第2話 社畜魔王
炎が消えると、そこには焦げたダンジョンの壁しか残っておらず、モンスターの影すらなかった。
《…………は?》
《え?》
《は?》
《ふぁ?》
《ちょ、え?》
《待って。全く訳が分からない》
《何あの炎》
《紫の炎なんて初めて見たんだが》
《え? これで初心者? ダンジョン初攻略?》
《逆にそこがホントか怪しくなってきたぞ》
「どうだ? 我の代表格の魔術は」
《いや凄いなんてもんじゃねぇ!》
《何だよこれ!》
《凄すぎて草すら生えねぇよ》
《フォオオオオオオ!! 魔王無双!!》
《これは信じるしかないww》
《魔王陛下バンザイ!!》
「む、バンザイはよしてくれ。我は魔王の激務から逃げる為に転生した身。既に魔王ではない」
《魔王が逃げるww》
《それも仕事からww》
《まさかの魔王社畜説ww》
《異世界の魔王でもサラリーマンと同じww》
《因みに何年魔王だったんですか?》
《ウルガさんは魔王だったって事は、どれくらい強かったのですか?》
《結婚していましたか!?》
リスナーの皆はちゃんと我を元魔王と認めてくれた様だ。
少し嬉しくなった我はつい全部の質問に答えてしまう。
「我は50年魔王をしていた。魔王はこの世界のサラリーマンと何ら変わらないぞ。下手したら魔王の業務の方が大変かもしれん」
この世界のサラリーマンは残業とかが沢山あるが、そもそも魔王には休みなどなく、1年間毎日働かされていた。
その分贅沢な生活はしていたが、それを享受する時間も体力もなく、毎日疲れてベッドで寝る事しかしていない気がする。
「……前世の我はよく頑張っていたな……そのせいで独身だったが」
我は配信中だと言うことも忘れてしみじみとそう呟く。
《高校生なのに滲み出る社畜感ww》
《これはマジだな》
《激務を知らない人には出来ない表情してる》
《お疲れ様、元魔王陛下》
《アンタはよく頑張ったよ》
《お疲れ様》
《お疲れ様》
《お疲れ様》
どうやら我の呟きをタブレットのマイクが拾っていたらしく、コメント欄がお疲れ様の文字で埋まり出した。
「皆、我の辛さを分かってくれるか……感謝するぞ」
《へへっ、いいってことよ》
《社畜皆仲間》
《アンタを嘘つきだと言って悪かったな》
《さっきの魔術? ってのもそうだし、あの表情からも本当だって物語ってるしな》
「それではダンジョンの奥に進みながら質問の応答を続けていこうと思う。——我の強さだが、一応世界最強の一角で、魔術では我の右に出る物はいないな」
実際に何度も勇者や大賢者、精霊の使いと言った、魔術に秀でている奴と戦って来たが、一度も負けたことがない。
それに最高難易度の魔術である転生の禁術を世界で初めて成功させたので、魔術では最強と言ってもいいだろう。
《スゲェエエエ!!》
《魔王ってやっぱり強いんだな!》
《魔王最強!! 社畜魔王最強!!》
《社畜魔王ww》
《今までにない単語だなww》
《社畜魔王最強!!》
《ってモンスターめっちゃ来てるよ!?》
「気にするな。モンスター狩りなどお金稼ぎのついで…………あ」
そう言えばさっき調子に乗って消滅させたな我。
あの中にはC級のモンスターも紛れていた様だし、もし素材を手に入れていれば、その一体だけで100万円を稼げていたかもしれない。
《さっき思いっきり燃やしてたな》
《何なら灰すら残さないレベルで燃やしてたな》
《それだと素材を取れないな》
《ドンマイ社畜魔王》
《まぁ初配信だもんな! 元気出せよ!》
《そうそう! 初めのミスは仕方ないって!》
《また倒せばいいよ!!》
《社畜魔王なら余裕だろ!?》
《そう言えば同接10000人おめでとう》
「む? 同接1万……確かに1万を超えているな。皆の者、感謝するぞ! ……だが何故こんなに増えているのだ?」
モンスターの事で気を取られていたが、いつの間にか同接1万人を突破していた様だ。
つい先程まで500人程だったのだが……。
《おめでとう!!》
《おめでとう!!》
《チャンネル登録しました!》
《俺も!》
《私もしました!》
《一気にチャンネル登録5000人行ったんだけどww》
《まぁ皆拡散してるからな》
《今度はいい意味で拡散してるからな!》
《さっきはマジでごめんなさい!! これから俺は社畜魔王信者になる!》
《社畜魔王、信者第1号をゲットする》
《これはすぐに専用スレが出来るなww》
《ってそれよりも先にモンスター倒そうよ!?》
《もう目の前じゃん》
《早く魔術使って!!》
「まぁそう焦るでない。——【風刃】」
我の周りに5つの魔術陣が展開されると同時に、風の刃がモンスター目掛けて飛んでいく。
そしてまるで豆腐を斬るかの如くスパスパとモンスターを真っ二つにしてから消えた。
《もう驚かないぞ》
《安定の魔術無双》
《今まで見て来たダンジョン配信者の中でもダントツの安心感》
《こんなの絶対S級探索者だろww》
《配信後に協会とかクランが騒ぎそうだなww》
「我はクランに入るつもりはないぞ。それよりチャンネル登録者5000人突破感謝するぞ」
《と言っても既に同接12000人&チャンネル登録者7000人突破してるけどなww》
《異常事態だって事忘れそうだけど、おめでとう》
《おめでとう》
《おめでとうございます!》
「うむありが——む?」
我が先程から常に発動させていた《探知魔術》に大量のモンスターの反応があった。
それも全てC級並みの強さと言った所か。
「すまない。これから少々コメント欄を見れないかもしれん」
《?》
《どうした?》
《何かヤバいことでもあったか?》
《そう言えば今異常事態中だったな》
《もう社畜魔王が強すぎてすぐ忘れる》
「いや、今からC級並みのモンスターが100体くらい押し寄せて来るのだが、魔術じゃなくて剣を使おうかと思ってな」
我は腰にさしていた、誰もが買える普通の鉄の剣を取り出してタブレットに映す。
「これでも我は剣も使えるのだ。昔少々勇者と剣聖に教えてもらったのでな」
《いや普通に勇者と剣聖出てて草》
《もうラノベの中じゃん》
《魔王が社畜なのを除いてなww》
《もしかして仲良いの?》
「別に仲は悪くなかったぞ。まぁ何度か殺し合った仲だがな」
《いや過激過ぎ》
《全然笑えない》
《異世界って殺伐としてんなぁ……》
《そんな世界での激務……もう尊敬するわ》
《その内社畜達で社畜魔王ファンクラブとか出来そうだなww》
《と言うか何故剣使うの? 魔術で戦えばいいじゃん》
《確かに》
《それな》
「まぁ普通はそう思うだろうが……皆の者は、我が剣で敵を薙ぎ払うのと、魔術で遠距離無双するのではどちらが見応えがある?」
《剣ですな》
《魔術もいいけど、もはやモンスターが可哀想になってくるもんな》
《だって異世界最強が得意な分野で中敵をボコボコにするんだからな》
《断然剣だな》
「だろう? だから今からこの鉄の剣を使ってC級モンスターを駆逐していくぞ。———《斬撃強化》《強度増加》《身体強化》」
我は一通りの強化魔術を剣と己に掛ける。
流石に鉄の剣でC級モンスターを斬ろうとしたら折れるので、より念入りにしなければ。
《俺は全く驚かなかった!!(嘘)》
《も、勿論俺も(震え声)》
《流石社畜魔王様!!》
《パネェっす!!》
《社畜魔王様だけで全ての職業網羅してそうww》
《それは十分にありえるww》
強化後の剣を何度か振るい、感覚を確かめる。
昔愛用していた剣ではないので少し違和感があるが、まぁこの程度の敵なら問題ないだろう。
鉄の剣がどれ位持つかは不明だが。
「それでは行くぞ」
我は全力で地面を踏み締め、モンスターの大群の中に飛び込んだ。
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