殺し映え セクト キャラエピ1

 殺し映えが行われる十年前。


「ねぇ、結婚しようよ」


「やだ。だって、俺――殺し屋だよ」


 ホテル最上階。ビルや遊園地などの明かりがイルミネーションの様に美しい。薄暗いバーには黒スーツ姿のセクトと一人の女性。黒のワイドパンツに肩だし長袖。二十五歳と彼と同い年だった。


「嘘つかないでよ」


「嘘じゃない。俺と一緒に居たら殺される」


 バーテンダーの目の前で場を考えない会話。楽しいどころか少し気まずい。シェイカーを振りながら目を閉じ、シャカシャカと中身が奏でる音に耳を向けているバーテンダーに申し訳なさそうに声をかける。


「彼女にノンアルコールのカシスオレンジ。俺はハイボール。あと、チェリー。もしくは砂糖まぶしたフルーツが食べたい」


 空になったカクテルグラスを指で弄り、スマホに目を向け「はぁ……」と溜め息。


 実はセクトの家系は殺し屋。先祖代々――なんて馬鹿げた話だが。幼い頃からナイフの扱い、読唇術、護身術と体に叩き込まれていた。見た目は普通の人だが、裏の人であるため表の人と付き合いたくはない。

 しかし、たまたま酔っぱらいに絡まれ、嫌そうにしていた彼女を見つけ彼氏のふりして此処まで避難。アドレスポッパーで高級ホテルと泊まっていたこともあり「俺が払うから」と誘ったのだが――。彼女を助けてニ週間ぐらい経つ。


「ねぇねぇ、名前教えてよ。三回目だよ聞くの」


「名前ねぇ……セクト。あと、さかい 恭介きょうすけ。てか、名前なんて何個もあるから忘れちゃったなぁ」


 なんてとぼけているがニ番目に口にした名前が本名。


「私は――」


 口を開いた彼女の唇に人差し指を立て「悪いね。キミの名前には興味はない」とクスッと静かに笑う。

 特に会う約束もしていないがセクトが「此処によく来る」とバーテンダーに聞いたのだろう。時々様子を伺うように顔を出している。そうバーテンダーから話は聞いていた。


「君さ、すぐ懐くのダメだよ。ましてや『君』を殺そうとしているのに、なんで懐くかね」


 トンッとカウンターに置かれたハイボール手を伸ばし一口。「あっ口が滑った」とに視線を向けると目を丸める彼女の後ろから「べっぴんさんミッケ!!」と彼よりも少し年上の男二人が邪魔をする。


「俺達と飲まない? その人、飲んでも飲んでも酔わねーからさ」


 知らぬ間に彼女は夜景が見える大きな窓へ。寄り添い口説かれているのか、照れ臭そう。


「セクト」


「なに」


 彼の隣に腰を下ろす赤いスーツに身を包んだ少し目付きがキツイ大人びた人。彼とは三つ年上の長男で両親のお気に入り。因みに彼女を口説いているのがお調子者が次男。セクトは末っ子だが両親に嫌われ、血縁関係を切り捨てられるほど不快な仲。


「邪魔するな。此方の仕事だ」


「気を引いてくれって言ったのは何処の誰。帰る。顔見るだけで吐きそうだから」


 財布から二千円取り出し「釣り要らない」と席を立つ。「好きにしろ。此方も勝手に殺る」と飲み残したハイボールを手に取り、一気に飲み干されては「だからお前は弱い」と愚痴と軽く突き飛ばされ、反発できず鋭く睨む。



 バーのドアを押し退け白と黒の大理石の床。外の景色が丸見えの大胆な窓。廊下を一人歩いていると、エレベーター待ちをしている迷彩柄のフード付ジャケットの男。ガーゴパンツに手を突っ込み、ジャラジャラとシルバーアクセサリーを揺らしては「兄弟ってめんどーだよな」と振り向き様に口を開く。


「お初だよね? 誰」


「俺はリキ。よろしくな」


「そう、セクト」


 好奇心旺盛かスッと握手を求められ、仕方なく手を握ると強く引っ張られ、足を払われ、背中で持ち上げられ投げられるが――セクトは咄嗟にリキの服を掴み、勢いを殺しバランスを取りながら着地。だが、チンッとエレベーターのドアが開いた瞬間――同時に腹を蹴られ、壁に強く当たるや凭れゆっくり座り込む。


「挨拶にしては荒々しい……」


 噎せながらそう口にすると「へへっナイス着地。っても、お前の兄貴見てるとイライラするな。不意打ちがてら襲っても、しっかり対応できるし動きも悪くないのに」と一階のボタンを押す。


「お試し……商品じゃないんだから」


 押し間違え、とボタンをキャンセル十五階のボタンを押す。


「わりぃわりぃ。ごめんってば」


「まぁ、でき損ないだからね、俺は」


 冷たい言葉に白け、リキは髪の毛をかきながら言う。


「愚痴聞こうか?」


「あ、もしかして満員で二人部屋を一人で陣取ってるから『行け』って言われた人?」


「そーだよ。文句あんのか!!」


「フロントの人も手慣れたものだね。俺が断るの下手くそなの知ってるから。はぁ……生まれてこなくちゃよかったな」


 二人の距離が縮まらず、気まずい中部屋へ。二つ並んでいるベッドにセクトは座り、背を向けるようにリキ。大きな背中にセクトは思わず背を任せ「大きいね、兄貴みたい」と笑う。それを邪魔するかのようにブッと短いバイブ。スラックスに手を突っ込みスマホを観ると長男からのメールだった。


『明日、やるからお前も来い。お前がいないとヤなんだと。勝手にデートの約束したから遊んで、夜に此方に引き渡すように』


 見覚えのない約束を勝手に決めては、従われるようにメールを送り付ける。溜め息しか出ず、枕元にスマホを投げては「あーあー」と布団に倒れ込む。


「殺しだってよ。オレを利用してさ。最低だよね。用件話してくれないし、勝手にあっちで進めるし。やになっちゃう」


 投げたスマホの画面を見たのか「一緒に行こうか」とリキが返す。


「んー。そうだね。多分、一人じゃ無理。絶対見張ってるだろうしアイツら」


 ネクタイを緩め、スルッと乱暴に外す。


「はぁ、もう付き合いたくない。死のうかな」


 弱音をポロッと吐くと何か思いついたか。天井を見つめ「リキ」と真剣な眼差しで呼ぶ。


「ん?」


「出会って早々悪いんだけど。一緒に来るなら一つだけ条件がある。巻き込んでもいいかな? ちょっと危ないことしたいんだけど……」

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