殺害記事No.死体吊り

「おーい、そこの浮浪者蹴り飛ばしてる若いの三人。ちょっとお兄さんと遊ぼうか」


 日が暮れ、帰宅ラッシュを過ぎた頃。俺と上川は地下の薄暗い駐輪場へ。トレイから貰った資料から『浮浪者』が重体・死亡と相次ぎ、上川が「取材半面、殺害を参考に間近で見たい」と出待ち。三時間待って姿を見せたのは二十も過ぎてない若い青年三人組。浮浪者をバッドで動かなくなるまで殴り、上川の声に振り返る。


「なにぃ、サツ?」


 悪気のない陽気な声に上川も「しゅざぁーい」と語尾にハートマークが付きそうな甘い声。


「SNSに投稿したらバズりそうだよね。いつも君達ってそうヤッテるの・・・・・・・? じゃあ、俺も――殺ろっかな」


 ニカッと子供のように笑うと上川は一歩踏み出す。向かってきた青年一人の腹を蹴り、落ちたバッドを拾うと力の限り振るう。痛みに苦しく泣き叫ぶ声。騒ぎ、怒号が飛び交うがものの数秒できっぱり止んだ。


「撮ったぁ?」


 バッドをバトンのように回し、死角で監視カメラを妨害している俺を見て舌打ち。


「撮ってねーのな」


 バッドを投げ捨て頭から血を流した青年を蹴る。


「あぁ……すみません。どうもハッキングしつつクラシックカメラを構えるのが出来なくて。あっ、初見か」


 惚ける俺。


「今、チョーカッコ良かったんだけど!!」


 拗ね、跳ね、ぐずり。俺に抱きつき「うぅ~」と幼子の様。


「肉眼では見てましたよ。流石ですね。神っちさん」


 誉めてやるも「嬉しくねーし」の一言。俺は死体に目を向け、じっと眺めては良いことを思い付く。


「神っちさん、もっと映えを狙いましょうか」


 駐輪場のゴミ置き場でたまたま見つけたワイヤー。それを天井の鉄骨に投げ遠し、死体を一人ずつ人力で引き上げる。一人、二人と横に並ぶように少し隙間を開けてブラリブラリと垂れ下がる中、三人目はまだ息があった。


 ――おや。


 それに気づいた俺は首にワイヤーを巻き付けた後、スマホを咄嗟に構える。


「神っち」


「よいしょっと」


 川上が一人で引き上げ、俺はもがき苦しむ青年をじっと見つめ間近でカメラに収める。


「うはっマジか!!とれだかぁー」


 喜ぶ上川。俺は声さえ聞こえぬほど夢中になっていた。


 ――あぁ、なんて楽しそう《・・・・》なんだろう。


 頬を伝う涙。苦しさに漏れる声。口を歪ませ、ワイヤーに手をかけるもブラリと力無く手が垂れ下がる。


 美しかった。

 花が枯れる様に息絶える彼の姿が――。


「良いのが撮れました。彼らには感謝しないと行けませんね。とは言え、このやり方。彼らがどなたかを殺したときのやり方なのですが……実に興味深い。他者が殺した殺害方法を素人の俺らがやるのは――面白い」


 撮った写真と動画を再生していると上川が俺の肩に手を置く。


「朔也、お前笑ってる。そんなに楽しかった?」


 頬をつねられ、「白状しろー」と肩を組まれる。離れろと振り払う。


「素直じゃないなー。じゃあ、三体と二人で写真と撮ろ。そしたら、小春、春春、小春ちゃんのことチャラにするからさ」


 嬉しそうにニコッと笑い、甘えるようにタブレットを強制的に渡される。受け取り、俺と上川の間に三体入るよう立ち位置を調整。「はい、乙」と変な合図と共に画面に触れた。

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