抜け出せないトンネルからのミッドナイトはもうお終い
東雲三日月
第1話 ミッドナイトはもうお終い
真夜中になる時間帯には、夕方から毎晩繰り広げられる夫婦喧嘩も漸く静まりかえる。
スポーツ選手でもあるかのようにそんなにも体力でもあるのかと思う程、それは毎晩のルーチンとして位置づけられていた我が家……。
必ず夕方の五時を過ぎると父親は酒を飲み始めるので、それが我が家のゴングが鳴り響く合図となり………その後何時間と真夜中まで続けられるのは怒声、罵声の嵐に加え、暴力、時には物が宙を舞った。
子供ながらに、内容が少し理解できると、良くそんなくだらないことで喧嘩するなと呆れつつ、被害が及ぶことが恐怖でしかない為、身の危険と隣り合わせでいることから、それに対抗する術もないで余計な口出しはしなかったものの、ある意味親という生き物を尊敬しつつ、軽蔑していたのはこの環境下からして当然というか、仕方がないことなのかもしれない。
こうしてルーチンの最後として、真夜中がくる頃には何時も不思議と喧嘩は収束を迎え、ことの最後には体力オーバーしているのだろうか、夫婦別々の部屋に行った後は死んだかのように朝まで起きては来なかった。
私は真夜中まで繰り広げられる夫婦喧嘩をずっと聞いていたい訳では無かったので、出来ることならすぐこの場を立ち去り、直ぐに自分の部屋として与えられた空間に引きこもるとがしたかったのはずなのに、それはそれで自分達が与えたはずなのに引きこもったと騒ぐのがオチだったので、逃げ場というのが何処にも存在しなかったのは、トラウマでもある。
だから、自室に逃げれば私のことで無駄に喧嘩が大きくなってしまうことが良く分かっていたので、賢い私はある程度リビングで静かに傍観者としているのが毎晩のルーチンだった。
けれど、高校生になった私はある程度遅い時間帯迄静かに傍観者として耐えると、明日も学校があるからと言って自分の部屋に逃げるように移動するようになっていく。
ところが早々に部屋に行くと直ぐに寝ることはしなかった。
それは寂しさからなのか、居場所が欲しかったからなのか、人恋しさからなのか……。
頭の中で駄目だと分かりつつも出会いを求めて持っている携帯電話から出会いを求める日々を過ごすようになっていった。
そして、その日、当日会える人を見つけ出すと、家族が寝静まっているであろう真夜中に、こっそり自分の部屋の窓から用意周到に用意していた靴を持ってそっと抜け出すようになる。
抜け出すことに対して、見つかったら凄くヤバいことになるというかなりの危機感と、緊張感……そしてドキドキ感があったものの、何なく抜け出すことには成功し、抜け出した後も庭で飼っている犬は気づいていた筈なのに見守ってくれていたのだろうか、姿を見られても家族だからなのか吠えることは一度も無かったので、そのお陰も相まってそんな生活が続けられることに……。
私はというと、出会いを求める男性がどんな人なのか初めから知ってはいた、自分から求めていたのは最初からHがしたい……という安易なものでは無かったものの、結局はホテルに連れてかれる……そして皆私の体目当てであり、その目的を果たすために出会う人は皆優しかった。
ところが、自分の体目的なのに、必要とされていると感じられてしまうからなのだろうか、イケナイ行為に及んでいるのに、心が満たされ、幸せを感じ、凄くそれが嬉しかったのは、自分は此処にいる、いてもイイんだと生きてることに対する実感があったからなのかもしれない。
「初めてなの?」
「はい……」
「大丈夫、優しくするから」
「お願いします」
初めての時、あまりよく考えていなかったので、避妊はしなかったけど、運が良かったのか妊娠することは無くて……そのせいか、それ以降も出会った人とは避妊なんかせずに行為に及んだ。
そして、朝、日が昇る前には家路に帰り、両親にバレないように自室に戻る生活を毎日のように繰り返す生活が続けられることになる。
出会った人とは一度きり、それ以降はお願いされても会うことはしなかったからだろうか、依存性のようにHする度にその一瞬、一時だけ幸せを感じるものの、日が昇った朝、自分の部屋で孤独に襲われた。
寂しくて、胸が締め付けられるように苦しくて……。
どんな時も笑って過ごしたいのに、泣いてばかりの自分は部屋で一人……静かに声を殺すように泣いた。
未来に期待が持てない私は、よく大丈夫だったなと思える程……学生という身分でこれを当たり前の日常として過ごしたのに、何事も無く、大人にさえバレることも無く卒業式を迎えることが出来たのは、本当に奇跡に近いともいえるだろう。
真夜中……それは居場所を求める時間だった。
真夜中……それは自分が幸せになる時間帯。
真夜中……終わってしまうと、孤独に襲われた。
そんな私は、今は実家を抜け出し、王子様と結婚することが出来た……それは、愛してくれる男性に出会えたから。
もう真夜中に寂しくなることは無くなった……それは、二人の間に子供を授かったからでもある。
真夜中……私には居場所がある。
真夜中……私には君がいる。
真夜中……隣には娘が寝ている。
真夜中……もう寂しくない、怖くない、幸せです。
抜け出せないトンネルからのミッドナイトはもうお終い 東雲三日月 @taikorin
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