ゼロから始める農業生活 (4)
さて、前回で補助金の問題は解決するも、あくまで“倉庫が完成する”ことを前提にした話の流れであり、これを解決しなくてはなりません。
問題となっているのは、建設予定地に定めたその土地です。ここに建てることが決まっていながらも、許可が下りないという因縁の地。
その理由が“隣接する道路の幅員不足”なのです。
そこで考えられたのが、“十分な幅がある道路と無理やり隣接させる”という案でした。
というのも、建設予定地となっている畑の、隣の畑に隣接道路は必要幅である4mを超えており、ここと引っ付けば大きな道路と“実質的に”隣接していることとなり、許可が下りるという案でした。
しかし、この畑を連結させるという案は、これまた役所の怠慢で廃案となりました。
理由は簡単。その隣の畑が“持ち主不明の土地”であったからです。
土地という物は、基本的に誰かの所有物になっています。個人名義であったり、あるいは企業名義であったりしますが、確実に誰かの持ち物で、それ以外は国が管理しています。
都会の方だとあまり感覚として分からないかもしれませんが、田舎の方では土地の所有権があいまいになっている場合がかなりあるのです。
そうした案件が発生しやすいのが、“相続”の時です。
土地の持ち主が死亡し、相続人である子供が都会に行ってしまって、そのままあやふやになってしまうということです。一代前なら追える場合もありますが、二代も前のものともなると、追走は不可能になっていきます。
それが“持ち主不明の土地”が生まれる原因なのです。
田舎の畑なんぞ、都会に行った人間になんかには不要なものですから、放置されることはままあるのです。
本来なら、固定資産税や相続税の話にもなりますので、役場がもっとしっかり追わねばならないのですが、緩い昭和の遺産がここにきて問題となり、この不明者の土地は田舎の再開発に大きな足かせとなっているのです。
持ち主が分かっているなら、持ち主の許可を貰ったり、あるいは買い上げることも可能ですが、不明の土地だと動かしようがないのです。
しかも、個人財産の保護の観点から、いくらその土地が長年放置され、邪魔になろうとも、“誰か”の土地であることは確定しているので、勝手に触れることもできません。
もっと役場が早いうちに追走していれば、どうにかなった事でしょうが、ここでもまたお役所の怠慢で足を引っ張られたわけです。
そこで、第二案として、時間はかかりますが、“農地転用の特別許可”を貰うことにしました。
道路の幅員等などの建築法絡みにより、新規で建築できない案件というのはかなりあります。そこで、県の委員会ではそうした案件を処理し、案件内容によっては特別に許可を出す場合があるわけです。
自分が狙ったのはそれで、時間はかかりますが、最終的には許可が下りる条件が揃っているとのことで、長くとも確実に建てれる委員会経由の許可を貰うことにしました。
そして、どうにか許可は貰え、遅ればせながら着工となりました。
結局、営農開始の初年度5、6月に完成予定であった倉庫は、次年度3月に完成しました。
九か月の無駄な時間に加え、委員会絡みで代理で事務処理してもらった司法書士への費用、余分に払うこととなったJAへの出荷手数料、資材の高騰などで、130万円ほどのマイナスとなりました。
特に資材の高騰が痛かった。この頃はオリンピック特需で建設ラッシュが続いており、建築資材が値上がりしている状態でしたので、半年のずれで5~10%の値上がりなんてざらでした。
営農初期の130万円ですから、かなりの痛手ではありましたが、破産するよりはマシかなと考え、堪えることにしました。
なにより、ここで更に騒ぎ立てたら、助けてもらった議員先生の顔に泥を塗ることになりますからね。先生も手早く動いて騒ぎを大きくしないために尽力してくれたのですから、その辺りはこちらも“忖度”しなくてはなりません。
相手側に非があるとはいえ、こちらはあくまで“よそ者”なのですから、村八分にならないためには、そうした配慮もまた必要なのです。
こうして畑、倉庫、作業場、必要な物が揃い、補助金も以後はスムーズに出るようになりました。
というわけで、皆さん、農業を始められたい方は、“金”と“土地”に関する案件は、たとえ相手に煙たがられようが、しつこいくらいに確認を取るようにしましょう。さもなくば、お役所仕事の影響で、自分の二の舞になる場合もありますから。
あと、人脈は最重要と考えてください。特に、地元の名士や顔役との渡りは最重要で、機会があれば必ず自分の顔と名前を売っておきましょう。いざという時の命綱にもなります。
以上で、何もない状態から、まともに農業を始めれるようになった経緯の話を終わります。
今後は、農業絡みの小話をいくつかしていこうかと考えています。
ではでは皆さま、次回もよろしく~。
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