土地集め、何より物を言うのは“人脈”である。
農家になたるため“技術”と“資本”の重要性は語ったが、これと同等に必須であるのは、何と言っても“人脈”である。
そもそも、農業は何はさておき“土地”がなくては話にならない商売である。畑を耕し、作物の種や苗を植え付け、それを育てて収穫する。ごく当たり前の工程であるが、その畑がなくては話にならず、その畑を持っているのが移住先の皆様方なのだ。
見ず知らずの人間に土地を貸すことなどまずない。自分も大いに苦労した。初期のころは土地集めに随分と苦労したものである。
農家開業の初期の土地は、親方農家とその親戚のお下がりからスタートした。と言っても、あまり使っていない畑で、癖が強かったり、排水が悪かったりと、扱いが難しい畑だ。
そのため、使っていない土地の開墾前提であるが、その土地自体がなかなか見つからない。理由は、よさげな土地を見つけても、どこの誰の物か分からないからだ。
では、どうするのか。それは地元民の集まるところに、積極的に顔を出して顔繫ぎをしておくことだ。
自治会を始め、人が集まる機会と言うものは、そこかしこに転がっている。初期のころは農地も狭く、作業の時間もそれほど多くない。それを逆用して、空いている時間を作り、地元民に顔と名前を覚えてもらうことに終始するのだ。
この時点で、のんびり農業ライフなどというものが、幻想以外の何物でもないことがお分かりいただけるだろう。土地を手にするには、とにかくコミュニケーションが必須。人間関係云々で田舎暮らしがしたいなどというのは、絶対に無理だということをご理解いただきたい。
自分の場合は、親方農家での研修中に、親方に方々の顔繫ぎをしてもらえました。周囲の農家から、普段利用することになるであろう各種お店、農家の集まりなどがそうだ。
個人的に動いて上手く入りこめたのが、地元神社の奉賛会だ。これがまたすごいところで、全員ご年配の方々ばかりで、50代、40代を飛ばして、ブッチギリで若い自分が加入したのだ。
間違いなく浮いた存在であり、“若い”労働力が増えたということで色々と駆り出されることとなった。
ここだけ聞けば、田舎のいつものパターンか、などと思われるかもしれませんが、この奉賛会加入によって劇的な変化がもたらされます。
結論から言えば、自分が確保した土地は、親方からのお下がりを除けば、奉賛会メンバーないしその親戚筋からのものだからです。
使っていない畑も多く、草だらけにしておくよりかは、誰かに使ってもらった方が土地の保全になるという判断もありますが、せっかく来た若いのを応援してやろうという気配りもあったのです。
これで劇的に土地の面積が増え、その後の大きな弾みとなったのです。
そして、これより最重要なことが、役場のやらかしによって危機的状況に陥ることとなったとき、それを全力で助けてくれたのも、奉賛会の方でした。
はっきり言えば、奉賛会に所属していなければ、移住者を呼び込んだ役場によって、移住者である自分が潰されていてもおかしくない状況でした。
どういうやらかしなのかは、次回お話いたしましょう。
とにかく、今回念を押して言いたいのは、「地元の方々への顔繫ぎは徹底して行い、作業の時間を削られようが、まずは“人脈”の確保に動け」ということです。
もし、田舎への移住を考えられている方がいましたら、この点は特に重視してください。田舎社会というコミュニティに入り込んだ“異物”が、異物のままか住人に変わるのかは、あなたの態度次第です。
そして、住人として認知された際の恩恵は、とてつもなく大きいのです。
~ 次話に続く ~
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