MISSION:91 始祖のエルフ

「パァちゃん、ルーちゃん、お弁当、美味しいした。ごちそうさまする~」

「エッヘン」

「ウチぁ手伝っただけじゃ。揚げ胡麻団子の作り方、知らんもん」


 ありゃあえもんじゃぁって、しみじみと呟くワワンパァ。


「ポーちゃん、あんこバタートースト、最高したっ」

≪どういたしましてぇ≫

「異世界スイーツも侮れませんな!」

「料理長に感謝じゃね!」


 アベルガリア城の料理長に手伝ってもらって、あんこは完成した。煮炊きの技術と砂糖と豆っていう単純な物なので、材料は知ってたからね。

 なので大問題の煮炊きの技術を丸投げした。


 僕が作ったら渋くて、美味しくなかったそうなので。だって茹でる水を途中で交換するとか、そんなの思い付かないよ。

 でもまあ想像通りの胡麻団子や、あんこの団子も作れたし良かった。


 あんこバタートースト&牛乳っていう、究極のコラボも堪能できたしね!

 まあ……僕はフーちゃんみたいに、連続で食べれないけど。胸やけしないのかなあ? コッテコテやでぇ?


「行くするー」

「もう行くん?」

「うん。距離ある。急ぐする」


 夕方には禊用の島に到着したいからって、食後の休憩もなく出発するみたい。お昼にはチョット遅いくらいの感覚だったから、5時間くらいは飛んでたと思うんだけどね。


≪疲れは大丈夫なの?≫

「平気ぃ」

「ではまたお世話になります」


 そんなわけで、そそくさテイクオフ。また同じくらいの時間は必要だから、日は落ちるかもってさ。

 高カロリーの食事は、ソレを踏まえてのことだったのかあ。10時間のフライトはキツそうだけど、この無人島で野宿は落ち着かないからかな。


 今が1時半くらいだとしたら、到着予定時刻は6時半辺り。夏なので日は高いけど、確かに微妙だね。


「疲れ、平気。問題……大問題、退屈っ!」

≪それはどうにもならない問題≫


 10時間もやることがない……フーちゃんが実家に戻るのを、あんなに嫌がった理由も分かる気がする。じゃあってことで、僕の世界のお話でもどうぞ。


「桃から?」

「そんなんあり得んわ!」

「ですがポーちゃんの世界ですよ? 魔力もないのに空飛ぶ人類ですよッ!?」

≪いいのいいの、童話なんだから≫


 暇つぶしにと紙芝居的に桃太郎を始めたら、序盤から話が進みません。魔力があろうとなかろうと、人は桃から生まれません。

 でも大盛り上がりです。だからやってしまった。


 ゴメン、桃太郎……ビーム出させちゃって。ちょ、ちょっとしたノリでビーム使わせちゃってゴメンね?

 でもビームは出る世界の人たちだから、受け入れられたよ。


 なんというか、常識が違うから感想も面白いね。


 カメは勝って当然だけど、コツコツ歩いて勝つとかはあり得ない。ってことだった。普通は飛ぶんじゃない? だって。


≪いやいや、飛ばないよ≫

「ポーちゃん飛ぶする。カメさん、アフターバーナーする思う」

「じゃよね~。絶対足ぃ引っ込めてゴォーって出すはずじゃ」

「ウサギは飛べませんからな。負けて当然であります」


 ヤバイことに僕の世界は、特撮の世界観に塗り替えられているみたい。ただ、竹取物語をやったら、光る竹から生まれる辺りでフーちゃんがキョドってた。エルフの伝説にも似たのがあるのかもしれないね。極秘のヤツ。


「ち、違っ、違うする! 最初、ひとり、世界樹、生まれるないあるする」


 って思ったら速攻で自爆するフーちゃん。素早く視線を交わす僕たち。


「うん。当たり前じゃね」

「いくらなんでもあり得ませぬな!」

≪そうだよー。僕がやってるのはおとぎ話なんだから≫

「そうあるする~。ないあるするぅ」


 みんなのフォローもバッチリです。もちろん僕たちの心の中はニヨニヨですが。まあフーちゃんも「ふぅ、セーフ」になったので、続きを話しながら平和な時間を過ごしたよ。


「着くしたっ。フィアフィア航空、お疲れ、お忘れご利用でしたー」


 かなりオカシイこと言ってるけど、ありがとうだね。


≪ホントお疲れさまだよ、フーちゃん≫

「ありがとね!」

「素晴らしい空の旅でありました!」


 あ、それは確かに。夕日に染まる雲海って、別世界にいるって思わせてくれるよ。これは異世界転生しなくても体験できるはずだし、見ておけば良かったかなって。

 なんて言えばいいのかな。銀世界にオレンジジュースぶちまけたような? 違うな。世の中がオレンジジュースで満たされてるとか? えっと、そんな感じ……。


 ……いい感じに説明できないカモ。


「ノスタルジックな気分になりますなあ」

「寂しいような懐かしいような。ほんでも世界が優しく包んでくれちょるわ」

「おー、暖炉、前、なる感じ」

「「それそれ!」」


 そうそれ。それだよ。ノスタルジック。覚えとこ。決してオレンジジュースがどうこうじゃあないよ! くそぅっ。


「今夜、のんびりする。明日、お酒風呂……入るする」


 臭いよ~とってもね~くーさいよぉ~。って変な踊りを披露するフーちゃん。相当嫌みたいだなあ。


≪じゃあせめて、今夜のご飯は豪勢にしようよ≫

「了解であります」

「ウチも手伝うわ」

≪じゃあ掃除でもしてようかな。あんまり使われてなさそうだから、ホコリが溜まってるし≫

「私、一緒やるする」


 小屋の掃除が終わったら、ご飯の前にお風呂かな。

 なんか発酵した樹液が、湧いてくる温泉に入ってるみたい。なので普通のお風呂に入るには、自前で用意するしかないかな。


 まずはフーちゃんがバフーっとホコリを飛ばして、細かいところは僕が分解処理。小屋の掃除くらいなら、十分な数の残機があるからね。食事の準備が整う頃には、キレイになったよ。


≪モードチェィィンッジ、バスユニーーットゥッ!≫

「ポーちゃんは変身が好きなん?」

≪好きだなあ。テンションが上がるよ≫

「お風呂になっただけですのに」

「ン。情熱、謎」

≪えー? みんなだって変身願望くらいあるでしょ≫


 ルァッコルォのカッコよさに、フォォォッてなってたじゃん。


「情熱、理解するした」

「確かに。初めて神威成かむいなりを使えた時は、狂喜乱舞した覚えが」

「ウチもポーちゃんに変形ロボのこと聞いて、ちょいちょい研究しちょるけど無理そうじゃわ」

≪やっぱり難しいかあ≫

「じゃねえ」


 開く閉じるとかなら可能だけど、そこにパーツが出たり入ったりくっ付いたり。その仕組みを再現するなら、身体を稼働させるための糸が邪魔になるってさ。

 そっかあ。オモチャなら関係ないけど、実際に作るとしたら配線とか、どうしたらいいのか分かんないもんね。


「単純に流線型のパーツを、カポッて被るんが早いわ」

「それ、ロマン、ないなるした、ね。私、運ぶする。手っ取り早いなる」


 変身のロマンは分かった。だけどやっぱりバスタブになって、テンション上がるのは変だってさ。

 そうじゃないよ。バスタブになることにテンションを上げてるんじゃなくてさ、変身の掛け声がカッチョイイのだ!


「必殺技の掛け声みたいなテンションなんか」

「おー、分かるしたっ!」

「それがしも必殺技が欲しいでありますなあ」

≪ルァッコルォのはカッコよさが群を抜いてる≫

「分かるわー」「分かるする!」

「決定打に欠けるのですぅ」

≪フーちゃんとワワンパァの攻撃力が、オカシイだけだよ……きっと≫


 ルァッコルォには、瞬間的な破壊力はないからね。連撃系だよ。それもまたカッコいいものだよ。

 僕にはカッコよさがないから、みんながウラヤマシイなあ。って言ったら慰められた。


「ポーちゃん、オッパイなるする。嬉しいなるする!」


 それはフーちゃんだけだよって、僕たちの声が揃った。

 でもフーちゃんは、えーホントにぃ? またまたぁ~、ご冗談を~。みたいな顔してるよ。


 お婆ちゃんのおっぱいを、信じておられますな。


「ところでそれがし、オイシイ匂いを検知しました」

≪今ぁ?≫

「今ですな」

「ルーちゃん、タイミング悪いするぅ」

「まあ、時期までは察知できんみたいじゃし、チャンスは残っちょるじゃろ」


 だけどそのオイシイ場所が、僕たちの不安を掻き立てた。


「……アベルガリア一帯であります」

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次回≪MISSION:92 悪辣≫に、ヘッドオン!

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