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 翌日。

 指定された遊園地へ。平日のこともあり人は少ない。入り口で待っていると彼女が走ってくる。


「待たせてごめんね!!」


 茶色ながらも太陽の光でピンク色に見える独特のロングヘアー。桜の髪留めがなんとも可愛らしい。桃色のロングドレスに白い上品なリボンの付いたブラウス。小さなの鞄を手に持ち、気合いを入れてきたのかお洒落すぎる。


「あれ、隣の人は?」


 セクトの隣で柱に寄り添っているリキを見て、首を傾げる彼女。セクトは「友達」と笑って紹介すると、リキは軽く手を上げ挨拶。


「そうなの? チャラそうでにお似合いだと思う」


「恭介、ね。久しぶりに名前呼ばれた」


「えっ名前、違った? お兄さん達がそう貴方の事呼んでたから。ほら、陽祐さんと駿さん」


「あー兄貴が呼んでたならいいよ」


 その言葉に彼女はニコッと笑う。セクトとリキの腕にしがみつくとリードするように引っ張られ園内へ。なかなか人の多い場所は行かないせいか、外国を思わせるような建物が新鮮に感じる。四月なのもあり、道端には桜草やチューリップと優しい色合いの花。

 立ち止まり風景を眺めていると少し離れた場所にいる彼女の元に道化師。道化師から赤い風船を貰い、喜んでいる彼女をよそに手を振りながら立ち去るやセクトの元へ。擦れ違い様に後ろに手を回し慣れたようにカッターを受け取る。それを袖に隠すとリキが知らん顔で近づき「お前の兄弟やべーな」と耳元で呟く。


「兄弟ではなく『家族』がね」


 メイクされ誰が誰だか分からないはずなのに感覚か勘か。それとも手口がそうなのか。不自然な動きすら見えない。


「さっきの次男の駿」


「げっマジか。てか、呼び捨て」


「さて、長男の陽祐は何処かな」


 気晴らしにアトラクションに乗ろうとしたが三人とも苦手らしい。物凄い速さで走り去るジェットコースターから聴こえる叫び声を聞いては大きな観覧車に見とれる。物足りなさも感じるが、周りを観察する――という意味では勉強になりそうだ。



           *



 昼。

 三人でチュロスを食べ、熊の形をしたベビーカステラを分ける。食べ歩きしながら射的を見つけては「やってよ!!」と無茶ぶりを言われ、女性には重いと感じるライフルをセクトは軽々と手に持つ。


「悪いけど下手なんだよね」


 ストックを肩に当て、パァンと発砲と共に重みが肩に伝わる。すると、パコッと一発で小さな箱が倒れキャラメルGET。見ていたリキは拍手し「ぬいぐるみ取れんだろ。取ってやれよ」と小声でそりゃまた無茶ぶり。


「はぁ? 出来ますけど」


 挑発に苛立ったのか、三発中三発。全て命中。あまりの命中率に「わー熊さんありがとう」と彼女はぬいぐるみを握り締める。


「おっちゃん、もう一回やっていい?」


 金を払うや、もう一ゲーム。遠くに置いてあった小さな空き缶。それを文句も言わずヒットさせたセクト。しかし、楽しくないのか手を見つめ、隣のリキに「遊びだとしても、銃を持つとやたらと重いんだよね。手が……」と苦笑い。



 キャラメル二つと飴玉三つ、熊のぬいぐるみは彼女に渡し、次は近くの小さなゲームセンターへ。遊園地ということもあり、小さなモノしかない。ヒヨコの小さなぬいぐるみや遊園地限定の熊のストラップ。射的で当ててしまい、見るだけになったが商品に食いつく彼女の姿が少し可愛らしい。


「これ、ほしい」


 クレーンゲームの前で立ち止まる彼女。しかし、「うーん」と曖昧な答えを返し、小銭を漁る。


「お願い!!」


 ぬいぐるみを背に隠し、甘えてくるが「アハハッダメ」と笑いながら返すと今度はリキへ。チラッとリキがセクトを見る。それに、微かに首を振ると「また、今度な」と優しく断る。


「えー、デートなのに!!」


「ぬいぐるみ取ったでしょ。それで我慢しなよ」


 それから、あっという間に日が暮れ「お土産を買いたい」とお店へ。その時、セクトは誰かに呼ばれた気がし「トイレ」と行ってその場を離れた。店裏の飾りの建物が立ち並ぶ静かな空間。そこに一人座っている見覚えのある人。


「次男を動かして、兄貴は傍観。へぇ、偉い立場なんだ。じゃあ、俺はなんだろう。ただの道具?」


 成り済ましていると思ったが、真面目なのかラフな服装。嫌みではないが……いや、嫌みか。セクトの発言にゆっくり立ち上がり、軽く右手を振るとキラッと光る物が目に入った。


「あー怖い。兄弟でも殺せるんだ。弟でも」


 闇の中でキラリと光はカッターナイフ。それの光を頼りにセクトは振るう刃を避け、時より腕を掴み、膝蹴りや手首を捻り、落とそうと反撃。しかし、相手は彼よりも数年経験が長い【兄】でありベテラン。見抜かれ逆に腕を掴まれ背にやられる。


「イッ……」


「お前の事だ。どうせ良からぬ事でも考えてるんだろ」


 分かった口調にセクトは足を踏みつけ、陽祐がよろめいた瞬間――思いっきり後頭部で顔面を殴る。


「煩い。概要話さないそっちが悪い。何さ、何が目的で殺しやってんの」


 一、ニと後退りする陽祐に駆け寄り、蹴りを噛ますふりして顎へ綺麗なサマーソルトジャケットが捲れ邪魔になるも気にせず、続けてタックルし街灯に叩き付ける。

 痛みに睨みを利かせる陽祐だが一切弱音は吐かない。


「知ってどうする?」


「考える」


「何を」


「……それが正しいのか」


 セクトは陽祐の手首を掴み、カッターナイフを陽祐の腹に突き付け吐けと脅す。


「そんなに聞きたいなら言っても良いが今のお前では何も出来ないと思うが」


 陽祐の声に背後から新たな気配。咄嗟に手を離し振り向くもセクトの脇腹に深々にカッターナイフが刺さる。痛みに声が漏れそうになるも堪え、引き抜こうとするも暗闇から「こう言うことだよ、バーカ」と駿の声と衝撃に膝をつき意識が朦朧とする中、陽祐が言う。

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