MISSION:64 英雄夫妻
僕らはこの老ドワーフに案内されて、応接室みたいなところに。話すことあるだろうしね。
「それがしたちは外しましょうか?」
≪思い出話とかもあるんじゃないの?≫
「いや、一緒で構わんよ。思い出なんかより、島ぁ取り戻すほうが先じゃもん」
「がははは、お変わりないようですな! しかしそのお姿も以前のままとは?」
今も昔も、思い出なんかより断然実利ムーブのもよう。でもワワンパァはかなり変わってしまってたんだよね……転生してダンマスだし。ここにいるのは本体でもないし。そんなことを聞かされてエーゴーァさんは泣き崩れてしまった。
「シャンとしんさいや! 隊長やっとるんじゃろ」
「ええ、ええ、そうですのぉ。ワシらの島ぁ、取り戻さんとのお!」
色々と聞かせてもらったけど、島が邪人に襲われてた時は王都に出張してたらしい。そのせいでワワンパァを守れなかったと後悔し続ける人生だったそうな。しかも邪人が我が物顔で指揮蟹島を支配してた。
だから王都の騎士団、特務機関と協力して邪人を殲滅したんだって。
でもその時にはドラゴンゾンビが生み出されてて、倒す手段のないまま時間が過ぎてしまった。ようやく討伐したころには島が汚染されてて、人が住めない状態になっちゃったそうだ。
でもエーゴーァさんはドラゴンゾンビ倒した英雄らしく、しかも浄化隊を結成した初期メンなうえ、今では隊長なんだって! お茶菓子を持ってきた部下が自慢気に教えてくれた。ストイックでカッコイイと評判の隊長だそうだよ。
ドラゴンゾンビ戦で傷を負ったから、前線に出られなくなっただけだって言ってるけど、それでも現場に残って、地味な作業を100年以上続けるのは尊敬しかないよね。
「復讐なんかより、ウチぁもう世界の守り手として動かんといけん。なー? フーちゃん」
「そう~」
「御立派ですぞ……むっ? おお、森の方々と行動を供にされておるのか! さすがじゃ、ワワンパァ様」
「バレる、したー」
≪強い人にはバレちゃうんだねえ≫
「うーん、それがしはまだまだということですなあ」
ちなみにワワンパァは王女とかではなく、族長の娘みたいだよ。しかもかなり強力な装備を作れる一族だったんだって。だから護衛も付いてたらしい。
分かりみ。だってワワンパァってば異世界のフンワリした僕の知識から、ちゃんと兵器を作り出してるんだもん。
スゴイよね! さすンパァ!
僕たちはダンジョンを利用して、島の浄化作業をしたいということを伝えた。ダンジョンなら大量生産も可能だし、僕なら大量に運べるしね。空からの散布もできる。
「まあそういうわけで、浄化剤を少し分けてくれんかねえ?」
≪一気に浄化が進むんじゃないかなと思ったんです≫
「なるほどのお。空からの散布というのは確かに有効じゃしな。おい、持ってきてくれぃ!」
「ありがと、エーゴーァ」
「なぁに、故郷のためですじゃ」
これで奥さんの所に行けますね、って部下にからかわれてるよ。その間に
地面に浸透してるから、除去するなら地形が変わっちゃうみたいだね。だとしたら毒性の動植物を、処理するくらいにしたほうがいいかな。地面は浄化剤に任せよう。
現在の浄化進行度は、島の3分の1程度だそうだ。人員も限られてるし、魔物もいるしで、歩きだからどうしても時間が掛かっちゃうみたいだし。
≪そういうことなら僕を使えば万事解決! 魔物も同時に処理できますし~≫
「助かるわぃ」
なんでもエーゴーァさんの奥さんが、休暇取れた時に空からの散布と魔物の討伐を手伝ってくれるそうなんだけど、元々忙しい人だそうで心苦しかったようだ。せっかくの休暇なのに浄化作業はキツイ作業だしってさ。
ちなみに奥さんもドラゴンゾンビ討伐の英雄のひとりなんだって。夫婦共に英雄かあ。
「ウチら以外で空中戦する人、ウチぁ聞いたん初めてじゃわ」
「どんな人、あるする~?」
おっと、フーちゃんが強者見つけてソワァってしてるゾ。
ほほぉ? 冒険者ギルドでギルマスやってんだ?
はぁ~ん?
チヒ?
ほーん?
≪ブーッ!?≫
「ナターリャあるする!?」
「なんじゃ、知っとるんか?」
「1ヶ月くらい前にチヒで動いとったんよ、ウチら」
「なんとッ! 元気にしとりましたかの?」
「元気元気! フーちゃんと
「ほうかほうか、元気じゃったら
ゴメン……いらんこと吹き込んでしまいました。フィギュアを爆買いしてるかも……ゴメンナサイ。
お詫びってわけじゃないけど、せっかくだし僕を分けておこうかな。
≪そういうことなら、僕を連絡用に持っててくださいよ。間に僕をはさみますけど、連絡が簡単になりますし≫
「どういうことじゃ?」
僕は分離可能で、それぞれの僕と連絡が取れることを説明した。チヒの僕はすでにナターリャさんのとこにもいるからね。今からでも連絡可能だし。あ、来たわ。
≪来月には休暇が取れそうですって、ナターリャさん≫
「ホンマに簡単なんじゃのぉ。そういうことであれば、ありがたく頂戴しとこう」
距離による不通はないのかもしれないなー。お試しで王都の僕とも連絡してみたら可能だったし。僕同士でなにかがリンクしてるんだろうね。
「ほんじゃあウチらは行くけんね。エーゴーァはもう自分のために生きてくれりゃあ
「ガッハッハ、ワシァもう青二才じゃないですけん、そんなからかいは無駄じゃあ。ワワンパァ様も壮健で」
「行くするー」
≪なにかあったら僕に連絡をくださいな≫
浄化剤も手に入れたし、島上空を回ってから海底遺跡に向かった。念のためにルァッコルォの魔力でも、コアルームが開けるようにしておかなきゃだしさ。
まあ基本は僕が運営するんだから問題ないと思うけど。
スカイアイズの中にみんなを入れて、潜航開始ー。服濡れちゃうからね。フーちゃんには空気担当をしてもらう。
≪ハイドロジェットエンジン、スタンバイ! 両舷前進第5戦速ッ≫
「始まるしたぁ」
「意味が分かりません」
「ポーちゃんのコレは流しておくのが正解じゃ」
≪雰囲気だからイインダヨォ≫
そもそも両舷じゃなくて上下左右に推進器が付いてるし、第5戦速がどんなのかも分かんないのです。
僕が気持ちよかったらそれでオッケーなんだから、こまけぇこたぁ言いっこなしでヨロー。
「ダンジョンに着いたら、フーちゃん頼むわ」
「まかちょけ!」
さすがに僕の中にいたら作業できないからね。今回は僕を支店長にするだけだし、海水は抜かない予定。あとはスカイアイズに作業を任せることになるよ。
さすがのフーちゃんも、3人分の空気の膜を作るのは大変ってことで、みんなを囲むように空気玉を生成してた。空気玉で潜水服作るのはできても、他人のは動きに合わせるのが難しいみたい。
それでも深海の神秘が目の前にあるんだから、ルァッコルォは感動してるね。
「うわぁっ! 凄いであります! 凄いであります!」
「ああっ、膜、ダメェ!」
≪アブナァ……≫
なんとか止められたよ。ルァッコルォは手じゃなく顔を膜の外に出そうとしちゃった。事前に説明しなかったのはマズかったぁ……。
≪ゴメン。危険なの言ってなかった≫
「そ、そうなのでありますか?」
≪うん。ここは深い場所だから水の圧力が強いんだ。だから生身だと……そのぉ……潰れちゃう。クチャって≫
「ぃひぃっ!?」
お魚さんは平気なのにって不思議がってる。僕も魔物じゃない魚が平気なのは、なんでなのか知らないよ。
≪人は生きられない環境ってことだねえ≫
「そんなところにポーちゃんは残るのでありますか?」
「寂しいするー」
≪え? 全然平気だけど? 海の魔物は魔石が大きいしぃ、オイシイ狩場だもん≫
「ポーちゃん、すでにいろんな所におるけえ平気なんじゃろ。独りじゃないっていうか?」
≪だね。全部の僕は繋がってるっぽいし。つまりみんなとも、常に共にいるってことぉ!≫
「終わったでありますか? お疲れさまです、パァちゃん」
「うん。チョイっと弄るだけじゃし、簡単簡単。あとはポーちゃんに任せる」
そう言ったワワンパァが僕に頭を下げた。ホントは自分でやりたかったんだろうな……故郷のことだし。でも効率を考えるなら僕がやるのがベストだし、ワワンパァにはダンジョンの経営っていう大事なことがある。そんな彼女に言うことは、1つだけでいい。
≪まかちょーけー!≫
「うん……うん!」
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次回≪MISSION:65 新しい翼≫に、ヘッドオン!
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