3月

春の到来を告げる3月。雪も解け、ここから一気に忙しくなります。


 まずは何と言っても、苗の移植が始まります。


 白ねぎの苗は『セルトレイ』と呼ばれる育苗用品で育てます。自分が使っているのは10×20列の合計200穴のセルトレイで、これに培土、種子(1穴に3粒)、覆土と仕込んでいき、温かい暗室に放り込みます。


 さて、白ねぎの種というやつは恐ろしくわがままな野郎でございまして、種から発芽させる際には暗室に入れておかなくてはなりません。要は、種の間は光を嫌う“陰キャ”なわけです。


 ところが、芽が出たと同時に光を好む性質に変化し、現世デビューした途端に派手好き“陽キャ”にチェンジしてしまうわけです。


 ちなみに、暗室の温度は20℃に保たれます。この20℃前後と言うのが、ねぎの最適成長温度で、これはどこまで伸びていこうと変わりません。むしろ、冬場の発芽はこれがないとなかなか出てこないので、暗室は本当に便利です。


 そして、発芽した種はビニールハウスの中に並べられ、そのまま定期的に水やりをしながら、冬を越します。


 なお、自分の農園で使用する水は『井戸水』で、地下から電動ポンプで吸い上げています。井戸水を使っている方はご存じでしょうが、井戸水は冬場は温かく、夏は冷たくなります。まあ、外気温の加減でそう感じるだけですが、これがあるため、苗が過酷な環境下でも育ってくれます。


 この3月に植える苗は12月頭くらいに発芽させたもので、それが植え付けれるくらいにまで成長するのが、3月なのです。


 天候が良すぎて、2月半ば過ぎ辺りで植えれたこともありましたが、基本的には3月に入ってからの植え付けとなります。そして、この植え付けラッシュは3月から9月末まで続きます。


 植え付け間隔は2~3週間ごとに一回くらいで、一度にセルトレイを50~70枚ほど植えていきます。年中収穫するためには、この間隔を空けて播種と植え付けを繰り返さねばならず、収穫する時期に合わせて品種も変えています。


 現在、自分の農園においては、年間八種類の白ねぎの種を使用しております。季節に合わせた特性を理解しておくことも、白ねぎ農家には必須でございます。


 農家を始めた当初は人力、すなわち手で畑に植えていました。真っすぐな線を引き、そこを少し掘って、そこに8㎝間隔で苗を一つずつ植えていました。


 今にして思えば、よく人力でやったなと思います。今は植え付け用の機械を購入(120万円)しましたので、この植え付けにかかる作業時間は4分の1くらいになりました。


 近代化万歳! マンパワーの節約と時間の短縮には、機械化は欠かせません!


 そして、その間も他のねぎの世話は続きます。中でも最重要な作業は『畝上げ』と呼ばれるものです。


 野菜を作った方なら分かると思いますが、野菜の苗や種をそのまま耕運した畑にぶっ刺すことは、あまりないでしょう。かならずこんもりと土で台を作って、そこに植えていきます。そのこんもりした台をうねと言いまして、野菜作りにはほぼ必須の工程です。


 そして、白ねぎにおいては、最重要の工程となります。なぜなら、以前にも説明しましたが、白ねぎの白い部分は光合成をできない葉であり、その光合成を妨害するのが土なのです。


 要するに、白ねぎの成長に合わせて畝の土を盛り上げていき、白ねぎが頭を残してどんどん土に埋まるように土で畝を上げる作業を、『畝上げ』と言うのです。これをやらないと、白いねぎはできません。


 この作業も年中やっており、ねぎの成長に合わせて土を上げていきます。苗を畑に植えてから収穫するまでに、おおよそ4回の畝上げが必要になります。


 かつてはこれを鍬でやっていたそうで、今では考えられない重労働でした。しかし、今は畝上げをするための機械があり、絶対必須なため、農家になってからいの一番に買いました(30万円)。


 また、2月の時に話しました『トンネルねぎ』のビニールを剝がすのも、3月の後半くらいです。この頃になると雪で潰される心配がなくなるどころか、ビニールの天井を突き破らんとする勢いで葉が伸びてくるため、さっさと外気に晒してしまいます。


 当然、これらの作業に加え、日々の出荷作業もこなさなくてはなりません。


 冬の間、暇していた分、一気に忙しくなりますが、この程度は序の口です。むしろ、日照時間が伸びて、作業可能時間的にはまだ“楽”な方なのですから。



           ~ 4月に続く ~

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