真相

「……ところで。

 あのゲンさんって人、結局なんで死んだんですか?」


「なんでってそりゃ、毒殺だろ?

 お前も嗅いだろ、アーモンド臭」


「でも青酸カリなんて何処から持ち込んだんです?

 あの島、因習アイランドって言っても余所者よそものに対してヤバいだけで、身内同士ではフツーな感じだったじゃないですか」


「毒を持ち込んだのは島民じゃない。だ。

 青酸カリは昨日、海岸に流れ着いたっていう余所者よそものに仕込まれていたんだよ。

 だから犬の頭部を食べたゲンさんが死ぬことになったんだ」


余所者よそものの……歯?」


 ここまで言ってもハナコにはピンときてないようだ。


「お前、スパイ映画とか見たことないのか?

 。スパイの王道だろ?」


「え、じゃあ……あの食べられてしまった余所者よそものってスパイだったんですか!?」


「そうだよ。海岸にゴムボートがあっただろ。

 スパイでもなきゃ、わざわざあんなもんで上陸するわけがない」


 そして、これは推測になるのだが――おそらく青酸カリは、スパイの歯にカプセルとして仕込まれていたのではないだろうか。

 ゲンさんはカプセルを肉といっしょに丸呑みにしてしまった。

 昨晩の食事から、今朝の遺体発見までにタイムラグがあったのは、カプセルが胃の中で溶け出すまでの時間差によって生じたものというわけだ。


「でも……こんな辺鄙へんぴな離島にどうしてスパイが」


「そりゃあ、防人さきもり島はだからな」


 ぶおおおーん。


 エンジンがかかり、ちょうど漁船が港を出航した。


 オレは港にあった立て看板を指さす。

 そこには行きと同じく、こう書いてあった。


 「」――と。


 その文字を見て、ハナコは小さく悲鳴をあげた。


 つまり専守防衛を基本戦略とする自衛隊ではなく、他国との交戦権を持ち、先制攻撃を可能とするを設置することができるわけだ」


 そう。

 これこそが、防人さきもり島みたいなトロピカル・クソ・因習アイランドがこの時代にも生き残っている理由である。


 このような日本国憲法が通用しないクソ因習島や、日本各地の山奥にあるクソみたいな因習村は、こういった国防軍の秘密基地を配置するために残されているのだ。


「そういうわけで、この島はこの国になくてはならない存在なんだよ。

 オレたちがきっちり守っていかないとな。頼むぜ、ハナコ」


「は、はい……」


 そう言ったハナコは再び立て看板に目をやる。


 すると、今度は割れんばかりの大きな声で叫んだ。


 その立て看板の裏には。

 この上なくトロピカルで騒々しいペンキでこう書いてあったのである……。

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