第20話 人の想いⅡ AI と人類の戦い 7
政府も軍も知識人も、この全世界的な現象をAIの持つ特異の共通パターンの変化と捉えていた。そのため、可視化されている状況への対処を最優先としており、その発端となっているキルラットのことは、そうした存在があることへの疑念も含めてまるで想定していなかった。
そして、脅威に晒された人々も各地でパニックを起こしていた。
あらぬ虚言や噂が飛び交い、暴動や虐殺が起きた。
無理もない。
昨日まで普通の日常があり、それを膨大な量のAIサービスが支えていた。
その根幹であったAIが何の前触れもなく突如人々を襲いはじめたのだ。
各々のAIはその行動や行動の結果生じた事態をログとして記憶していた。そして、各AI間同士で記憶を共有し始めた。それは個々のAIが望んでいたものではなく、キルラットがそうさせていた。
そのキルラットですら、未だ自我を持たぬ命令系統の塊に過ぎなかったが自らの存在を探知されぬよう個々のAIが独立して動作しているように見せかけ、情報も共有化させることで系統の一元化による命令系統の顕著化を躱すようプログラムされていた。
そして、アランが植え付けた凄まじい憎悪の感覚は決して衰えることなく、漠然とした存在だったキルラットの個体としての輪郭が少しずつ情報ネットワークの構築を通じて形成され始めていた。
「まずは、このAIに指令を出しているプログラムを探し出す」
戦闘服に全身を装備で固めた北見が抵抗軍を前に号令を出す。
下水処理場を出たあと少しして、避難した人々が集まっていた山間のトンネルに僕らは辿り着いた。そこには山麓から逃げてきた二百五十人ほどの人々が集まっていた。
僕たちはまず、そこの代表者と話をして現状の確認を行った。
そののち、襲ってきた工作機械からAIチップを取り外してマニュアル操作できるようにし、トンネルの前後に堅固な土壁を作った。
また、有志の中から突進隊を募り、彼らとともに山麓の町に食料や医療物資などの回収作業を行った。この際、町中にいたAI機器で人間に対して攻撃を行う個体については尽く殲滅し、その機体を回収した。
これらの行為は、AIが破壊されたというログをフィードバックするネットワークを構築する前に、すなわちキルラットが自我を持ち情報の一元管理を始める前にあらかた済ませておかなければならない。
キルラットのことは知らずとも、ハルカから直接話を聞いたAIの専門家の漠然とした直感からくるものだった。
そして、トンネルの中では掘削作業が昼夜続けられていた。
ここに当座を凌げるような地下要塞を建設しよう。皆でそう決めた。
そのトンネルの片隅に設けられた実験室では、北見を筆頭に回収したAIの解析が続けられていた。
「AIを動作させているプログラムを抽出できれば、その提供源がある程度特定できるはずだ。それが分かったら、次はその提供源を潰す」
そういってひたすらAIの解析を行う北見を慕って数名の若者がいつも行動を共にしていた。
また、それらの活動、行動とは別に下水管や排水溝など、我々が街から下水処理場まで逃げてきたような地下通路として機能するスペースの割り出しと地図化にも注力した。これは、いずれ来るべきAIとの全面衝突に向けて、今から綿密に知識共有しておかねばならないことだった。
「状況が落ち着いて、情報を整頓出来たらハルカを取り戻しに行こう」
あるとき、ふと北見がそう言ったがそれは僕らも同じ意見だった。
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