現場

 ところで、先ほどのやり取りを見て、少し疑問に思わなかっただろうか。

 大鳥のじい様にしても、オレにしても。


 


 そのあたりの理由は込み入っていて、一言では説明しづらい。


 要するにこの島は、民族的にも、政治的にも、歴史的にも、ある種の恐竜的進化の産物――体系的な説明が困難な、突然変異メタモルフォーゼというべき存在なのだ。

 周辺の島に住む人々とは、信じる神様も、文化も、根本からしてまったくルーツが異なる――というだけでは解説が不十分。

 その本質からすると片手落ちもいいところの紹介になるのだけれど。


 閑話休題それはそれとして


 大鳥のじい様に案内され、オレとハナコは事件現場にやってきた。


「これは……ゲンさんじゃないか!」


「綺麗な顔しとるだろ。死んでるんだよなぁ、これで」


「どこが綺麗な顔だっつーの」


 オレはゲンさんの遺体を確認する。

 じい様の言葉とは裏腹に、その表情は苦悶に歪みきっていた。


 亡くなっていたのは諸星ゲン。

 この島で商店を営んでいた男だ。


 現場となったのはこの島唯一の商店である、諸星商店の店内。


 いつもの開店時間になっても店が開かなかったので、不審に思った住民が中に入ったところ、床に倒れているゲンさんの遺体を発見したそうだ。


「見たところ外傷はなさそうだな……ん?」


 気づくと、ハナコが遺体の口元の匂いを嗅いでいた。

 その様子をみて、じい様が首をかしげる。


「この子、何かわかったのかいのぉ?」


「ふふふ。こいつは鼻が利くんだよ。どれどれ」


 オレもハナコの真似をして、遺体の口元から手を団扇代わりにして匂いを集めてみる。

 すると……これはビターアーモンドの香りだ。


「死因は毒殺だな。この匂いはシアン化合物に特有のものだ」


「シアン化合物?」


「青酸カリ、って言えばわかるか?

 詳しくは本土で解剖してみないとわからんが、たぶん毒物を食べてしまったんだろう」


 シアン化合物は経口摂取で体内に入ったあと、胃酸と反応することで猛毒の青酸ガスを発生させる。

 先ほどのアーモンド臭はこの青酸ガスによるものなのだ。


 毒、と聞いて大鳥のじい様には思いあたることがあったようだった。


「そうだぁ! 昨日、海岸に犬が流れ着いたんだった」


 犬?


「まさか、それ食べたんじゃないだろうな」


「えへへ……久々のご馳走だったからなぁ。

 みんなには内緒にして、わしやゲンさんたち数人だけでな。

 こっそり、丸焼きにして食ったんだぁ」


「はぁー……。まだそんなことしてるのか、あんたらは」


「だって、美味いんだから仕方ないだろぉ。

 それに、岸に流れついたもんは好きにしていい決まりだぁ」


 それはそうだが。


 可哀想にハナコはぶるぶると震えていた。

 無理もない。


 まぁ、そういう文化なんだわ。この島は。

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