第25話
クラブに夢香も呼んで、静香、行成、進藤、貫田、奈津美で話し合った。
行成が出した条件は、正社員として採用したい、夢香が成人する5年間は解雇しない、それ以降も雇用は継続出来る。
手帳とUSB、その他のすべての黒革の手帳に関する情報を行成に渡し、今後一切関わらないこと。
夢香の条件は、家庭教師を受験が終わるまで無料で続けることだった。
静香は「結構留守中に入られたことがあって、そろそろ本当に怖くなってた」「正社員嬉しい」と言い、承諾した。
確かに、女性二人暮らしだと怖いだろう。
夢香が「お母さんと普通の時間にご飯を食べて、普通に暮らしたい」と言ったのが、一番大きかった。
こちらの交渉も成立した。
※
「夢香ちゃん、合格おめでとう、凄いじゃん」
進藤は、夢香の公立高校合格の連絡を聞いて、お祝いに行った。
なんせ、2ヶ月間も家庭教師をしたのだ。
土日も、プライベートの時間で夢香の勉強に付き合った。
「これ、合格祝いね」
「図書カード!おじさんじゃん」
「漫画読むかなって」
「今時漫画は、電子ブックだよ」
進藤は、新女子高生に打ちのめされた。
「でも、本当にありがとう。
進藤先生も頑張ってね」
「何を?」
「お母さんが言ってたよ。進藤くんの奈津美さん目線はカモにされる時の男の目だって」
「は??」
「誕生日プレゼントに、ネックレスあげたんでしょ?独占欲の強い男がやることだよね」
「いやいや、そういうんじゃねーから。仕事でホステスやってるの、可哀想だったから・・」
「はぁ、そんなんじゃまだまだだね、ってお母さんも言ってた。
まずは、意識してもらうことからだね」
(この親子は、なんという話をしてるんだ!)
進藤の話をきっかけに、静香、夢香親子は、会話が増えたようだった。
※
奈津美は、やっとラウンジの仕事が終わり、総務第三課に帰ってきた。
地下の事務的な空間と、貫田の、のほほんとした空気にホッとする。
あの夢幻のような銀座のクラブには、一生二度と行かないと思う。
鎖骨に手を当てると、誕生日に貰ったネックレスがある。
「課長、ありがとうございます。こんなのまで経費で落として頂いて。
男の人に貰ったの始めてです。」
(本当は彼氏が良かったけど、彼氏なんていつできるかわからないから、貰えればなんでもいいや)
「それ、経費じゃないよ。進藤くんから」
「は?」
「ただの誕生日プレゼントだよ」
「はーー?」
(これ、3万はするよ)
次の日に進藤のところに行き返品を申し出たが、「今さら返されても困る、仕事のボーナス現物支給、つけててくれたら一番嬉しい」と断固受け取りを拒否され、押し付けられる。
ホステスの仕事のボーナス現物支給と思い、受けとることとした。
(おぼっちゃまは、金銭感覚おかしいよ)
※
「静香さん、もう2階終わったの?」
「はい、照代さん」
静香は、掃除のお姉さんとして、亀安商事に出入りしている。
大きな会社のため、奈津美も進藤も、恐らく一生すれ違ってお互いを認識しないだろう。
会社としては、手元に置いてしばらく監視したいこともあり、採用はちょうど良かった。
真面目に働いて、先輩の掃除のおばさんとも上手く行っているようだ。
「娘さん、高校入ったんだって?」
「はい、写真見てくださいよ~」
「まあ、可愛いいお嬢さんね」
写真は、入学式でセーラー服を来た夢香と、白いスーツの静香が、満開の桜の木の下で、満面の笑顔で写っていた。
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