き合った男の元彼女だった。


ちなみに、その男は、社外の女性と結婚している。




(・・・・恨むなら、今の奥さんじゃないの?)




その男とも、本当にわずかな間で、付き合ってるに入るか分からない程度だった。


牧田は男を部屋に上げない主義なので、その男の部屋に何度か泊まったくらいだ。




(照代さんに、言いたくないわ)


親戚のおばちゃんのような関係になった照代に、生々しい男関係を知られたくなかった。


しかし、これから追求する以上、知らせない訳にはいかない。




照代に正直に伝えたところ、


「おばちゃんは、美香ちゃんみたいにモテたことないから。


お父ちゃん一人でいっぱいいっぱいよ。」




と言った。牧田は、責めない照代の優しさに救われる。




「さ!お仕置きに行きましょ!」


「はい」







終業時間を見計らって、犯人の女性社員を待ち伏せる。




「近藤さん、あなた私に言うことあるんじゃない?」


「ひっ!」




牧田の顔を見た瞬間、ダッシュで逃げ出した。


が、会社の出入り口のフラッパーゲートで引っ掛かる。




「捕まえた!観念しなさい」




そして、その女は、男に「好きな人が出来た」と言って振られて、すぐに男が牧田と付き合い始めたことを知ったこと、その間、社内で牧田が色んな男と噂になる度にムカついていたこと、さらに自分の同期がみんな結婚して、自分だけが行き遅れてイライラが溜まり、やってしまったことを告白した。




「あのねぇ、完全にそれは逆恨みよ。最後の自分だけが結婚してないなんて、知ったこっちゃないわよ!あなたみたいな性格ブス、結婚出来なくてあたりまえじゃないの!」


「あなたは、生まれつき美人だから分からないでしょう!」


「私は・・、私だって、性格ブスって言われたことあるわよ!男だって見た目だけでは見てないわよ」


(まあ、見た目で得すること多いけどね)


「恋愛するときは、ちゃんと仕事や他人に迷惑かけないようにするのがマナーでしょ!」


「あなたみたいな冷たい女には分からないわよ!」


「・・・」


(・・・この女、ハイヒールで踏み刺したいわ)




牧田は、他人事のように聞き流したが、少しだけダメージを受けた。




「被害が私だけだから今回は警察には通報しないけど、次こんなことやったら、即人事部に報告するわよ」




マイナス100度の冷たい目線で見下ろし、牧田は言った。


女は悔しそうな顔をしていた。









すぐに犯人の女、近藤は退職届けを出し、1週間後には会社を去っていた。




牧田は、今回の件の現況となった男(元彼)に、このことを奥さまに言われたくなかったら・・と脅し、大きな貸しを作ったのだった。


(まあ、社内に優秀な手駒が増えただけ、よしとするか)




最後に、一つだけ不安が残った。




なんと、犯人の女は、未だに牧田を恨み、牧田の男遍歴を掲示板に書き込んだのだ。


(警察に付き出しておけばよかった)


牧田は後悔する。




「あの女、結局すぐに退職して、家も引っ越して・・、追求のしようがないわ!」




「美香ちゃん、大丈夫?」


照代が心配そうに言う。




「気にしないで下さい、まぁ、ほとんど間違ってはないんで・・そのうち噂は消えるでしょう」


牧田は、そう言いながらも、少しだけ落ち込んでいる。




「ちょっと、息子にどうにかならないか、聞いてみるわね」


(相手とコンタクトが取れないんじゃ、どうにもならないです、照代さん)







次の日には、掲示板からメッセージが消えていた。




「息子がね、IDっていうの?乗っ取って、本人に連絡できたみたいよ」


「え”・・マジですか?」


(どうやって、IDとパスワードの情報を知り得たのよ!照代さんの息子の方が100倍ヤバイわ)




「ほら、美香ちゃんが、本当の恋に落ちたとき、知られたくないでしょう。


ああ、でもね。


これくらいのこと、知ってて守ってくれる男と結婚しないとだめよ!」




(そんな男、いるわけないじゃない・・)


牧田は苦笑いをした。




それからというもの、犯人の女は二度と書き込まなかった。







照代は朝からお弁当を準備する。




「かーちゃん、ご機嫌だな」


「美香ちゃんがね、お母さんにお礼にって、口紅くれたのよ」


「ほー」


「口紅なんてもらったことないから、嬉しくて。どう?似合う?」


「掃除のおばちゃんには、必要ねーな。」


「あと、美香ちゃんが、お母さんのお弁当のレシピが欲しいって。いつか本当に好きな人が出来たときに、食べさせたいんだって。


女の子はかわいいわ~。うちは、息子一人だから、嬉しい。」




「・・・っていうか、そいつ女の子って歳じゃねーだろ。」




照代は、鏡を何度も見て微笑み、息子の声は耳に入っていなかった。




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